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クリームクロケッタと冷製揚げ鶏もも(4)

 肉の方は完成したから一旦置いて、クリームクロケッタを揚げていく。クロケッタの表面だけを冷やしたレティセンとナバーがキッチンの端っこで座り込んでしまったから、一応下級魔力回復ポーションをそばに置いといた。


 ポトン、と熱した油に冷たい揚げダネを入れると、やはり重たいのか、鍋底について、浮かんでこない。まぁ、タネの中まで熱くなれば軽くなって、浮いてくる頃には美味しい色になってるだろう。

 リーリオも同じ考えなのか、隣の鍋で揚げダネを入れて、見守っていた。揚げ油の鍋が2つあるのって、やっぱり助かるな。


 ぶくぶく…… しゅわわ…… シュワーッ!


 リーリオの見立て通り、冷たくした揚げダネはやがてパン粉衣からブクブクと泡を立て、揚げ油の表面が大小の泡で覆われる。少しすると、美味しそうな色になった揚げダネが浮かんできた。

 衣が破れて中身が零れたら大変だから、ひっくり返すのは網杓子で1度だけ。出す泡が少なくなったものから引き揚げ、金網バットに転がしていく。


「……ふぅ、なんとか、30個揚げ終えたな」


 俺の揚げ物人生で1番集中したおかげで、1つも爆発させずに済んだ。こんな緊張する揚げもん、シオンちゃんからおねだりされなきゃ作ってやらねぇから。おいクロケッタ。お前、美味しくねぇとゆるさねぇぞ。


 出来上がった揚げ物を大皿に盛り付けて、2種のソースを入れたココット皿にスプーンを突っ込んで、パンも切り分けて、完成!

 エプロンを外したら、皆、席に着けー。


 5人横並びってなんか距離感じるから、俺とシオンちゃんはカウンターの内側に椅子を持って行って腰掛けた。あぁ、座ったら一気に疲れが……。食べて回復しなきゃな!

 さぁ、出来立てをいただこう!


「全員、皿出せー」


 クロケッタを持った大皿から、トングで2つずつ配膳していく。カリカリした表面、やわやわとした中身。潰さないようにトングで慎重に挟んで、差し出される皿に乗せていく。

 それにリーリオ特製のブラバスソースとマノルカソースをシオンちゃんが皿に滑らせるように盛り付けた。赤と白っぽい黄色が黒い皿に映える。この皿はシオンちゃんが食器職人の友達からオススメされたオシャレ皿だ。

 最後にパセリをもりっと添えて、召し上がれ。


「いただきまーす!」


 ナバーが先陣切って、クロケッタにナイフを入れる。

 しっかり目の衣がカリッと、サクサクっと軽やかな音を奏で、ナイフとフォークで断面を開くと、蒸気が香りと共に立ち、燻製したウツボの身を混ぜたクリームがとろりと皿に零れた。


「おっとっと……よし!」


 とろけ出たクリームを衣の中にナイフで戻したら、そのまま頬ばりよった。おいバカ、まだ湯気立ってたぞ。


「あっふっ!?」

「おバカ。水で口の中冷ましたら?」

「んーん!」


 シオンちゃんの気遣いを手で制して、ナバーはハフハフしながらクロケッタと戦う。熱いまま食べるのって、良いよな。分かる。それにしてもナバー、フォークでぶっさしてただけの頃が懐かしいくらい、ナイフの使い方がこなれてきたな。


 口の中からまだサクサクと衣の音がする。咀嚼の回数を重ねるごとにナバーの口はニヨニヨと歪み、目を瞑って上を向いた。


「んぉー! うんめー! やっぱ領主館のシェフはスゲー!」

「あはは、ありがとう。燻製の香りが良いだろう?」

「そう、それ! クリーム自体がバターのコクで旨いんだけど、巨大ウツボの燻製の、煙の香りがめっちゃいい! みんなも俺を待ってないで、早く食えよ!」

「ふふっ、それじゃあお言葉に甘えて」


 シオンちゃんが動き出したのを見て、俺もフォークでクロケッタを抑えた。


 ナイフとフォークから伝わる衣のカリカリ感。ナイフをサクッと立てると、中から少し重たいがとろりとした感触が伝わってきた。

 割るとやはりクリームが皿に零れるが、掬い取るように回収し、息を吹きかけて冷まして、はぐっと頬張る。


「! おぉ……」


 中のクリーミーさと、衣のサクサク食感。口内で燻製の煙の香りやウツボの旨味がクリームと共に舌に乗って、あぁ、美味い。


「皆、喜んでくれて良かったよ。出来立てのブラバスソースを付けるのもオススメだよ」

「そうね、せっかくプロがここで作ってくれたのだものね!」


 リーリオに進められ、シオンちゃんが赤いブラバスソースを半切れのクロケッタに付け、1口。辛いやつだけど、大丈夫か? あ、ちょっとびっくりしてる。


「か、辛いけど、美味しい! まろやか続きのところにトマトの酸味と辛口のパプリカ! ピリッとした刺激が食欲をかき立てるわ!」

「大丈夫そうで良かった」


 辛いのが得意ではないシオンちゃんが食べられるなら、見た目ほど辛くないんだろう。


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