ド派手な活躍の余波とブラックバスの素揚げ(3).
キンキンと、高くて軽い音がしている揚げ油からブラックバスを引き上げる。油を滴らせるそれは掴むトングに細かくて大きい振動を伝える。
掴んだだけでゴリゴリの感触なのが分かるブラックバスは、黒い皮の上に深めの茶色が乗っかって、シオンちゃんが求めた揚げ上がりだってのを主張している。
「よぉし、揚げ上がり!」
「油を切ったら盛り付けてね! その間に片付け!」
「はい!」
レモンを絞って甘くないレモン水を作っているシオンちゃんに指示されるまま、竈の火を落として薪を火消し壺に入れて、と後処理をこなす。
灰が付いた手を水で流したら、網バットの上のブラックバスの素揚げ2つを生のニンジンスティックとザク切りキャベツの横に添えて、最初に揚げたブラックバスには熱を与えて、揚げたてくらい熱々にした。最後に忘れてた塩を振って、完成だ!
「ぃよぉし! やっと夕飯だ!」
「もう待ちきれないわね!」
急げ、急げ! 腹の虫は悲鳴を上げてるぞ!
カウンターに夕食を乗せた皿を持って行って、カトラリーとかコップとかカウンター下の棚から引っ張り出して、油で汚れた手を拭う濡れ布巾を用意して……。
レモン水のピッチャーを運んだシオンちゃんは皿の一つを持って馬のリンドに見せびらかして、興味無さそうなリンドに気落ちしちゃった。リンドは悪食じゃないから魚も揚げ物も食べないからね。
シオンちゃんが戻ってきて、皿も濡れ布巾も並んだから、やっと食べれるぞ!
「「いただきます!」」
お腹空いた! お行儀よく最初は野菜からとか、熱々すぎるとか知らん! いきなりブラックバスの素揚げから、背中側のヒレが無い部分から豪快に齧りつく!
バリッ! じゅわっ! むちっ! もちっふわっ!
二度揚げしたおかげでパリパリを越えてバリバリにしっかり硬くなった皮。香ばしいそれを破った歯がオリーブオイルの爽やかな香りと魚らしい旨味のあるアッツいエキスを受け止めて、白くてむちっとした身に食い込んだ。
もちっとした弾力を感じながら噛み切って、咀嚼すると繊維が口の中でほどけて、ふんわりしてきた。はふはふしながら噛むたびにじゅわり、じゅわりと塩で引き立った旨いエキスがにじみ出て、鼻から抜ける匂いまで美味しい! この旨い口にレモン水を流し込めば──っかー! これ、大正解!
「っはー! 旨い!」
「本当に美味しいわね! 焼くよりずっと好き!」
元が淡泊な白身だからか、油との相性が良い。小型かつ白ワインに浸けたおかげで臭みは一切なく、皮は香ばしくバリバリの食感が楽しい。二度揚げでいつもより時間は掛かったけど、その価値のある味だ。
そう、二度揚げ。こんなにバリバリして、却って脆くなったのなら、ヒレだってきっと食べられる。期待に胸膨らむ俺の耳に、パキッカリッという軽やかな音が入った。
「んー! フェルティくん! 背ビレも美味しいよ! お菓子みたい!」
「本当? よーし!」
シオンちゃんにオススメされて、迷いなくヒレに齧りつく。俺のもパリッサクッと割れて、噛むたびにポリポリと骨が軽く砕ける振動が楽しい。香ばしくてオリーブオイルのフルーティさも感じて、少しの塩味が全てを引き立てる。極薄のクラッカーみたい。これは、きっと酒に合う。
「っあー! 美味しい! シオンちゃん天才!」
「でしょー? ふふっ、歯ごたえのあるもの食べたかったんでしょ? 頭にも齧りついてみたら?」
「そうだな。じゃ、いただきまーす……」
初めにかち割ったおかげでへこんでるブラックバスの頭部。さすがに骨が太くて硬いだろう。覚悟して、大口で齧りついた。
バリッ! カリッ! サクサクッ! からんからん…… ザクッザクッザクッ……
うおおおっ! これこれ! この歯応え、噛み応えを待っていた!
熱い油で長時間熱されて脆くなってなお、しっかりした食感! 欠片が散って皿に落ちる音まで美味しい! 耳には咀嚼する口から音しか聞こえなくなって、ザクザクと噛み砕く振動は脳みそまで伝わってるぜ!
なんて美味しい歯軋りだろう! ストレスが油に溶けていく! しっかりした旨味が俺を満たしてくれる! これをレモン水で流せば……ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ! ぷはーっ! 目が冴える爽快さだー!
「あぁぁ……めちゃくちゃクセになる! シオンちゃんも豪快に齧り付きな!」
「うん! あーんっ。……んー!」
大きく口を開けて齧り付いたシオンちゃんは、軽やかな咀嚼音を立てながら足をじたばたさせて、全身で歓喜を表していた。
熱さと喜びで赤らんだ頬が愛らしい。油で濡れた唇は無邪気に笑みを作っているのに色っぽい。
ああ~、俺の奥さんが天才で、可愛くて、とっても色っぽい。な~んて満足度の高い夕食なんでしょ~。
今日食べた揚げ物の素材は、身近で手に入るもので素朴だ。それでも、こんなに幸せになれて、満たされる。
アイツらみたいな、ド派手な活躍をして崇められたり、豪華な報酬を貰ったりしなくたって。俺は身分相応に、自分に出来ることで世間に貢献して、その報酬で美味いもん食べて、幸せになるんだ。
俺だって、アイツらに、負けちゃいない。
次回は近いうちに。




