ド派手な活躍の余波とブラックバスの素揚げ(1)
10月9日、木曜日。その日は、冒険者の間である話題で持ち切りだった。小耳に挟むのも不愉快なのに、それは醜い嘲笑を伴って殴りかかってきた。
奴は、診療所に氷を納めてる時に背後からやって来た。
「よぉ~! フェルティの坊ちゃん! あの偉業聞いたか? 聞いてないよなぁ! ご親切に聞かせてやるよ!」
「うっぜぇなぁ。黙れよ、仕事が遅れる」
「魔物を殺せねぇ、攻撃魔法も使えねぇ雑魚が口答えすんなってーの!」
なんだコイツ、久々に接触する邪悪だな。
ちらっと背後を見れば、邪悪の他にも2人くらい醜悪なニヤニヤ顔をする馬鹿がいた。
「お前のご立派なご両親が、また! ドラゴン討伐したんだってよー! クエバ王国のリオ・スベテラネオ洞窟ダンジョンでぇ、でっけぇ地竜を討伐して、王様から感謝されたらしいぜー!」
「しかもその地竜、勝手に住み着いてセイタイケイ?っつーのを壊してたって話を聞いて、『四属性』の2人が駆け付けたんだってよー!アッツいよなー!」
「しかもぉ? しかもぉ?? 褒賞の貴族位を蹴って、金とちょっとの素材だけ貰ったんだってよー! 欲が無い立派なお人たちだよなぁー!」
うっせーーーーー。
酒焼けでもしてんのか、バリバリとした声質で人を貶して嗤うことに特化した喋り方をされると、本当にきっしょい。しかも自分たちの功績じゃないのに、それで他人を馬鹿にできる精神が下劣すぎる。
「はーあっ! なんでA級冒険者パーティの『四属性』のガキなのに、お前は熱属性っつー雑魚なんだろーな!」
「うさちゃん一匹狩れない雑魚に育って、あの2人もかわいそーだわー!」
「弟子を取って偉くなったとでも思いまちたかー?? お前が雑魚なことには変わんねーからなー!」
ギャハハギャハハ、うるせぇ奴らだな。よし、金属箱の水を凍らせきった。これを所長さんと一緒に保冷庫に持って行ってっと。
「おい無視すんな雑魚! 耳まで雑魚になってんなぁオイッ!!」
あ、掴みかかってきた。はいライン越え。
「所長ーーっ!!! こいつらに俺が作った氷を使うなよーーーっ!!! 使ったのが分かったら、契約切るからなーーーっ!!!」
「うわうっさコイツっ!」
「はぁっ!? お前、何の権限でっ」
「はいはいはい、分かりました。お前ら、ここ出禁な」
「なっ?!」
名前を覚える気にもなれない野郎どものウザったらしい声が聞こえてたらしく、診療所の所長は裏口から直ぐに出てきて、奴らに出禁を言い渡した。やーいやーい! ざまぁみろー!
「じょ、冗談っすよね? 俺たちだって、ははっ、冗談ですし!」
「本気だよ。何の権限でって言ってたけど、そりゃ氷を作ってくれるのはフェルティ君しかいないんだから、お前らを出禁にしたら付き合いを変えないでくれるなら、その通りにするだけだ」
「ぐっ……! おいお前! 撤回しろや!」
「二度と話しかけんなボケカスども! それともなんだぁ!? 他の診療所にも出禁してもらうように触れまわってやろうかァ!?」
「ひっ……!」
「チッ! いくぞお前ら」
ケッ! ちょっと脅しただけでビビんなら、最初から喧嘩売ってくんじゃねぇよ!
「謝りもしないで……。君も難儀だね」
「もう慣れた。それよりも所長さん、アイツら絶対出禁にしてくれよ」
「分かったよ。まぁ、南地区だけでも診療所はたくさんあるからねぇ」
「別に、破滅させたいわけじゃないから、もう舐めてかかって来ないなら構わないよ」
謝ったら死ぬ病らしい奴らは逃げるように消えて、俺も仕事を終えたら診療所を出た。店前で待機しているバラトが、気落ちした顔をしていた。
「す、すみません、フェルティさん……」
「なんでバラトが謝る?」
「アイツらを、止められなかったっす……」
「テロホも守らなきゃだし、3人も居たなら仕方ないって。まぁ次は、やべー奴が来てるって叫んでくれ」
「は、ハイっす!」
バラトも冒険者ではないからな。人数差があれば怖くなるだろう。ていうか、領主と繋がりのある俺を傷つけようものなら、領主権限でエノールミ限定で冒険者登録を剥奪することだって出来るしな。職権乱用するって言ってた。その盾がある限り、俺も、俺の関係者も皆安心ってわけ。
それはそうだとしても、イラつくものはイラつくもので。
「聞いてよシオンちゃーん! 今日さー、あのクソ野郎どもの噂を聞きつけたカスどもが、俺に絡んできてさー!」
「えぇ? 今回も災難ね」
夕方になって帰ってきた俺は、コートを脱ぎながらシオンちゃんに今日の事を愚痴っていた。
「たまたま場所が診療所だったから、そこを出禁にしてもらうって報復はしたけど、街のどこにいてもアイツらの偉業が聞こえてきてさー」
「そうねぇ。私も買い物中、その話で盛り上がってる冒険者を見かけたわ。あっちはフェルティくんがあの人たちの子どもって知らないみたいで、私がいてもお喋りしてたわ」
「知らないなら別に、俺に絡んでくることもないだろうから、どうでもいいけどさ」
冒険者がより強い冒険者に憧れを抱くのは、普通の事だ。それを否定するつもりは無い。ダンジョンが山と湖とに2つも近くにあるこの街は特に冒険者も多いから、仕方ない。
俺に出来ることは、凍らせ屋としての名を轟かせて、アイツらとの繋がりの印象を上書きすること。真面目に、地道に、やっていくしかない。
小さく溜め息を吐きながらエプロンを身に着けていたら、一足早くキッチンに入ったシオンちゃんが「よし!」と気合を入れていた。のんびりキッチンに入ると、シオンちゃんは中央の作業台に用意してあったであろう食材を保冷庫に仕舞っていた。
「どうしたの、シオンちゃん。外食にするの?」
「ううん、違う! フェルティくんの嫌な記憶を吹き飛ばすには、揚げ物が1番だと思って!」
「シオンちゃん……!」
お、俺の為に、夕飯を野菜炒めから揚げ物に変更してくれるなんて! 俺もシオンちゃんが嫌な目にあった時は、そういう提案を忘れないようにしよう。




