兄ちゃん’sのポーション作りと勧誘(5).
「一息ついたから聞くけどよ、そろそろ、そっちの爺さんの紹介をしてくれるか?」
いつの間にか、兄ちゃんより近くでホージャスの手元を観察している低身長の爺さん。困ってるだけだから、兄ちゃんの知り合いだろう。さっき東棟から感じた視線の主は、この爺さんか?
「あー、まずこっちが名乗るのがマナーか? 俺はウティリザ。昇格試験を受けるのをサボってるE級冒険者だ。ホージャスもそうだ」
まだ冷水魔法に集中している相棒に変わって紹介すれば、兄ちゃんより爺さんの方がそうかそうかと頷いていた。いや、名乗ってくれ。
「……お、俺はグラービだ。コリシダッド爺さんの付き添いで、ホージャスさんの噂を確かめに来た」
「流水じゃなくて水魔法でポーションを冷やしてるっつー、あれか?」
「そうだ。そんなことが可能なら、水属性魔法使いなら設備投資が少なくて済むことになるからな。他にも活用の場面はありそうだし、学んでいて損は無い」
「なるほどな。コリシダッドの爺さんもか?」
「そんなところだ」
グラービの兄ちゃんもコリシダッドの爺さんの集中を切らさないようにと代弁してる。爺さんの方が興味津々なんだな。
「画期的な魔法だ。夏場なんて引く手あまたな魔法だろう。なぜホージャスさんの周りに教えを乞う人間がいないのか、不思議でならない。見てもいいなら、教わっても構わないのだろう?」
「あー」
勉強熱心でなにより。しかし、そんなアンタらに、少し残念なお知らせをしないといけない。
「興味を持ってくれたのはありがたいんだけどな? これを教える資格は無いって本人が言ってんだよ」
「教える、資格?」
「いろいろ要因はあるんだが……。一番は、急性魔力欠乏症で倒れても、責任が取れないからだ」
「あぁ……。消費魔力の問題は大きいな」
いくら魔法がイメージの技術で、具体的に想像すればするほど魔力効率が良くなるといってもだ。慣れない内はどうしても魔力の消耗が激しくなりがちだ。
見せびらかすだけで教えないなら見せるな? お前らはプロの料理人が包丁でみじん切りしてるのを見て真似て怪我をしたら、シェフを糾弾するのか? 勝手に真似するなら不満はこっちに言うな。
「まぁだから、冷水魔法が使いたいなら、エノールミ領にいるこいつの師匠に弟子入りしてくれって勧めてんだ」
「エノールミ領に?」
「あぁ。エノールミ領主街の凍らせ屋、フェルティだ」
よぉそ、やっと名前を出せたぞ。グラービの兄ちゃんも口の中で小さく復唱した。忘れないようにするなんて、見込みあるな。
「しかし、凍らせ屋? 氷屋ではなく? それに、水属性魔法使いではないのか?」
「凍らせ屋で合ってるぞ。属性は水でも氷でもなく、“熱”、それ一本。水は別で用意する必要があるが、それをお湯にも氷にも出来る便利な魔法だよ」
「熱、じゃと?」
お、やっとコリシダッドの爺さんの声が聞けたな。優しげな声だ。
「こりゃまた珍しい属性じゃの」
「珍しい……聞いたことはあるのか?」
「そうじゃの。魔法大好きジジイなワシは色々知ってはおるぞ! 知らんこともいっぱいあるがの」
魔法大好きジジイ、なぁ。学者さんだったりするか? または高名な魔術師だったり?
「故に尋ねよう。熱で氷を作るとは?」
「水に限らず、物体から熱を奪って冷やせるってさ。詳しくは本人に弟子入りして聞いてくれ」
「ほう、ほう! なるほど、奪うという考え方か!」
目を輝かせて話を聞き、また興味深そうにホージャスの手元を見るコリシダッドの爺さん。今までにここまで強く関心をよせてくれる人はいなかった(直ぐには習得できないってのと、エノールミ領まで行くのは面倒くさいってよ)から、ついつい親切心がはたらいちまうな。
「よかったら、手紙で紹介しようか? フェルティは弟子をいつでも歓迎してるからな」
「それは有難い話じゃのう!」
「……ウティリザは、そのフェルティさんと知り合いなんだな?」
「まぁな。弟だし」
「弟!? ってことは、あんたより年下ってことか!?」
……あー。フェルティは年齢で舐められて弟子取れなかったんだった。この2人もそこでフェルティをナメるなら、この話は無かったことに──
「素晴らしい!!」
「うおっ、急に叫ぶなよ爺ちゃん!」
「若人が己の魔法を極め、独占することも出来たろうに、その術を広めんと弟子を取っているとは! なんと素晴らしきことかな!」
……年寄りが一番無邪気に喜んでくれるなんて、皮肉かな。いや、嫉妬の対象にならないだけか? だとしても、やっぱこの爺さんにはお勧めして良かったよ。
「……すまない。ホージャスさんの師匠というから、少なくともあんたたちよりは年上だと思い込んでいた。侮るつもりはなかったんだ」
「そうか」
確かに、ほとんどはそういうもんか。驚いただけなのに距離を取るのは非情か。
とか反省してたら、コリシダッドの爺さんがこっちに近づいてきた。目がキラキラして、小さめの身体から溢れる生気に圧倒されて、一歩下がってしまった。
「エノールミ領の領主街、凍らせ屋のフェルティ、じゃな! 覚えたぞ! 来年になるが必ず弟子入りするから、手紙を頼むぞ!」
「そ、それは勿論、任せてくれ。だが、あいつはまだ熱属性か水属性にしか今のところ指導が出来ない。それに、あんたたちの事はなんて紹介すればいい?」
「適正とは異なる属性にも指導できるとは、素晴らしい! おっと、紹介のう……」
「名前と大体の年齢だけじゃ、アイツも不安になるからよ」
さぁ、そろそろアンタらの素性を晒しな。悪人はそもそもこの場所を借りれねぇだろうから心配してねぇが、変なお貴族様じゃ困るからな。
少し目を泳がせたグラービが口をパクパク動かしてから、声を出した。
「俺は、こことは別の教室の、薬草畑の管理人をやっている。爺ちゃんは……」
「ワシはただの、魔法が大好きなジジイじゃよ!」
あんた、絶対それだけじゃないでしょ。道楽にしては熱量がすごすぎるって。まぁいいや。
はいはい、分かりました。どっかのお偉いさんがお忍びで弟子入りしたがってるってことにするぞ。
「お茶目な爺さんが熱魔法に興味を持ったから、孫と一緒に来るって書いとくわ」
「助かるのう! こうしちゃおれん! グラービ、お前の休みの都合を付けに行くぞ!」
「お、おい爺ちゃん! ウティリザ、ホージャスさん、お騒がせしました!」
見た目だけ威厳があるコリシダッドの爺さんの背を追いかけて、グラービも東棟の実習室へ入っていった。本当ににぎやかな爺さんだったな。
「……グラービさん、俺のことはさん付けなんだなー」
「え? いやまぁ、俺には敬語いらねぇぞって言ったからな」
「あ、そうなんだ」
やっとポーションを冷やせたらしいホージャスがなんか寂しそうに言ったけど、お前焦っててほとんど喋ってねぇじゃん。タイミングが悪かったのはしょうがねぇよ。
とか話してたら、グラービが戻ってきた。竈の火を消してなかったって。待ってくれよ、ポーション作んねぇで、本当に今から、次の休みの都合を付けに行くのかよ。
「ぐ、グラービ! 俺にも敬語は要らないからねー!」
「お、おお……分かった。ありがとう」
「うん!」
こっちも本気で気にしてたのか。悩みが減って友達が増えて、良かったな。




