マヨネーズの誕生と卵白衣のエビマヨ(6).
レティセン視点
9月20日、土曜日。本日もまた、稽古翌日の報告会である。
今日は良い報告ができるな。そんな浮かれが伝わったか、エノールミ領主も「期待が出来そうだね」とご機嫌であった。
「それでは早速、昨日の稽古の様子や結果を聞こうか」
「はい。結果から申します。昨日はついに、氷を作り出すことに一応、成功いたしました」
「おお! なんて素晴らしい話だろう! けれど、一応か。詳しく聞こう」
その後は、トマトを使った訓練法や、氷を生み出せた素材が自らの魔法で作り出した水であること。頑丈な氷を作り出せたが、自分では魔力消耗が激しいこと。氷を作るときは加工のしやすい金属を想像するようにフェルティ師匠に指導されたことを報告した。
「ほぉ、刃物を連想して、か。編み出した当時はお子さんとの話だし、柔軟な発想だねぇ。しかしまぁ、聞けば聞くほどおめでたい話で、フェルティがここに報告に来ないことがおかしなことに思えるよ」
「それに関しては、まだ不完全だと言っていました」
「不完全?」
机に肘をついて前のめりになって報告を聞いていた領主が椅子の柔らかな背もたれに身体を預けて、俺の報告の続きを待つ。
「フェルティ師匠の目標は、己の同業者を増やすことです。自然の水を凍らせられるほどにならないと、領主への報告に値しないと考えているようです」
「なるほど……。確かに、フェルティの基準ならそうなるね」
本人も言っていたが、凍らせる水まで術者の自前だと、凍らせ屋として仕事ができる時間が短いだろう。ただでさえ、自前の水でさえ、魔力消費が激しかったというのに。……どちらが魔力が効率的かは、まだ分からないが。
「レティセンへ依頼した『水属性でも氷を作れるのか』という検証は成功という形で果たされた。後は、『フェルティを良き師とする』目標を、引き続きよろしく頼むよ」
「はい」
もっと研究を重ねて、理論武装させて、自信を持たせてやらねば。それ以外は悪くないから。少し、奥さんが好きすぎるだけで。
報告を終えて、相棒のフランテブランカの顔を見に行くと、人影が見えた。最近は俺に用がある人間がそこで待ち構えていることが多いな。まぁ、大抵がエルナンか、リーリオなんだが。
「やぁ! レティセン、修行は捗ってるかい?」
「……リーリオか」
今日はリーリオだったか。はいはい、昨日の夜の献立はなー。
「な、何ィー!? 甘い、まよねーずだってー!? しかも卵白衣の揚げエビ!? またシオンは閃いてる! もー!!」
こいつに報告すると、うるさいんだよな。回を重ねるごとに余裕を失くしてるのか、声もデカくなってくるし。
「レシピは!?」
「今回はサプライズだった。マヨネーズのレシピ自体は、彼らの幼馴染のマルバが閃いたものらしい」
「ほう……? マノルカソースの伝道師が、進化させたってことか……」
顎に手を当て考え込む格好を取ったリーリオが、ハッと顔を上げて俺を見た。何だ。
「レティセン、今日暇!? 今からマルバって人のカフェに一緒に行って、食事をいただきながらマヨネーズとやらのレシピを習いに行こう!」
「……急に言うな。運よく、暇だが」
「よし! 着替えてくるから門のところで待っててくれ!」
「分かったよ……」
昨日の魔力消費が激しかったから、今日はギルドでの解体バイトを昨日のうちで取り消していた。あれは人気だからな。すぐに代わりは見つかったろう。だから今日はこの後直帰で休むつもりだったが、まぁ、外食するのが1人から2人になっただけだと思えば、なんてことはないか。
少しして、待ち合わせ場所にやって来たリーリオ。その恰好は黄色いワンピースに緑色の腰リボン。バッグも靴も緑色で、統一感がある。凍らせ屋に料理指導に行く時よりも華やかで、いつも高い位置でくくっている茶髪も下ろされて、印象が変わっていた。
「さぁ行こうか! 色気よりも食い気に満ちたデートに!」
「……ただの昼食会だろうに」
「違う! 勉強会!」
更に色気を無くしたな。あれか? マルバという青年に良い印象を持たせて、レシピを聞き出しやすくするためのオシャレか?




