アロス・コン・ポジョとクロケタス・デ・アロス(1)
米はダンジョンから来た。
9月30日、火曜日。仕事から帰ってきた俺の目に、カウンターの上に置かれた手紙が目に留まった。
開封されている袋のあて名を見ると、ウティリザ兄さんからだった。返事早いな。いつものんびりしてるのに。シオンちゃんが慌ててないから、事件事故に巻き込まれたとかではなさそうだが。
コートを脱いだだけの格好で手紙を開く。いつもと違って1枚だけのその手紙には、驚くべきことが書いてあった。
「あっちで弟子候補を見つけてくれたのか。ヒエリバス領からこっちはそこそこ距離があるから、気にしなくて良かったのに。……え? お爺さん?」
全文はこうだ。
元気にしてるか? シオン、フェルティ。俺は相変わらずホージャスのポーション作りに付き合ってるよ。
実はそのポーション作りをしている最中に、フェルティに弟子入りしたいってやつが現れた。弟子候補は男2人。
『魔法大好きジジイ』を自負するコリシダッドの爺さんと、その孫でどっかの薬草畑管理人のグラービ。孫の仕事休みの都合をつけてからそっちに行くらしくて、来年になるそうだ。
孫のグラービは順当に冷水魔法を教わりたいそうだが、コリシダッドの爺さんはフェルティの熱魔法に興味があるらしい。ただ、『聞いたことが無い』じゃなくて、『珍しい属性だ』って言ってたから、逆にお前が教わることもあるかもな。年の功に甘えられるなら甘えとけ。
俺には身分を明かしてくれなかったが、コリシダッドの爺さんは多分、ご高名な学者さんか、魔術師さん、もしくは隠居したお貴族さんのどれかだと思う。
って言ってもお忍びで弟子入りだろうから、お前たちが変に緊張する必要はない。普通に人生の先輩として敬って接すれば良いと思うぞ。フェルティの事を若いのに立派だと言ってたし、孫も友好的だ。安心しろ。
要件は以上だ。年末、お前らの顔を見られることを楽しみにしてる。
追伸:旨い揚げもん楽しみにしてる。
嬉しいような、面倒ごとの匂いが香るような。研究動物にされないことを祈ろう。あと揚げもんは全部旨いだろ。
「あ、もう読んじゃった?」
「シオンちゃん。うん。返事がずいぶん早いから気になって。まさか向こうで勧誘してくれてたなんてな」
キッチンから出てきたシオンちゃんが、エプロンで手を拭いながら近くに来てくれた。
「お兄ちゃんたちもフェルティくんのこと心配してたからね。チャンスが出来たから頑張ってくれたのよ。それでも、まさかお爺さんが弟子入りしてくるとは思わなかったけれどね」
「逆転してるよなぁ。ん? 俺、候補含めて弟子のほとんどが、年上か……?」
お孫さんも薬草畑の管理人なら、未成年ではないだろうし。師匠として威厳が無くないか?
そこそこ衝撃的な事実に狼狽えていたら、シオンちゃんも「まぁフェルティくんが若いものね」と追い打ちをかけてきた。もう。
「来年来るって、いつ頃なのかしらね。ヴィシタンテ・エノールミは終わったし、いつ来てくれても大丈夫かな」
「そうだな。あーでも、遠方から来るってことは宿とか手配しとかないとか? 何日ウチにいてくれるか分からないから、部屋を借りるとかも決められないな」
「お爺さんが来るなら、安いところじゃ駄目ね。お金持ちかもしれないけど。階段も無い方が良いと考えると……うん、ゆっくり考えましょう」
あ、後回しにした。まぁ情報が少なすぎるものな。俺の取引先に宿屋は無いから、伝手が領主しか無いな。貸しを作りたくはないが、将来、遠方からの弟子が増えたら宿泊施設は欲しくなるよな……。そんな土地あるか?
ぐ~。考え事をしたら、腹減った。鶏の出汁の香りも相まって、ものすごくお腹空いてきた。
「うふふ、今日も頑張ったものね」
「うん、お腹空いた。シオンちゃん、夕飯は何?」
「今日はね、お米が安かったから、アロス・コン・ポジョよ」
「米かぁ、新米の時期だもんな」
我が国、グアダルキビール国の米は100年ほど前、ダンジョンから発見された作物だ。たまたま発見した冒険者パーティーの一人に米の扱いが分かる人がいて、その美味しさと栽培方法、多くの調理方法が広まったことで料理の選択肢の一つになった。
とはいっても、寒い地域では育ちにくく、食べているのも南の地域の国民が中心だ。エノールミ領のあるヴァンダル地方は南方。だから時期になったらたまに食べてる。ちょっと特別な日に食べるのが多いが、アロス・コン・ポジョは比較的日常的に食べる米料理かな。
エプロンをつけて、キッチンに入る。下拵えはシオンちゃんがしてくれてたから、あとは炒めて炊くだけだ。
情報収集にAIを活用し始めました。……楽っすね。検索しても出てこないスペインの米料理をいくつも教えてくれます。あ、今作のモデルはスペインです。全部が全部じゃないですけどね。スペインにダンジョンはないし。




