ド派手な活躍の余波とブラックバスの素揚げ(2)
「それでなんだけど、フェルティくん何の揚げ物食べたい? 肉? 魚?」
「んー、今日は魚の気分かな。でも、食べ応えがあると良いから、齧り付けるような、食感が硬めなのが良いかな」
「なるほど、なるほど……。今ある食材なら、これかな!」
少し考えたのち、シオンちゃんが保冷庫から取り出したのは、バットに入ったブラックバスだった。
「これで、一度やってみたかったことをついでに試すね!」
「やってみたい、こと? ははっ、楽しみだなぁ」
揚げ物で試したい事なんてまだまだあるだろうけど、今回は何をしてくれるんだろ。想像するだけでストレスが溶けていくよ。
鱗や内臓取りなんかの下処理をして酒をまぶしてある、尾頭付きのブラックバス。サイズは小型で、シオンちゃんがめいいっぱい広げた手のひら程の長さ。で、ここから切るのかと思いきや、いきなり魔道竈に火を点け、揚げ油の鍋をセットした。
「えっ、もう揚げ油を温めるの? 三枚おろしにしないの?」
「今日はしない! 私、このサイズならギリギリ、イケると思うの」
「……な、何を?」
「ふっふっふ。『丸ごと』の、『素揚げ』、よ!」
「ま、丸ごとを……素揚げ? 衣は?」
「勿論、なし!」
「えーーーっ!?」
揚げ物には衣が必須なのかと……! でもそうか。ステーキ焼くときに衣は要らねぇや。
話をよく聞くと、頭というか、脳天もかち割って、ブラックバスを頭からバリバリ食べるんだって。衝撃的。豪快なものが好きなシオンちゃんらしい発想だ。
「確かに、俺が食べ応えのあるものを食べたいって言ったけど……」
「骨まで余すことなく食べられたら、素敵じゃない?」
「まぁ、そうか。試してみるか」
揚げ物に関してもすこぶる勘のいいシオンちゃんが言うことだ。きっと上手くいくはず!
包丁とトンカチを使って、ブラックバスの脳天を叩っ切る。それから全体に塩を振って、下味を付ける。それを2匹分やったら、キッチン中央の作業台でザクザク何かを切っているシオンちゃんの手元を見る。付け合わせのキャベツをざっくり切って、ザルに入れて、流しで水を張ったボウルに浸してじゃぶじゃぶ洗ってる。
「フェルティくん、水を冷たくしてくれる?」
「はーい」
ボウルの水にちょちょいと魔力を込めて、熱を奪う。キュッと冷えた水がキャベツを締めて、ぱりっぱりになったことだろう。
「ありがとうフェルティくん。あ、そうそう。魚を拭いて、塩を振って出てきた水分をしっかり拭き取ってくれる?」
「分かった。油が跳ねるのは危ないからな」
バチャバチャって音は激しいし、狙ったようにこっちに跳ねてくるからな、油。敵のように、布巾で水分を取ってやるぜ。
シオンちゃんから合格点をいただいたら、揚げ油の温度を上げた。
準備が出来たから、待ってやる必要は無い。あ、今回素揚げじゃん。何で温度を計ろう。……ま、いっか!
「シオンちゃん、いつも通りの温度でいいの?」
「うーん、いや、最初はじっくり火を通したいから、少し低めで、じっくり揚げようかな」
「分かった」
最初? 発言に引っかかりを覚えながらも、熱くなってきた揚げ油に下味を付けたブラックバスを1匹、油に入れた。
シュワワワ ちり、ちり…… ぶく、ぶく……
表面を拭きとってもなお身には水分があるからか、重たくて底に沈むブラックバス。温度が上がるまでは音も泡も大人しいだろう。
本当は2匹同時に入れたかったんだけど、魚体が曲がっては勿体ないってのと、ギチギチだと揚げ上がりまでの時間が長くなるからね。
「コレ、何分かかるんだろ……」
「いつものより厚めだしねぇ。6分くらいは掛かるんじゃない?」
「6分かぁ。……んー?」
たった6分で骨まで食べられるくらい揚げられるかな。
「シオンちゃん、それで足りるの?」
「え? あー、まだ言ってなかったね。6分揚げたら、一旦置いて、温度を上げた油でね。──2度揚げをするの」
「2度、揚げ……!」
知らない言葉なのに、とても魅力的な響きで、脳裏に焼き付いた。なんて贅沢な調理なんだ!
2匹目の1度目の揚げを終えて、揚げ油の熱を上げる。ちらっと網バットの上のブラックバスに目をやる。衣は無いけど、皮はパリパリで、トングで持った時もカリカリしてて、もうこれで食べたい。でも、シオンちゃんがやりたいんだから、俺は任務を遂行する。
いつも通りの温度になったのを勘づいたら、初めに入れた方のブラックバスを油の中に入れた。
シュワワワワー! ブクブクブク……
時間は立ったとはいえ、まだ熱を持っていたからか。入れた途端に細かい泡が瞬く間に上がって、大きめの泡も湧いてくるようになった。
「これで、結構色が付くまで揚げてみよっか」
「骨まで食べる為には、結構熱を通さないとだもんな」
衣が付いてないのに、カツくらいの色を目指すってさ。どんどん香りが香ばしくなってくぞ。あぁ、早く食べたい!




