アロス・コン・ポジョとクロケタス・デ・アロス(6).
レティセン視点
10月4日、土曜日。今回は俺の方から報告することは少なく、領主館から出る時間はいつもより早くなった。フランテブランカのところに入り浸らなかったのは、試してみたい料理があるからだ。
帰り際に米と薄切りの肉を師匠と弟弟子の実家でそれぞれ購入し、自宅に戻って調理を始める。試してみたいのは、“肉を巻いた握り飯”だ。昨日、師匠夫妻が言っていたものをアレンジした形だ。
まずは白米を炊く。
用意するのは
・白米(短粒種)
・水
・油(今回は米油)
・塩
ここにニンニクを入れることもあるが、買い忘れたから今日は入らない。
まずは米を軽く洗い、ぬかを落とす。米から白いものがどんどん出てくるが、まあ気にしない。表面の汚れが落ちる程度で構わない。
板状魔道コンロの火を点け、米油を入れたフライパンを火にかけ、温まったら入れた生米を透明感が出るまで軽く炒める。
この米油は、米農家と繋がりのあるご近所からお裾分けしてもらったものだ。ぬかを蒸した後に圧力をかけて搾って、色々精製して出来上がるものらしい。買えば高いが、お裾分けだから気にせず使う。米に米なんだから悪さはしないだろう。
良い感じになったら、水を加える。量は米の2倍量くらいって話だったな。米を掬ったカップで水を2杯入れればいいだろう。そこに塩をぱらりと入れて、蓋をして弱火で炊いていく。15分くらいと言っていたな。
炊いている間に菜っ葉を炒める。ごまとギリギリ萎びていない名前も知らない葉っぱを刻んだものを、米油で炒める。塩で味を調えて……パプリカパウダーも少し振って。……ニンニクを買い忘れたのは痛かったか。いやでも、この後解体の依頼があるしな……。
まぁいい。パンチの無さは肉で補おう。
炊いてる米にはまだ水分が残っている、ぷくぷくとした音がする。仕方が無いから先に弁当箱の準備を。師匠が世話になっている道具鍛冶屋に挨拶に行った時に、『近場しか行かない冒険者になら需要あるだろ!』と言って渡されたものだ。角が丸く加工された、長方形の金属製の箱。薄くて軽いが、あまり売れていないらしい。近場なら戻ってきて店で食うし、日を跨ぐなら保存食か、そこで狩って食べるだろうからな。そりゃ売れない。だからって金は取ってくれよ。
それとついでに貰ったくすんだ緑色の巾着袋を用意したところで、フライパンから音がしなくなった。のろのろした覚えは無いんだが。ひとまず、火を落として蒸らしておこう。
薄切りにされたワイルドボアのロース肉を皿に広げ、塩と胡椒を振っておく。これを焼いてから米を包むか、生で巻いてからフライパンで焼きつけるか。……蒸らし時間がある。今回は焼いてから巻くことにしよう。
菜っ葉を炒めていたフライパンで、指を含んだ手のひらを少し超えた大きさの肉を一枚一枚、丁寧に焼いていく。あまり焼きすぎると硬くなるから、表面の赤身が無くなったくらいで引き上げる。焼けた薄切り肉は炒め菜っ葉を移した皿に置いた。……あぁ、肉は良い。もうこれで食べたい。
何も考えずに8枚も薄切り肉を焼いた後で、蒸らしていた米の存在を思い出した。蓋を開けると、蒸気が立ち上り、どこか甘さのある香りが鼻を満足させる。フォークで軽くほぐすと、蒸気と香りはさらに立ち、油を纏った米はパラリと仕上がった。
そこに刻み菜っ葉炒めを入れて混ぜ、ムラなく混ざったら味見を。……うん、菜っ葉の柔らかい苦みと、ゴマの風味が効いている。米もふっくら、口の中でほどける感じも、美味しい。
魔法で出した冷水で濡らした手で混ぜご飯を掬って、こぶし大に握って……にぎ、に……。
「……握れ、ない……?」
油を纏った米に、油で炒めた菜っ葉。それぞれが滑り、解け、手からぽろぽろと米粒がこぼれていく。
これを無理やり肉の中に包んでも、食べる時にこぼれては意味がない。理想と違いすぎるぞ、これは……。
「レシピに倣って油を入れたのは、間違いだった……」
仕方がない。混ぜご飯は弁当箱に敷き詰めて、その上に一口サイズに切った薄切り肉を乗せて、周囲に冷水を当てて冷ましたら、かぽっと蓋をした。木製のスプーンを乗せて巾着袋に入れたら、完成。
……解体終わりに食べる時、見つからないようにしないと。『付け合わせの方が好きなのかー?』とか馬鹿にされかねん。
レティセンが使っていた板状魔道コンロはカセットコンロの見た目。
以前説明だけ出てきた七輪型魔道コンロより持ち運び性も利便性も価格も格段にUPしたもの。かつてのパーティの遺品の一つ。一つというが3つほど同じものを持っている。冷たいご飯が許せないパーティだった模様。
AIさんに聞いたら、スペインには握り飯文化が無いんですって。イタリアにアランチーニがあるから実はあるやろとか思ってたら全然そんなことなかったです。パンとパスタが強すぎますねぇ。




