罪の告白とカス(7)
インシネラの火と風、フルイルの水と地。それを受け継いだ子供を期待して生まれてきたのが、熱属性が適性の俺だったってわけ。
お前らの都合よく生まれるわけないだろうが。そんな簡単なら、世の中は3つ4つどころじゃない魔法属性適正者で溢れてるっつーの。
「とにかく、俺は今もアンタらに迷惑を被ってんだから、水に流すことは出来ない。つーか、そろそろ“凍らせ屋のフェルティ”で上書きできそうだったのを、また街の人たちと冒険者どもにアンタらとの繋がりを思い出させた時点で、こっちの怒りもぶり返してんの」
「……引っ越しは、考えなかったのか?」
「あんたら冒険者とは重みが違うんだよ。せっかく領主と仲も良いのに」
少なくとも、エノールミ男爵は俺を搾取することは無いし、弟子の募集をかけてくれたり、長い目で見てくれている。まぁ一番は揚げ油の融通だけど。
俺から目を逸らして気まずそうなインシネラに対し、なおも気にしてなさそうなフルイル。なんで俺の言葉が響かねぇの? 昔より人の話聞いて無くない?
「そうそう! 領主で思い出した! フェルティ、弟子を取ったんだってね! 今日私たちに凍らせ魔法を教えてくれたレティセンがそうだって、他の子が教えてくれてね」
はぁ、笑顔で何を言い出すやら。その言い方は、レティセン本人からは聞き出せてねぇじゃん。
あぁ、畜生、この話の流れは、帰りにレティセンから聞いたアレが来るか。アンタはホントに俺の自尊心を壊すのが得意だ。
「見てみて」と言いながら、フルイルは魔法で水を出現させ、浮かせ……。一瞬で、凍り付かせた。詠唱も無しに。
「昔、フェルティが教えてくれたのは『水の熱を奪う』やり方だったね。あれは私には難しかったけど、フェルティが水属性向けに編み出した『水の“動きを止める”』って考え方は馴染んだよ! 確かに行程も魔力消費も多くなるけど、たったそれだけで氷を作れるのなら安いもの! すごいよフェルティ! ありがとう、活用させてもらうね」
アンタの為じゃない。エノールミ領に一年中、氷を広く提供する為の投資だ。俺が弟子を取って、近い未来、楽をする為のものだ。
「……アンタには負担は少ないだろうが、レティセンが一度倒れたくらいには、水属性適正があっても扱いにくい魔法のはずだ。A級冒険者のアンタに憧れている人間は多い。必ずマネをしようとする人間は現れるだろう。だから、アンタらは指導するな。俺を紹介してろ。死者を増やしたくなければな」
……本心じゃないところで警告しても、恐ろしい発言をしてしまったな。現にフルイルは「あら大変」と右手を頬に当てた。
「忠告ありがとう。ねだられても私からは指導しないで、フェルティを紹介するね」
「その時は、俺がアンタらの血縁者ってのは言うなよ。ナメた態度の弟子は要らねぇ」
「分かった。『エノールミ領の凍らせ屋さんから教わった』って言うね。自分だけでやろうとしたら魔力不足で倒れるってとこまで。それでいいよね?」
「それで頼んだ」
本気で凍らせ魔法を習得したいなら俺の所にやって来るだろうし、こいつらから教わりたいだけなら諦めるか、粘着するだろう。責任? こいつらが人前で凍らせ魔法を使わなきゃいいだけだ。
俺とフルイルの会話を静かに眺めていたインシネラが、「あー、そうだった忘れてた」と言って、背筋を伸ばした。
「フェルティ、だいぶ遅くなったが、結婚祝いと開業祝いを持ってきたんだ。シオンと、弟子たちにお裾分けするといい」
そう言ってインシネラはウエストバッグから巾着袋を取り出し、ぱんぱんに膨れているそれをカウンターに置いた。手で指し示されたから開けてみると、オレンジかがった赤い石がコロコロと詰められていた。
「コレは、いったい……?」
「火炎竜の火吹き袋っていう器官から採れる、熱石を小さく砕いて磨いたものだ。手で握ったりすると暖かくなる。ブレスレットとかに加工して、手を温めると良い。魔法を長時間使っているなら寒いだろう?」
「懐かしいわねー。頑張って凍らせ魔法を特訓してるのに、寒くなっちゃって中断せざるを得ない瞬間があったわよね。覚えてるわ」
アンタらは自分たちの手に負えない分野だからって、見ることしかしなかったからな。あの頃の俺なら今よりコイツらの手を借りたくなかったろうけど。
「……何が、目的だ?」
正直、物に罪は無いし、お祝いなら素直に受け取っても良いんだけど。コイツら、俺のとこに顔を見せるたび、謝罪のつもりなのか何かしら手土産をくれるからな。もう顔を見せなくていいから物だけ郵送してくれよ。
インシネラが頬杖をついた顔を下に向けて、苦笑した。
「目的なぁ。単にお前の顔を見たかったんだよ。いつ死ぬか分からないからな」
「さすがに、今回のダンジョンアタックは大変だったからねー。半年も潜りっぱなしは色んな事が大変だったわよ」
それは、確かに大変だな。食料から睡眠、衛生も。陽の光を浴びられないのも気が滅入るだろう。A級冒険者のこの2人でそうなんだ。確かに、崇められワケだ。




