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罪の告白とカス(8)

特定の食品に対する侮辱を目的とするものではございません。

 半年近く潜りっぱなしのダンジョンアタックの末、地竜を討伐してダンジョンの生態系を改善した。なるほど、偉大な功績だし、ファンが盛り上がるわけだ。俺にとっては大迷惑な話だが。


「アンタらの信者からご親切(・・・)にも聞いたぞ。貴族位が報酬に組み込まれたらしいじゃねぇか。なんで断った? クエバ王国っていえば、ダンジョン大国だろ」

「まぁなぁ。あそこのダンジョンの全制覇も魅力的だけど、1つの国に縛られるのは性に合わないからな。名誉で特に義務も権限も無いとはいえ、貴族になると何かにつけて依頼を受けさせられそうでもあるしな」

「面倒になれば返納すればいいんだろうけど、別に権力は求めてないからねぇ。最近はこういうお誘いも減ってたのに、面倒だったー」


 面倒なら捨てる。それがコイツらだからな。まぁ、責任が取れない、取るつもりも無いから、最初から貴族位を辞退してるんだ。まっとうな選択だろう。


「アンタららしい考えだな」

「……棘があるなぁ」

「聞きたくないなら今すぐ出てけよ。それなら歓迎するぞ」


 俺、一言目に言ったぞ? 「今すぐ出てけ、クソ野郎ども」ってな。

 インシネラは困った感じで失笑するが、フルイルは不貞腐れたように半目になる。


「やぁよぉ。シオンの、“まともじゃないおもてなし”ってのを見てみたいんだもーん」

「チッ」


 かえって興味を持っちまったか。最近丁寧なおもてなしを受けたから、その落差を楽しもうってか。かーっ、気に入らねぇ。俺らをエンタメにしやがって!


「──ご期待にお応えして、“まともじゃないおもてなし”をしましょーか」


 イライラしてたら、キッチンからシオンちゃんが姿を現した。そっちが先に仕上がっちゃったか。でも、もう出来ちゃったなら俺も気になっちゃった。

 カウンターの内側、俺の隣に立ったシオンちゃんの手にあったのは、そこそこ膨れた茶色の紙袋。香ばしい香りがしてきた。改めて気付くような大きな揚げ音はしなかったから……あぁなるほど! さすがだシオンちゃん! 豚の脂の搾り身か!

 確かにこいつぁ旨い。食感も脂の旨味も最高にジャンクだ。明日の自分への罪の味がする。

 だが、腹は満たされない。豚から取れるけどほぼ肉じゃないんだから、食べても食べても満ちることは無い。暴力的な脂の旨味が食べる手を止めさせない。

 美味しいのに、満たされない。はっはっはっ! 新しい形の嫌がらせに打ち勝てるかな!?


「し、シオン、それは?」

脂カス(・・・)よ」

「「あ、脂カス!?」」


 何ソレ俺も知らない。

 6つの困惑の目に囲まれるシオンちゃんは鼻を鳴らし、冷めた目でまだ熱々の袋を見下ろしている。


「豚の皮付きの脂身を熱して、抽出した脂で身を揚げたものよ。豚肉の脂を絞ったカス。略して脂カス。人のカスの貴方たちにピッタリな料理でしょう?」


 言ったー! 俺に出来なかった貶し文句が、遠慮なく出てるー!! これにはカス呼ばわりの2人も項垂れているーッ!


「そ、それ料理か?」

「サラダって知ってる? ちぎっただけでも料理なのよ。ふざけてんの?」

「す、すみません」


 すげーシオンちゃん! 抵抗してきたインシネラを威圧で小さくしたぞ! 


「ど、どうして紙袋で渡してくれたの? ここで一緒にお喋りしながらじゃ、ダメ?」

「ダメ。いきなり来て長居するって、ウチは酒場(バル)じゃないんだから。迷惑なの」

「う……そうだよね、ごめんね」


 うおおっ! あんまり謝らないフルイルにも頭を下げさせたぞ! だよなぁ! 連絡も寄こさないくせに長居するなんて、非常識だ!


 一度はカウンターに置いた紙袋を持ち上げると、シオンちゃんは凍らせ屋の受付側の入口に向かった。


「どうぞ、お帰りください。私たちは2人の時間を過ごすのに忙しいから」


 シオンちゃぁあああんっ!!! カッコいいし愛しいよぉおおおっ!!!

 図々しい2人もさすがに無理だと観念したか、顔を見合わせたインシネラとフルイルはシオンちゃんに勧められるまま入口に移動し、紙袋を受け取った。


「悪いことをしたな。いくら親子だからって、確かに遠慮が無さすぎた。今日のところはこれで帰るよ」

「次はお喋りしようね! あ、これから寒くなる一方だし、結婚祝いの熱石、ちゃんと活用してね」

「……ありがとう。次なんて無いけど」

「あっはは!」


 シオンちゃんの憎まれ口を笑って流したフルイルは前を歩くインシネラと共に外に出ると、律儀に見送る俺たちを振り返った。


「おもてなしありがとう! 刺激的で楽しかったよ!」

「宿屋で楽しませてもらうよ。お土産ありがとう」

「二度と来るなよ」

「はっはっはっ! 次はドラゴンの革を持ってくるな」

「ダンジョンから戻ってくんな」


 これもまた笑い飛ばしたインシネラは、フルイルと一緒に俺らに手を振って──まだ目の前に居るはずなのに、見えなくなった。


 認識阻害の魔法を強めたんだろう。周囲に少しだけいた通行人は何も気づいていないようで、数人が入口で黙って立っている俺らを見て首を傾げていた。……視線の先を見ても、何もないよ。気にさせちゃってスミマセンね。


肉かす

静岡県富士宮市のソウルフード、富士宮焼きそばに欠かせない素材。豚の背油を高温で熱してラードを抽出して残ったもの。カリカリした食感で、旨味やコクが濃縮されたもの。

本作では豚肉を使っているため解説しました。


アンダカシー 

沖縄の郷土菓子。ラードを抽出した残りかすの皮を、ラードで揚げて作る。アンダ(油)カシー(残りかす)。糖質ゼロ・高たんぱく質・コラーゲン豊富のスナック菓子。

本作では皮まで使っているため解説しました。


油かす

大阪の南河内地方で親しまれてている伝統的食材。牛の小腸ホルモンを低温でじっくり揚げ、旨味を凝縮させている。活用例として、かすうどんが有名。

牛由来ですが、漢字表記が違うだけで名前をお借りした食材なので解説しました。作中キャラへの罵倒として用いましたが、食材に対する侮辱を目的とするものではございません。


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