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罪の告白とカス(2)

レティセン視点

 10月16日、木曜日。大きな予定の無い日は、エノールミ湖のそばで水属性魔法で氷を作る訓練をしている。大量の水のそばだと水魔法が使いやすいというのと、パフォーマンスをかねてだ。

 (おとうと)弟子を一人でも多く迎えたくてやっているが、フェルティ師匠に無許可だから、バレたら大目玉だ。しかしこちらも領主からの依頼を果たす為には、なりふり構っていられない。


 今日はよく晴れている。湖から蒸発した水分を風魔法で寄せて、湿った空気に自らの魔力を溶かして支配下に置いた。それらを連れて木陰に移動したのは、太陽の下では冷やせるものも冷やせないからだ。


 平日の公園にはほとんど人影は無い。それならそれで魔法に集中して取り組める。

 さあ、訓練を始めよう。


「湿気よ、1つに纏まり、水になれ」


 まずは湿気と魔力を水に変化させる。次々と変化して浮かぶ水の玉が求めている量となったら魔法を止めて、5つに分裂させた上で、次を発動させる。


「水よ、自身の動きを鈍らせ、冷えろ」


 浮かばせたままの水は揺らめかせていた表面を大人しくさせ、パッと見ではこぶし大の透明の玉が5つ、浮かんでいるようにしか見えない。よし、仕上げだ。

 5つある水の玉のうち、1つに指を差し、魔法をかける。


「冷水よ、凍れ」


 指から魔力を受けた水の玉は、中心から凍り付いていく。うっすら白く濁った塊が水の玉の中で成長していく。10を数える間に表面まで凍り付き、ほんのりと冷気を放つ。ザラザラとした表面のそれを持つと、緩やかな凹凸を手に感じる。短時間で凍らせるとどうしても空気が抜けきらず、白っぽくなってしまうな。


 氷の玉はそのまま浮かせて、次に進む。指さす先には、水の玉が2つ。心配性の師匠の前では、絶対に出来ない訓練だ。


「冷水よ、凍れ」


 ぐっ、1つだけだった時より魔力の持ってかれ具合が違うな、相変わらず。しかし、そのおかげで2つは同時に凍り付き、氷の玉へと変化した。

 両手で持って感触を確かめると、1つの時とほぼ同じ硬度だろうことが伝わってきた。ぶつけ合っても、ガチンッ! と音を立てて手に衝撃が跳ね返ってくるだけで、氷の玉自体には大きな亀裂などは入っていなかった。


 ぶつけたところだけ傷ついた氷の玉を浮かせたら、湖の方からバシャッ! と何かが水面の下から突き破った音がした。


「ふーっ! ブルブルブル……。あ゛ー、危なかった」

「っ、ナバー?」

「んぁ? あ、レティセン先輩だー」


 水面から顔を出したのは、水属性魔法の天才、ナバーだった。俺の弟弟子でもある彼は湖の縁まで泳いで来ると、角度のついた石垣を上って、湖と広場を分ける転落防止の柵に寄りかかった。俺も水と氷の玉を引き連れて木陰から出た。


「聞いてくださいよレティセンせんぱーい! 氷の槍を作る練習で湖で泳いでたら、ポタモゲトンに足が絡まっちゃってー! それはまぁ水刃(すいじん)でちょん切れたけど、魚の群れに通りすがりにぶつかられて、危うく色んな魔法が解けそうになったんすよー!」

「色々聞きたいことはあるが、まずは、ケガは無いか?」

「心配ありがとうございます! 大丈夫です!」


 若者らしいはつらつとした笑顔で、無事を報告してくれるナバー。水泳用パンツしか身に着けていない体には、真新しい傷は見当たらない。

 ポタモゲトンは水草だ。そこそこ長く伸びる植物で、群生して揺蕩う姿は見る分には美しい。しかし、そこを泳ぐとなると、なるほど、身体に茎が絡むと簡単には解けなさそうだ。とはいえ、絡まったという足には鬱血痕も見当たらないから、ナバーはよほど冷静に対処したのだろう。魔法で水中でも呼吸が出来るのが要因か。


「危なかったというのは、魚群の体当たりか」

「そうっすね! 新しく開発した、全身ぬめぬめにする魔法をかけてなかったらズタズタだったっすわー」

「全身、ぬめぬめ……?」

「触ってみるー?」


 差し出された腕に指先で拭うように触れてみると、とろっとした滑りが、指の間から垂れた。


「うわっ」

「あっ! シツレーしちゃう!」


 思わずすぐそばの水の玉で手を洗ったら、当然のようにナバーに叱られた。正直すまなかった。


「これ、どうやってるんだ? 何がきっかけで閃いた?」

「水中呼吸の時と一緒! ウナギとかウツボとかの、ぬるぬるする魚はなんでそれがあるのかってのを観察して、防御と攻撃だと理解して、魔法で再現しただけ。生臭さだけは真似しなかったけどね!」

「賢明な判断だ」

「魔法だから、服の上からでもぬるぬるさせられるよ! レティセン先輩もやってみてね!」

「検討しよう」


 虫系のモンスターに集られた時など、トラップとして使えそうだな。素早さを下げられるうえに、対象が呼吸が出来なくなれば討伐しやすくなる。


「それにしてもレティセン先輩、氷の玉作るの、上手くなりましたね! 前に見たときは3個作って疲れちゃってましたよね」

「そう言われると、急成長した気になるな。今日は2つを一気に凍らせられたぞ」

「すげー! 一気にやって、いつもの硬さでしょ? レティセン先輩も水属性の天才じゃねー?」


「──へぇ、氷じゃなくて、水属性なの」


 気配を微塵も感じなかった。認知しても異様に気配が薄い。街中にいていい気配じゃない。背後へ振り返りざまに風魔法を発動しようとして、人の形をしていたから踏みとどまった。


 人型は2体。青みがかった黒髪の男と、澄んだ海色の瞳が印象的な女。親しみの持てる色味に反して、俺の脳裏に過ぎったのは、ウティリザからの警告だった。


(こいつらナバーがローション魔法を開発したことに気付いてないぜ脳筋すぎププー! とか言えない空気……)

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