罪の告白とカス(5)
フェルティ視点
木曜日は南地区を回る。早朝の漁港から始まって、薬師ギルドをまわり、診療所や肉屋、魚屋をまわって、金属製の箱に入った水を凍らせていく。
気温につられて水温も下がってきたから、仕事が楽になってきた。コートを着てても変な目で見られることも少なくなってきたし、本格的に寒くなる頃には北の地域からでっけぇ氷も来るし。おかげで秋冬は好きだ。シオンちゃんは春夏が好きだから、1年中俺の好きな季節だけどさ。
魚屋に氷を納品して、馬のテロホと騎手のバラトと一緒に南地区の広場で昼休憩していたら、バタバタと走る足音が耳に入った。自然とそちらに目を向けると、走っていた人物はナバーで、あっちもこちらを見ていた。やがて俺の前まで来ると、膝に手をついて荒い息を整え始めた。
「どうしたんだ、ナバー」
「はぁ、はぁ、ふぇ、フェルティ兄ちゃん! あいつらが、今更、来やがった……!」
息を乱すナバーが小さな声で、しかし圧を強めて放った発言に、血の気は引いて、腹から吐き気を伴う熱が沸いてきた。
「……教えてくれて、ありがとな。よければ、シオンちゃんにも教えてきてほしい。あと、アイツらは今どこにいる?」
「シオン姉ちゃんにはもう言った! で、アイツらは多分、レティセン先輩と一緒に、冒険者ギルドに行ったと思う!」
「レティセンと?」
そこで息を整えたナバーが、初めから説明してくれた。
ナバーは湖の中で、レティセンは湖のそばで。それぞれ凍らせ魔法を練習して、その成果を報告しあっていたら、いつの間にか戻ってきていた俺の血縁の両親が話しかけてきた。
ナバーは気に入らないからとさっさと撤退したが、真面目なレティセンは逃げられず、凍らせ魔法を教えることになってしまった。
「漁港まで泳いで上がったら、どっかに移動する3人の背中が見えたんだ。だから多分、人目の多いギルドに行ったんだと思う! 宣伝になるからって!」
「お前らが俺ん家以外で練習してるのは、また別で叱るとして……」
「あ。」
「情報、助かった。心の準備が出来てるか無いかじゃ、違うからな」
「お、おう。……ん?」
「ん?」
首を傾げるナバーに、こちらも首を傾げる。何か気になることでもあるか?
「フェルティ兄ちゃんも、怒鳴りに、行かねぇの?」
「え、なんで? 避けるなら分かるが……」
なんで俺が子捨て野郎どもの為に労力を割かなきゃいけないんだ。もう二度とアイツらの顔を見なくて済むなら、そういう人生がいい。
「アイツらは人気者だからな。冒険者ギルドに行ったなら、A級冒険者に憧れる奴らに話をしてくれって捕まってるだろう。何しに領主街に入って来たか分からんが、わざわざこちらから出向く必要は無い。だから、アイツらが今この街にいるって知ってれば、それでいい」
「……そっかぁ」
「急いで知らせてくれて、ありがとうな。おかげで発狂せずに済んだ。シオンちゃんにも報告してくれたのは助かった。実家の方にはこれから向かうから、俺から忠告しとく」
「お、おう……。じゃ、俺も巻き込まれない内に帰るわ!」
「あぁ、気をつけてな」
眉を顰めた怪訝な顔をするナバーが帰るのを見送ったら、そこの屋台で買った赤パプリカとチーズとハーブで香り付けした焼きテンチをバゲットで挟んだボカディージョを、噛み砕くように食らった。あぁ、アイツらが近くで同じ空気を吸ってると思うだけで、イライラしてきた。
「騒がしくしてすまんかったな、バラト」
「いえいえー。……あのー、アイツらって、フェルティさんの、血縁のご両親っすか?」
「ん? あー、うん」
バラトもこないだ厄介ごとに巻き込まれたし、簡単に結びついちゃうよなー。ホント、あいつら嫌い。
「何しに帰って来たんすかね? ヴィシタンテはもう過ぎちゃったのに」
「それ。まぁ、アイツら気紛れにいらん気遣いというか、筋を通したくなる時あるから、一応謝りに来たんじゃね?」
「そうなんすね。でも、不思議っすね。あんな有名人、来た瞬間から話題になりそうなもんっすけど」
「認識阻害の魔法を使ってんだよ。街中でもそうだし、ダンジョンアタックが大好きな二人だから、格上の気配っつーので討伐対象に逃げられないようにな」
「へぇ、そんなのあるんすね。隠密系の魔法かー。ちょっとかっこいいっすね」
俺も、あの2人が使ってなかったら、カッコいいって思えたかもな。
「アイツら、俺とのかくれんぼでも使ってきやがったから、アイツらが使うのは嫌いなんだよな」
「あははっ、大人げなさすぎー。……え? 5歳くらいの子供を相手に?」
「いや、3歳児相手に」
「ヒェッ」
負けるのが嫌いだっていっても、子供相手にあれは無いだろ。森林系ダンジョンの中ですることじゃないし、幼い子供1人置いていくんじゃねぇよ。何が『頭上にも注意を向けろ』だ。木の上から見守ってたからって許されるとでも思ってんのか。殺す気か。




