兄ちゃん’sのポーション作りと勧誘(3)
「あの、すみません。火を貸してもらってもいいですか?」
「ん、あぁ、いいぞ。貰ってけ」
「ありがとうございます」
竈の火を見ながらボーっとしてたら、いつのまにか正面の竈で作業してた奴が火を貰いに来た。俺だって楽できる時は楽したいからな。お互い様だ。
細い薪を持って竈に突っ込んでいるのは、冒険から帰ってそのままの格好の俺とは違い、形こそ普通だが良い布を使ってる服とエプロンを身に着けた兄ちゃんだ。
この教室では見ない顔だな。場所だけ借りたお偉いさん付きのポーション職人か? 薬師ギルドじゃなくて教室を借りるなんて、数を作るのか、設備が古くても広い場所が良かったんだな。
礼儀正しい彼は最後に頭まで下げて、ウチの竈から火を移した薪を持ち帰ってった。なんのポーション作るんだろ。
「……?」
東棟の、一番奥の実習室。つまりホージャスがいる教室の対面から、視線を感じる。でも、特に敵意は感じないし、ただ見てるだけ、か? にしては熱量がある気がするが……。
ポーション釜の沸き具合を見たり。出来たポーションを冷ましたり瓶に詰めるための道具を整理したり。ホージャスが素材を刻んだり砕いたりってしてるのを聞いたり。
秋風が呼ぶ睡魔に抗っていたら、竈の奥から「すみません」と声をかけられた。目を向けると、さっき火を貰っていった青年だった。まだ何かあるのか?
「どうした?」
「お、おひとりでポーション釜を2つも、それも量も多いものを管理なさるのは、大変ではありませんか? 何かコツがあるんですか?」
「敬語じゃなくていいぞ。それに1人じゃないし。コツっていうか、他人に飲ませるもんじゃないからまとめて作ってるだけだ。慣れてるしな」
「なるほど……気を使わない品質であるのと、慣れから来ているこの規模感、ということか」
俺の説明を自分の言葉で直して受け入れた青年。言った通りに敬語を捨てた男だが、納得いってなさそうだな。
どことなく不安げな表情の兄ちゃんが再び口を開く。
「だとしても、ポーションは熱の通り加減も大事だろう? こんな一気にだと、余熱が入りすぎないか?」
「そこはちゃんと対策してる」
「対策?」と兄ちゃんが首を傾げるから、俺は少し得意になって話を続ける。いい宣伝にもなりそうだしな。
「相棒との2人で作ってんだけどよ、今こっちの教室で素材を刻んでるアイツな? で、アイツが水魔法でポーションを急冷できるから、2つの釜を同時進行できるんだよ」
「……あの人が、うわさの」
あぁ、聞きつけてだったか。どおりで見ない顔なワケだ。東棟の実習室からの視線も、そういう事か?
「ウティリザー、おしゃべりするのは良いけど、沸騰させないでよー!」
「あー、スマン、スマン」
「これは、悪いことしたな」
「気にすんな」
あぶない、あぶない。いくら急冷出来たって、沸騰させたら劇的にえぐみが出て飲めたもんじゃなくなるし、効果も壊れる。任されたからには、そこだけは完璧にしないとな。
また火が強くなってる竈から薪を取り出していたら、実習室からホージャスが来た。奴はポーション釜の中身を確認すると、軽く頷いた。
「そろそろ素材追加のタイミングだね。ウティリザ、木べら取って」
「お、おう」
俺のおしゃべり相手、無視するんかーい。しかもそろそろってことは、勧誘も中止か。
まぁここからは気が抜けない時間が続く。それは相手も分かってくれるだろ。
俺から木べらを受け取ったホージャスは素材のザルを渡してきた。癒し草の葉っぱ部分とホジャデアホ、ペレジールをぱさっぱさと、良く浸るように木べらで優しく押さえる。
ホージャスの方は4つに裂いたマヒア茸を足して、同じように木べらで押さえて浸していく。すると見る見るうちに、釜の中身が紫色に染まっていく。うへぇ……。
「何度見ても強烈だな。マヒア茸から出る色」
「そうだねー。傘の色よりどぎつい紫色になるのはビックリだよねぇ」
本体は優しい薄紫色で、花の色っぽくもあるのに、ポーションにすると急に濃すぎる紫色の汁を出してくる。煮込み続けることで色は褪せていき、完成する頃には元のキノコより薄い紫色になる。
「あぁ、良い香りすぎる……! この命を感じる香ばしい土の香りと、爽やかで甘い樹液のような香り……! どことなく感じる清涼感のあるスパイシーさがクセになる!」
スパイシーなのはニンニクとかなんじゃねぇのと前に聞いたら、「違いの分からない鈍感め!」って叱られたから、違うってさ。
香りってのは温められると強くなるものらしい。にしても、ショウガとニンニクに負けない1本のキノコの香りって。さすが魔力を大量に溜め込んでるだけある。
「さ、沈めて、沈めて……」
ポーション釜の中に木べらを底まで入れ、ゆっくり斜めに上げてかき混ぜる。水を含んで沈んだ素材たちからエキスがよく出るように、そして溢れないように。
沸騰しないように火の加減を見ながら、完成までほどほどにかき混ぜ続ける。
「ウティリザ、鍋つかみとかの用意出来てる?」
「してる。蒸し布敷いた濾し網を重ねた小鍋も、熱々のポーション瓶を急冷する為のバットも準備してる。冷水の用意さえできれば、いつでも完成させていい」
「ありがとう。じゃあそろそろ、冷水を入れてくるね」
ホージャスが俺に木べらを渡して背後のテーブルに移動したところで、俺から見て正面の兄ちゃんが、興味深げに覗き込んできた。
やっぱり。勧誘しなくても、教わりに来てたか。




