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兄ちゃん’sのポーション作りと勧誘(4)

 大体のポーションの完成目安は、底に沈んでいた魔石がぷかぷかと、完全に浮かんだ瞬間だ。

 設備がまだまだ不十分な職人はそこを見極めて、瓶に移して流水に浸しつつ余熱で熟させる。氷とかで急冷出来る職人は瓶に移して熟させてから冷やしていく。熟させてから冷やせるなら、その方が級が上なポーションが作りやすいんだ。いくら上質な素材を使ってても、熟しすぎたら劣級になる、らしい。効果はあるのが救いか? 下級にはねぇのに。


 経験上、役割を終えた魔石が浮かんでくるまでにはもう少し時間がかかる。その隙にホージャスは熱々のポーションを入れた瓶を急冷するための冷水をバットに溜めはじめた。とぷとぷとぷ。ほぼ自己流の冷水魔法で、バットから冷やしてく。

 そこでついに、お偉いさん付きっぽい青年がホージャスに近づき、話しかけた。


「あ、あの、すみません! ホージャスさん、冷水魔法の発動の様子を見学させていただいてもよろしいでしょうか!」

「え? あぁ、見るだけならどうぞ。ごめんね、今忙しいから何も説明できなくて」

「いえ、構いません!」


 また敬語に戻ってる。まぁ教わりたい相手には敬うよな。

 端の方に浮かんできたアクを木べらで掬って、地面にポイッ。どうせ雨で流されるし、毒でもないから誰も気にしないし、講師がやっていいって言ってたし。

 ほんのちょっとだけ罪悪感に心がやられている俺の背後では、ホージャスが魔法で生み出した冷水をトプトプと金属バットに注ぎ、兄ちゃんがそれを黙って目を見開いて観察していた。ナバーみたいなは異質さは無いな。フェルティくらいの熱量と、あの時のホージャスくらいの必死さって感じか。


 ホージャスの魔法適性は土属性が7割、水属性が3割。だからボウル程度の容量に水を満たすのに普通は時間はかからない。だが、冷水となると違うらしい。

 冷水を出すには水の動きを遅くする必要があるらしい。もっと先を行ってるレティセン先輩は水の動きを止められるらしい。ポーション作りに欠かせないからと、この街に戻ってからホージャスは下級の魔力回復ポーションを飲みながら繰り返し冷水の魔法練習をしていた。

 継続して冷水を出せるようにはなった。それでも、蛇口を一回ひねったくらいの放出量しか無くて、少し時間がかかっている。……ま、いつも間に合ってるんだし、大丈夫だろ。


 エキスが出るように、そして魔石が浮かんできてるなら分かるように、くったりしている素材たちをゆっくり混ぜたり寄せたり。ポーション釜の中身が沸騰しないよう、見守り続ける。


「ふう、できた」


 ホージャスがバットに冷水を満たす方が、魔石が浮かんでくるよりも早く終わったらしい。ここでポーション釜の世話を交代して、俺は瓶の用意をする。

 細めの長方形に円筒の口が付いた形の瓶。ひっくり返していたそれを木箱から48個取り出して、口を上にしてテーブルに並べる。笠付きコルクも一応並べておいて、瓶の2つには漏斗を差しておく。濾し網と注ぎ口付きの小鍋2つの確認をしたら、完璧だ。


「ウティリザ、そろそろだよ」

「了解」


 首を伸ばしてポーション釜の中を覗けば、水色の魔石が浮かんでは沈んでを繰り返している。無視してごめんな、兄ちゃん。だが、そろそろ、緊張の瞬間が来る。


「ホージャス、冷やすの忘れんなよ」

「すぐ温くなっちゃうからね。ウティリザも、溢さないでね」

「俺らの財産だもんな」


 急冷したらクオリティ上げられるとは言うけれど、氷じゃなくて冷水だからな。やっぱり余熱で熟してしまう。それでも、死ぬほど急がなくてよくなったから、冷水魔法は間違いなく革命だ。


 緊張しながらポーション釜の中を見守る。魔石はぷかぷかと浮かんでは、ストンと沈む。その感覚は徐々に短くなり……。

 俺が薪を減らした瞬間、ホージャスが「浮かんだ!」と声を上げた。


「ウティリザ!」

「分かってる!」


 火消し壺に薪をしまったら、鍋つかみを手に嵌めて、ポーション釜を持ち上げる。溢さないよう気を付けながら、まずは濾し網に目掛けて釜を傾ける。

 とぷとぷとぷ……。蒸し布が目詰まりを起こさないように、液先行で。最後はパシャンと網に中身をすべて移して、持ち上げた網から液体が玉になって落ちるまで待つ。ここで勿体ないからって搾るとエグみしか出てこない、らしい。


 出がらしの素材が乗った濾し網をポーション釜に乗っけたら、湯気が上がる小鍋を右手に、漏斗を左手で支えて、並べたポーション瓶に注いでいく。

 こっこっこっこ……。青みが強い澄んだ黄緑色の液体が瓶に満ちては、漏斗を空の瓶に差し直し、また小鍋を傾ける。それを20回近く繰り返し、小鍋の中身が無くなったら鍋つかみをまた手に嵌めて、閉めていない口から湯気がまだ上がる瓶を両手に一本づつ掴んで、冷水を張ったバットに浸していった。

 ふと目が行った先では、ホージャスが自分の手をバッドの水に浸していた。


「ウティリザ、俺の方の瓶も浸してって……」

「分かった。もう温くなったか」

「冷水仕込むの早かったかな……」


 自分の魔法で出した水だ。自分の魔力を流して冷やし直すのは訳ないだろうが、冷やしたそばから熱くなるから、ホージャスはずっと魔法をかけ続けないといけない。どうせ熱くなるなら、はじめは普通の水を出して、あとから冷やせば? って言ったら、最初から冷水を出す魔法の練習だとさ。あと、普通の水を冷やすのも案外大変らしい。

 それでも慣れてきたんだろう。ぶっ倒れかけた初回からは一転して、少し息が上がる程度で済んでいる。


 薄紫色の魔力回復ポーションの瓶も冷水バットに全部並べ入れられたら、いよいよ聞くことにした。


「一息ついたから聞くけどよ、兄ちゃん、そっちの爺さんの紹介をしてくれるか?」


 いつの間にか、兄ちゃんより近くでホージャスの手元を観察している低身長の爺さん。困ってるだけだから、青年の知り合いだろう。さっき東棟から感じた視線の主は、この爺さんか?


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