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マヨネーズの誕生と卵白衣のエビマヨ(2)

 マルバ兄さんからマヨネーズのレシピを教えてもらったシオンちゃんから、新しい揚げ物のアイディアが浮かんだと報告を受けたのは、5日後の9月19日、金曜日。弟子たちとの稽古のタイミングだった。


「びっくりさせたいから、今日は呼ぶまでキッチンに入らないでね!」

「俺の……楽しみ……」

「稽古頑張ってね~」


 明るく手を振ってキッチンへと消えていくシオンちゃんの背を、口を開いた間抜け面で見届けてしまった。

 く、くそっ! シオンちゃんに言われたからには、弟子との稽古を頑張らねぇと!


「というわけで、今日からお前らにはしっかりした氷を作ってもらう」

「何がというわけなんだよ」


 首だけ振り返っての宣言は、ナバーにバッサリ切り捨てられた。それはそう。

 今までのやり取りを見守っていたレティセンが、腕組みを解いた。


「……早く結果を出したい、ですし。やりましょう」

「それもそっか。俺も早く水中で氷の銛を作りてぇし。じゃ、師匠は見守っててくれー」


 話しが早い弟子二人は、トマトを片手に持った。……ナバーはいいとして、レティセンはどうも、焦っているな。


 理由は分かっている。“ヴィシタンテ・エノールミ”の時の、レティセンと領主館による勧誘が、うまく行かなかったからだ。その理由の1つに、『弟子がまだ結果を出していない』ってのがあるらしくて……。出来れば半年は苦戦しててほしかったんだが、思いつめた表情をされたら、なぁ。


 それからは、そもそも早かった習得速度が更に上がり、今では2人とも水分量の多い野菜果物を難なく凍らせられるくらいになった。

 シャリシャリ程度なら魔力の限り凍らせられる。水も直ぐに割れる程度ならスープ皿の厚さで凍らせられる。夏場の飲食店で重宝されそう。

 しかし、俺が作っている氷ほど凍らせられているかといえば、そうではない。どうも、水の動きを止めた、その先にまだ行けていないとのこと。熱属性の俺にはよく分からない感覚だが、水の動きを止めたら、魔力もそこで注入できなくなるらしい。

 それでも、今日からは氷を作ってもらう。大丈夫。下地は出来ているはずだ。


「……ぐっ、う」

「あ゛ー、またダメかー?」


 トマトの水分を止めたシャリシャリ状態にまでは2人とも出来てるが、更に硬い氷には出来ていないらしい。

 ナバーが冷たさに負けて、トマトを皿に置いた。


「冷てー! でも柔らかいまんま……。なぁフェル、じゃない、師匠! どうしたら硬く凍らせられますかー?」

「そうだな……。やっぱり、イメージが大事なんじゃないか?」

「どんなイメージ? 師匠はどこまで水から熱を奪ってるんですか?」


 どこまで、か。簡単に溶けない温度にまで下げること、とか? 鉄ほど硬くなるよう意識はしてるな。ってなことを言ったら、「水が、鉄……?」とナバーとレティセンに首を傾げられた。レティセンはそういう魔法使ってそうだから、ちょっと意外だな。


「蛇口を押さえたら、出てくる水が細く勢いよくなるだろ? あれって手に当てると痛いじゃん? まるでナイフみたいだと思ってさ。ナイフは硬い。水がナイフになれるなら、氷もナイフ程硬くなれるはず。その連想で、俺は氷を硬く作れるようになったな」

「へー! ウォーターカッター的なものから連想! 考えたこともなかった! 高速で動いてるもん筆頭じゃん!」

「……確かに、氷は岩のようでもあり、熱すれば柔らかくなり加工できる金属のようでもある」

「魔法はイメージだって、よく言ったものだよな」


 昔、バケツに水を入れてる間が暇だからって水道で遊んで怒られた甲斐があるってもんよ。プシャーッ! ってなるの楽しかった、ごめんなさい。


「金属は冷たくなると硬くなる。水も冷たくすれば硬い氷になる。熱属性の俺はこのイメージで氷を生み出すコツを掴んだ。水属性のお前たちも同じかどうかは分からない。研究に励んでくれ。魔力回復ポーションは用意してあるからな」

「「はい」」


 気持のいい返事をした弟子二人は、まず水そのものを観察しようとレティセンが呼びかけて研究が始まった。


 頼もしい。そして誇らしい。俺がほんの少し助言しただけで、こんなに自己研鑽してくれる。失敗を恐れず、視点を変えることもして。なんて見ごたえのある弟子たちだろう。


 俺はどっしり構えて、見守るだけだ。……いや、暇だから普通に会話に参加しよ。


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