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マヨネーズの誕生と卵白衣のエビマヨ(4)

 ナバーの魔力が引き揚げられた水を、カップの金属越しに凍らせる。しっかり仲間で凍らせたら、外側だけ溶けるように熱を与える。

 カップをひっくり返して取り出した氷を、カウンターに敷いたタオルの上に置けば、ナバーもレティセンも自作した氷の玉を隣に並べた。表面がゴツゴツと荒いのがナバーで、比較的小さくて丸いのがレティセンだ。何層も重ねているからか、氷は白く濁っている。


「どっちも凄いな。置いても自壊しないか。さすがのコントロール技術だ」

「……ありがとうございます」

「今からこれを、割るの?」

「せっかく作ってもらったが、そうだ。ぱっかり割れたり、ひびが入るくらいの損傷具合なら大成功。くしゃりと潰れるようならまだまだだ。じゃ、いくぞー」


 顔の高さにまで振り上げたトンカチを、重さに頼って振り下ろす。ガツンッ! と俺が作った氷はトンカチを弾き返し、細かな破片が飛び散り、ひびが入って3つに割れた。


「とまぁ、こんな風にトンカチを弾くくらいの硬さを目指してくれ」

「見るのはそっちだったのかよ!?」

「言ってなかったか? それはスマンが、手ごたえで分かるから大丈夫だろ」


 そう言って、俺はまず一番弟子のレティセンにトンカチを渡した。受け取ったレティセンは目を細めて氷の玉とトンカチを見ると、「行きます」と言って軽くトンカチを振り下ろした。

 ゴンッ! 衝撃を加えられた氷はタオルの上で跳ね、バランス悪く割れた。


「すげぇ! 硬い!」

「レティセンもう独立するか?」

「……まだまだです」


 いやいやいや、もう完璧な氷が作れてるから。こんだけ固けりゃ俺のとそう変わらん溶けにくさだろ。


「……今ので、今日の分の魔力をほぼ使い果たしました」

「よし、一旦座ろうか」

「そういう事ネ」


 レティセンは相変わらず、全力を出そうとする。それだけクオリティを高くしようと全力でいてくれてるし、数を熟せば魔力効率もなんとかなるだろう。でも、最初から理想を求めるのは止めようや。死んじゃうぞ。


 「溶けない内に、俺も叩こー」


 魔力が尽きかけのレティセンに魔力回復ポーションを押し付けようとして失敗してる後ろで、ナバーがトンカチを掲げた。あんまり強く叩くなよ? タオルを敷いてるとはいえ、カウンターが傷つくから。


「そーれ!」


 ガシャンッ! ナバーにトンカチを振り下ろされた氷は、バラバラに砕け散った。空気を多く含んだ様な軽やかさで、剥けた玉ねぎみたいになってる破片もある。


「あー……これはダメかも」

「それはそれで活用法があるかもしれんが、空気があると溶けやすいかもな。ナバーは水から空気を取り出すのは得意だろ? 頑張れ」

「はい。……そーだよなー。金属に空気なんて入んないよなー。失敗だー」

「……何が原因か分かったなら、それは成功への道筋だろう」

「おお! 良いこと言いますね!」


 本当に。俺より師匠っぽいこと言ってる。


 改善点を見つけた、かつまだ魔力が残っているらしいナバーは研究でまた氷を作り始めた。一応ナバーの前に魔力回復ポーションを置いて、レティセンへ目を向ける。

 少し気怠そうなレティセンは椅子に深く腰掛け、大きな欠片を氷の玉の元の位置に合わせていた。出来上がってから少し経った氷は表面がとろけて、欠片が乗っても滑って転がって、乗り切らなかった。


「すまんかったな、レティセン」

「……はい?」

「せっかく丈夫な氷を作れたのに、その余韻に長く浸らせてやれなかった。1つしか作れないほど既に魔力を消耗していたと知っていたら、記念に持たせたのに」

「いらない、です。溶けるので」

「ははっ、そうか。確かにな」


 ナバーがまだ実験してるからか、レティセンは敬語のまま。だけど火傷で引き攣った顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。


「反省点は見つけましたし、これから寒い冬になります。嫌でも水は冷たくなって、訓練しやすくなるでしょう」

「そうだな。仕事が減って、楽になる時期だ」


 おどけて言えば、レティセンも笑う。そしてもう一度大きな欠片を持ち、欠けた氷の玉に当てて、手で包んだ。どうして? さっき乗らなかったろ? パズルじゃないからハマらないぞ?


「──繋がれ」


 小さく呪文を唱えて、レティセンは手の中から氷の玉を転がした。大きな欠片は落ちず、最初より不格好ながら、それは球体となっていた。

 なるほど、自分の魔力が存分に入った氷だ。くっつける事も容易いだろう。……いとも簡単にやって見せたが、残り魔力大丈夫か?


「凄いな。割った氷を元に戻そうなんて、考えたことなかった。まだ許可なんて到底出せないが、これも攻撃転用できそうだな」

「……そうですね。先ほどのナバーの氷も、石のように投擲する分には十分ですし、割れても欠片を中心点にして再生すれば、足止めが出来るかもしれません」

「トラップは思ったけど、小石替わり? はぁ、やっぱり無駄にならんなぁ……」

「砕け散るなら、投げ返されませんしね」

「おぉ……」


 すぐそういうのを思いつくのが、命のやり取りが普通の冒険者って感じだよな。頭が下がります。

 ダメージも与えられて、トラップにも出来る。氷ってやっぱり、ロマンのある魔法だよなー。俺もやってみたいぜ。冒険者登録は絶対しないけど。

 ……そういえば。


「話は変わるが、レティセン。魔法で出した水って、必要なくなったらどうするんだ? そのまま地面に捨てるのか?」

「……そういう時もありますが、濡らしたくないときは空気に水を戻します。別に魔力は戻りませんが」

「てか師匠、さっき俺が飛ばしてた魚群がどうなったか、見てなかったのかよ」

「あー、そっか」


 会話に乱入してきたナバーの指摘で、確かに水の魚群が空気に溶けたのを思い出した。取り出すだけじゃないの、自由自在感があって良いよな。俺だって与えたり奪った熱は戻せるけども。


「でも、違うんだ。俺が訊きたいのは、水を空気に戻せるなら、氷も、水を経由せず空気に戻せるんじゃないか?」


 俺の疑問は予想外だったのか、レティセンもナバーも目を丸くしていた。俺が見せたことないもんな。俺には出来ない芸当だからね。


「あー! この氷だって俺が出した水から出来てるんだもんなー! やってみよ!」

「あ、いや、ナバーはまず氷を「できた!」はっや」


 さっきまでナバーの手の中にあったはずの氷の玉が、すっかり消えている。えぇ、すっご。


「あ、レティセンは今日は試すな……」

「……魔力消費はほんの、ほんの少しでしたので」

「……なら、いいや」


 俺の言う事全然聞いてくれないんだけど、この弟子たち。問題ないから心配いらないんだろうけどさぁ……。


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