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クリームクロケッタと冷製揚げ鶏もも(1)

 新弟子・ホージャス兄さんに水を凍らせる場面を早朝の漁港でたっぷり見せて、その翌日にはウティリザ兄さんと共に旅立っていくのを見送って。

 モレナ・メディテラニアこと、巨大ウツボしか揚げ物をやってないから、8月と9月の最初の修行の記録を見送って。


 やって来た9月5日、金曜日。今日は新しいオリーブ油を貰える日であり、それを届けてくれて調理指導してくれるリ-リオの、最後の派遣日でもある。


 普段通り、領主館の氷室に氷を納めて、いつもの馬小屋へ向かえば、見慣れた顔ぶれが3つ。御者で弟子のレティセン。その相棒のフランテブランカ。そして、大きめのバスケットを携えた、リーリオ。どことなく寂しげに見えるのは、俺が勝手に感傷に浸ってるだけか。それとも。


 馬車を牽く格好のフランテブランカが俺の方を向くと、つられてレティセンが、続けてリーリオがこちらを向く。動きやすそうなパンツスタイルだ。


「おつかれ。今日もよろしく頼む。レティセン、フランテブランカ、リーリオ」


 挨拶の為に手を掲げると、レティセンは会釈し、フランテブランカはその真似を。リーリオはにっこり微笑みつつ、顔の高さで手を振った。


「だから! クロケッタとブニュエロを勝手に閃かないでくれ!」

「やっぱり恨んでたか」


 最後の日なのに、しおらしさよりも恨み節とは。仲良くなったのか、嫌われたのか。涙目だし。

 流れるようにレティセンに促され、幌馬車の座席に座る。続けてリーリオが乗り込み、安全確認したレティセンが運転席に座り、発車させた。


 ガラガラガラ……

 平坦な道でも揺れるものは揺れる。それでも気にせず、リーリオは口を開いた。


「私は別に、恨んではいないさ。寂しいし、楽しみが少なくなったと叫びもするけどね。でもシオンの才能を潰すワケにはいかない」


 そこはもう諦めたってとこか。

 「それはそれとして!」と、リーリオは話題を変えて目を輝かせた。


「何やら素晴らしく美味しいソースがあるそうだね! 話はシオンとレティセンから聞いているよ!」

「あぁ、マノルカソースのことか。マルバを紹介……は、シオンちゃんがしてそうだな」

「その通り! 早速今日、君の家で試作させてもらうから!」

「ウチを料理開発室にするなよ」


 領主一家に出すための練習場にウチがなっちまったな。例のごとく、シオンちゃんは許可してるんだろうな。ついでに旨いもん食えるから。……今日で、終わるのに、か。


 世界は少しずつ季節が移ろう。似たような時間なのにこの間より影が伸びた地面を見てから、声にして笑うリーリオに尋ねた。


「リーリオ。先月は俺に凍らせ魔法を使わせるレシピを持ってくるって言ってたが、どんな揚げ物なんだ?」

「ふっ、それはまた秘密……とは、出来ないか。君に、そしてレティセンと噂の新弟子くんに頼りたいことがあるからね」


 その頼りたい魔法の活用術の説明を受けながら、馬車に揺られ、帰路についた。


 自宅に着いて出迎えてくれたのは、愛馬のリンドと、妻のシオンちゃんと、弟子のナバー。黄色のエプロンはそろそろ馴染んできた。


「おかえりなさい、みんな」

「おかえりー。えっと、リーリオさん、だっけ。はじめまして、ナバーっていいます!」

「はじめまして、ナバー君。天才くんの名は領主館にも届いているよ」

「そうなんすか!? 嬉しいっす! こっちも、リーリオさんの料理がすっごく美味しいって聞いてます! 今日を楽しみにしてました!」

「ははっ、ならば今日は腕によりをかけなきゃだね」


 さすが弟分を自認するナバー。褒めてちゃっかり懐に入るのが上手い。リーリオと良い関係になれそうで良かった。


 ただいまの挨拶を済ませ、3人ともエプロンを身に着けたら、俺はレティセンとナバーに調理中、凍らせ魔法を使う場面の説明をする。終えたら、何をするのかを復唱させた。


「えーっと? つまり、緩いクリームのタネを凍らせて、それに衣を付けて揚げる、のと」

「揚げた肉を冷やし、同じく冷やしたタレに絡める、と」

「リーリオによると、そういう事らしい」


 一度の説明でよく理解したな。まぁ、分からなくなってもリーリオに聞けばいいや。

 今日作る揚げ物は、クリームクロケッタと、冷やし揚げ鶏もも。最近は巨大ウツボが続いてたから、鶏肉が揚げて食えるのは、正直嬉しい。これを修行のついでに作れるんだから、今日はいい日だ。


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