罪の告白とカス(1)
10月15日、水曜日。シオンちゃん特製の夕飯をいただいていた俺は、かねてより抱いていた疑念を確かなものにした。
……シオンちゃんを疑うなんて、断腸の思いだが。でも俺の考えの通りなら、大した秘密じゃない。さっさとここで暴いておこう。
シオンちゃんが豚肉のステーキを食べきったのを見届けたら、いたって普通の世間話をするように声をかけた。
「ねぇシオンちゃん」
「んー? なぁに?」
「最近豚肉料理が多いけど、何を企んでるの?」
「た、企み?」
「うん。豚肉の脂身で、何をしたいのかなって」
「あちゃー、気付いてたかー」
うん。ここんとこ1日置きに夕食が豚肉のメニューだったからね。ステーキ、トマト煮込み、蒸し豚、マカロニと豚ひき肉のグラタンに、ごろごろ具材のポトフ。そして今日またステーキに戻ってきた。さすがに何かあると確信するよね。それから……。
「実家に氷を納品するとき、シオンちゃんが皮付きで脂身多めの肉を買ってったって話も聞いてたからさ」
「それも、お母さんに見抜かれてたかー」
そうは言うが、本気で隠すつもりだったなら別地区の肉屋で買ってただろうし、バレた今もそこまで深刻そうじゃない。
さて、話を戻そう。
「それでシオンちゃん、豚肉の脂身で何をしようとしてるの?」
「むー、まだ検証不足だから、秘密にしときたかったんだけどなー」
そう言いながら、重ねた皿を持ったシオンちゃんが目で「こっちにおいで」と招くので、俺も皿を持ってキッチンに入った。
シオンちゃんは皿を流しの水桶に浸けたら、壁付けの保冷庫を開けて、奥に手を突っ込んだ。厚めにカットした豚肉の壁の奥から現れたのは、大きくて深さのある金属製の弁当箱。いつ買ってきたのこれ。
「シオンちゃん、それは?」
「今までコツコツ抽出して集めてきた、豚脂よ」
滑らないようにと布巾を挟んで、カポッと開けられた蓋。その中身は、たっぷりと入った白い脂だった。
脂身じゃなくて、豚脂なんだ!? 豚脂なら買えるのに、なんで? おわ、冷えてるのに良い香りが漂ってる。温まったら強烈な旨い匂いするぞこれ!
「ビックリした……。計画は結構進行してたんだね。でも、脂を出した後の身はどうしたの? 溶けきらないでしょう、あれ」
「かなり小さくなるし、サラダにベーコン感覚で振りかけて食べてたわ。光に当てなければ油は劣化しないし、それは搾り身も一緒よ」
「へぇ、じゃあ身は今もあるの? 味見したいな」
「う、うん……」
渋ってるなぁ。あまり触れられたくないのかな。でも暴く。
搾り身は食器棚の隅にひっそりと、こちらも大きめの弁当箱に入っていた。作業台の前に移動して、蓋を開けてもらうと、濃い茶色の欠片がカラカラと音を立てた。豚脂と違って少なくて、軽く傾けただけで底が見える。
「結構食べたね」
「あ、脂をたくさん抽出できたから小さいだけよ!」
「俺にバレたくなかったから多めに食べてた?」
「そ、それもあるわよ……」
食いしん坊さんを揶揄ったら、不貞腐れてしまった。ごめんごめん。
「美味しかった?」
「……ごめんなさい」
「次からは、背徳的でも、俺と一緒に検証してね?」
謝ってほしかったわけじゃないけど。でも、秘密にされた俺は寂しくなったし、1人より2人の方が罪悪感が軽くなるでしょ。
「それにしても、良い匂いだな」
「そうでしょ? そりゃ美味しい豚肉から抽出したんだから当然なんだけどね」
そう言ってシオンちゃんは箱から中身を小皿に出して、それに塩を振ってくれた。つまんで口にすると、目が覚めるような衝撃が!
カリカリッ、ガリッボリッ! じゅわ~!
えっえ!? 冷めてるのに、抽出したのに、噛んだらじゅわって脂が染み出た! 塩が脂のキレを良くして、骨を振動させる硬い歯ごたえが満足感を高めてる! でも、もっと食べたくなる中毒性が、とっても危険!
「シオンちゃんがサラダに振りかける程度で収められてるのがびっくりだよ」
「あははっ、やっぱり男の子はこのくらいガッツリしたのが好きなんだ。私はパラパラ散らすくらいで満足してるわ。まぁ、毎日食べてるからかもしれないけど」
「いつから食べてたの、ずるい~」
俺だって食べたかったー! あ、また話逸れてた。
「それで、シオンちゃん。あれだけ溜めた豚脂で、何をしようとしてるの?」
「あ、そうだったわね。実は……」
シオンちゃんはそこで言葉を切ると、にんまり笑って俺を見上げてきた。キャーーーッ!!! かわいいーーーーーッ!!! 夕焼け色の瞳が得意げな光を放っていて、俺の目と心臓を焼くーーーーッ!!! 燃えたッ!!!
「豚から出た脂で、トンカツを揚げたいの!」
「うぅひゃぁああああっ!?」
豚で、豚を揚げるだってぇーーっ!? このうっまい脂が、パン粉の衣にも染みこむだってぇ!? ああああああっ!! 夕飯食ったのに腹減ったーーッ!!!




