罪の告白とカス(3)
レティセン視点
師匠のフェルティとその妻シオンの兄、ウティリザから話をされたのは、もう2ヶ月近く前の事だ。
「フェルティの血の繋がった親は、A級冒険者のインシネラとフルイル。夫婦そろって“竜殺し”っつー、規格外なコンビ、『四属性』って言えば、分かりますか?」
「……驚いた。国で1・2を争うトップランカーじゃないか」
インシネラは火と風属性を、フルイルは水と土属性の魔法が使える。合わせて『四属性』という、直球なパーティ名だ。俺が耳にしただけで、7体はドラゴンを討伐していたはずだ。
「彼らに子供がいる噂は耳にしていたが、まさかそれが、彼だとは……」
しかしその子どもの成長話を聞かないから、どこかに預けたか、モンスターに命を刈り取られたかと思っていた。預けられた方で良かった。……迎えに来なかったのは、そういう事だろう。
「あいつらは急にやって来て、フェルティと金を雑に置いていきやがった。そりゃあ、あの頃のフェルティはモンスターの前だと腰抜けになるやつだったよ。エノールミじゃ見ないタイプの度胸の無さだった。だから俺ん家に預けってったのは一つの愛のカタチだろうよ。……だからって、フェルティに一言も言わずに置いていくってのは、親失格だろ!」
「顔も滅多に見せに来ないし!」と続いて、それは確かに不道徳だと同意した。ウティリザが憤るのも納得だった。
「何が最悪かってあいつら、こっそり預けたんじゃない。フェルティを預かってくれる家を、いろんな奴にフッツーに声かけて探し回りやがったんだよ! どういうことか分かります? フェルティの顔が、フェルティが冒険者に向いてないって話が、このエノールミ領で広まったってことなんすよ!」
「っ、嘘だろ……? この、大半の子供が冒険者の仮登録をするエノールミ領で……?」
隣接する湖のダンジョンだけでなく、領主街から南側の山にもダンジョンがあるエノールミ領。モンスターと戦うことを当然とする精神性は、生まれた時から環境が叩き込む。故に、領主街生まれではない俺も、登録が許される6歳から冒険者の仮登録を行い、12歳で本登録もさっさと済ませた。
それが当たり前のこの土地で、“冒険者として不適格”と烙印を押された子供が、わざわざ、外からやってくる。どんな目に合うのかなど、火を見るより明らかだ!
ウティリザが机の上に乗せた右手で力強く、無念を握り締めた。
「……何が悲しいってよぉ、フェルティは自分が冒険者に向いていないことを自覚してた。だから、するんだよ。『そんなの言われたって、俺は痛くも痒くもない』って顔をよぉ。でも絶対傷ついてた。それでも、シオンと遊んだり、自分の魔法に向き合うことで、悪意から目を逸らしてやり過ごしていた。……エノールミ領じゃなかったなら、しなくていい気苦労を、アイツはしちまった」
思いやりの無い、無神経で、ずっと強者であった両親のせいで。
離れていても、A級の彼らが果たす偉業が、その子どもであるフェルティに周りからの落胆の視線という負担を強いただろう。凍らせ屋として活動を始めてからは、そこに嫉妬と、やはりモンスターと戦おうとしない軟弱者という嘲りも乗った。……シオンが繋ぎとめていなければ、フェルティはあっさりとこの地を離れていただろうな。
下げていた視線を再び俺に向けたウティリザは、痛みを我慢するような顔で口を開いた。
「先輩も、冒険者だ。A級のあいつらに少しくらい憧れの気持ちを持ってただろう? だから、知っていてほしい。あいつらは、配慮の方向がズレていて、周りをイライラさせといて、自分たちを優しいと思い込んでる、悪人じゃない馬鹿野郎どもなんだって。完全には憎み切れない、厄介な奴らなんだって!」
……それは、厄介だっ!
青みがかった黒髪に茶色の瞳の男と、金色の紙に明るい海色の瞳の女。どちらも俺より少しだけ年上に見える。ギルドの解体場に頻度高めに出入りしている俺が見たことないということは、つい最近入ってきた冒険者なのだろう。
ダンジョンアタックの予定は無いのか、軽装だ。身に着けている装備といえば、籠手と、膝まで守るブーツ。末端にも気を抜かない表れか、ドラゴンの鱗が隙間なく張り付けられている。恐らく己たちで狩ったドラゴンの鱗だろう。そういった装備一つで相手に威圧感を与えるのは、冒険者の習性のようなものだ。
「水属性でも氷を作れるなんて、革命よ。ねぇ、私にも教えてちょうだい?」
「氷を作れるようになるなら、ドラゴン討伐の戦略の幅が広がるな。頼むよ」
何だ、こいつら。熱属性でも氷は作れていた。それだって革命だろう。……分かっている。筋違いだってことは。だとしても、憤ってしまう。
どうして、フェルティ師匠の親であるお前らが、彼の偉業を思い出そうともしないんだ。
さて、どうしたものか。師匠からは他者に勝手に指導するなと言いつけられているが、俺たちからこいつらを師匠に案内するのは御免被る。
俺の耳にも入っているぞ。この2人の称えられるべき功績と、その話によって困った事態に陥ったフェルティ師匠の災難。
勝手に指導して説教を受けるのと、師匠の下へ案内すること。どちらが嫌か。当然、『四属性』の2人を師匠に合わせること。仕方ない。デタラメにならない程度にあいまいに……。
その時、ナバーが柵に噛みつくように凭れかかった。
「ずいぶんなゴアイサツだぁなぁ、クソ野郎ども!」
次話は一日空けて投稿します。




