罪の告白とカス(4)
レティセン視点
「ずいぶんなゴアイサツだぁなぁ、クソ野郎ども! A級冒険者様ともなると、名乗らなくてもご奉仕受けて当然ですってかー?? ドラゴン倒すことばっかり考えてるから、人間に対してこんなド欠礼をかませるんですかー???」
侮蔑と怒りが存分に込められた声と、言葉と、目。
向けられたわけではない俺でさえ苛立ちを覚える発言。しかしインシネラもフルイルも、何かに気付いたように目を丸くし、気分を害するどころか柔らかく微笑んだ。
「見覚えのある顔だと思ったら、ナバーだったのか! いやぁ、大きくなったなぁ!」
「本当! あんなに小さかった子が、こんなに立派になっちゃって」
「うっざ」
まるで親戚のような言動をするインシネラとフルイル。対するナバーは感情を言葉と共に吐き捨てた。インシネラはご機嫌に笑い飛ばす。
「はっはっは。これまた激しめの反抗期だな。フェルティを思い出すよ」
「自立心の目覚め。素敵ねぇ」
「はーーーーあっ」
大きな溜め息を目の前で吐いて、礼儀を欠くどころか捨てているナバー。そんな彼に対し、反抗期の一言で許しているのは、寛容なのか、見る目が無いのか。普段の彼を知っている身としては、コレは本気で嫌悪している態度だと分かって肝が冷えているが……。
まさか、この上からな態度をフェルティ師匠にもやっていたのか? この年頃なんか、おちょくられたと取って反抗期関係なく反発するだろう。あぁ、嫌われるのも分かる。
機嫌よく笑っていた彼らは一呼吸置くと、俺にも目を向けて友好的な笑みを見せる。
「確かに俺たちは驕っていたようだ。失礼したな。俺はA級冒険者のインシネラ。『四属性』の片割れだ」
「同じく『四属性』の片割れ、A級冒険者のフルイルよ。よろしくね」
「……C級冒険者のレティセンだ」
しっかりと名乗られたのなら、俺はきちんと対応しなくては。敬語までは使ってやらんが、冒険者ギルド憲章に『下の級は上の級の妨害をしてはならない』とある。門外不出な技術ならいざ知らず、広めることが目標の凍らせ魔法を『四属性』の2人に教えないのは憲章に反する。結局、指導しないといけないな……。
「それで、教えてくれる?」
「はっ! やなこった! 俺は降りる。レティセン先輩も相手にしなくていいっすよ!」
「しかし、そういうワケには……」
「じゃあ大体でいいよ! だって、天下のA級冒険者様だもんなぁ! ちょっとヒント貰えたら、直ぐにコツ掴んで氷作れるって! なんたってAェ! 級ぅ! だからなぁ!」
ちょっとくらいは残される俺の立場も考えてくれてもよくないか?
当てつけるように『A級』を繰り返して、湖へ戻ろうとするナバー。それをフルイルは軽い調子で呼び止めた。
「ちょっと待ってよナバー! 久しぶりに会ったんだし、もう少しお喋りしようよ」
「うるせぇ!!」
湖に足を付けたナバーが振り返り、その目に乗った怒りそのまま、声に乗せた。
「“ヴィシタンテ・エノールミ”の時に戻ってこなかったお前らと、話すことなんかねぇんだよ!!」
怒鳴りつけてきた内容に、フルイルもインシネラも、俺も身体を硬直させた。……そういう事になるか。確かに、成人しているとはいえ、彼らの子供がいるこの地に、戻ってこなかった。
……いや、まぁ、それを言われると、俺も長年戻ってこなかったのだが。所属パーティの目標達成の為に国外をまわっていたとはいえ……。今更ながら、大変申し訳ない。
若々しい潔癖に殴られて俺まで気まずい思いをしていることに気付いたらしいナバーだったが、言葉を取り下げる事はなく、湖へと戻っていった。
その影を見送った後、インシネラは首の後ろに手を当てて、不満げな声を漏らした。
「仕方無いだろう……? 地竜討伐依頼でダンジョンに潜ってたら、とっくに過ぎていたんだから」
「ダンジョンアタックしてると、時間感覚が鈍るのにね」
そこで一言目に謝罪ではなく言い訳が口から出てくる辺り、配慮が足りない馬鹿という評価は、ズレていないのだろうな……。
「それにどうせ、デメトリオの雷で1発だろ? 俺たちの存在意義を感じないんだよな」
「暫くお肉が食べられなくなるのも、消費が義務なのも困るしねぇ」
そんなこと、誰も訊いていない。今は彼らの周辺に俺以外の誰もいないから助かってるだけだぞ……。
「なぁ? レティセン君もそう思わねぇ?」
「……ギルドの解体場に向かうぞ。そこで凍らせ魔法の説明をする」
1発で終わる云々には黙秘を貫く。思う分には許されても、それを口にするのは違うからな。
それから、どうせ教えるなら、より耳の多い場所の方が良い。
よくよく考えてみれば、A級冒険者が興味を持つ魔法には、注目が集まって当然だろう?




