マノルカソースと巨大魚のビール衣揚げ(4)
マルバ……兄さんとしっかり仲直りした後は、キッチンに戻って片付けと盛り付けだ。
巨大ウツボのビール衣揚げに、オーブンで焼いたゲンコツじゃが芋。パセリをもりっと添えて、モルトビネガーをボトルごと用意した。レモンも良いけど酢もいいぞ。
今できる片づけはないと確認したら、落とさない為に2つずつ、シオンちゃんと手分けして皿を持った。芋があるから、今日はパンは無い。
「さーさー、皆さんお待たせー! ビール衣の揚げウツボと、ゲンコツじゃが芋だぞー」
「お酢をかけてさっぱりするも良し、マノルカソースで旨さを倍増させるも良し! 自分が美味しいように食べてね!」
キッチンから皿をもって帰ってきた俺たちを、男5人は「待ってました」と歓迎して、空っぽの大皿を端に寄せた。お前ら、アレを食べきったの? メイン食べきれんの?
全員に同じ皿が行き渡ったが、食べ方は様々だ。
キチンとカトラリーを使って切って食べてるのは俺とレティセンくらいなもので、シオンちゃんを含んだ5人は豪快に手掴みだ。
そのままかぶりついてサクッと良い音を鳴らしたり。酢をボトルからピシャッとかけて、持てないから皿に口を近づけたり。スプーンでマノルカソースをかけて、噛り付いて口の端を汚したり。
一口ごとに味を変える人もいれば、はぐはぐと続けて食べ進める人もいる。俺も同じ味を続ける派で、酢をかけた箇所を中心に切り分けては口に運んで、端がカリッとしたゲンコツじゃが芋を切り分けてもぐっとして、またふわふわの揚げウツボに戻って、衣から染み出すモルトビネガーのコクとさっぱりさに美味しさを見出した。
「うめー!」
「衣が厚いのに空気を多く含んでサックリしてる! こんなの初めてすぎる!」
「ビーう衣って言ってたー、ビーうが大事なんだねー?」
「そうね。ホージャスお兄ちゃんが“酒に合う揚げ物”ってリクエストしてくれたけど、見当つかないから、いっそ衣にしようって思って入れたの!」
「シオンちゃん、天才だろ?」
「間違いない! こえ、ウチでも出せないかなー」
「たっぷりの油でないと潰れそうだが……」
「質がそこそこならオいーブ油、用意できるから……でもそえ、美味しいかー? 試作しないとだー」
まぁ頑張ってくれ、マルバ兄さん。マノルカソース以外にも、お前の店に通う理由を新しく作ってくれ。
最初はそのデカさに皆も気分が上がってたけど、腹が膨れてきたんだろう。食べるペースはゆっくりになってきた。
俺はここでマノルカソースを付けて、1口。
カリサクッ とろり ふわっ
んー! 酢でさっぱりしてた口に、ニンニクがガツンと効いたマノルカソースが堪んねぇ! このソースならとゲンコツじゃが芋にも付けて食べる。
ガリッじゅわっ とろっ ほろっもちっ
あー! 見込んだ通り! オリーブオイルが染みてジューシーになったカリカリでゴリゴリのじゃが芋に、まろやかな口当たりのソースが合う! これだけで1食になれそうなくらい食べ応えがあるぜ。付け合わせのつもりだったのに!
「あ、そうだ。皆、1つ報告がある」
真剣、って程じゃないが、話を聞いてほしいという声色で、ウティリザ兄さんが俺たちの注目を集めた。報告? なんだ?
「俺たち、また明後日には街から出るわ」
(え?)
「“ヴィシタンテ・エノールミ”も、解体しきったしね」
え、いや、ちょっと待って? そりゃこの2人がこの街に帰ってきたのはそれが理由だけどさ。終われば自分たちの日常に戻るのは分かるけどさ。
「そっか、寂しくなるわね」
「つっても、年末にはいつも通り帰ってくるよ。3ヶ月後か」
「その頃にはポーションの質を最高ランクに出来るように、向こうで鍛えてくるよ」
「頑張れよ、兄ちゃん」
「無理はしないでなー」
「……検討を祈る」
おや、レティセンまで。って、そうじゃなくって!
「あ、あー、じゃあ、ホージャス兄さん。明日俺、漁港だけ仕事があるんだけどさ、早起きできるか? 俺、ホージャス兄さんにほとんど何も教えてないからさ」
「あ、本当? じゃあお邪魔しようかな。良いよね、ウティリザ」
「まぁ、準備するもんはしたからな。二日酔い対策で空けるだけで」
良かった。間に合って良かった。二日酔いの頭で理解できるかどうかは分からないが。いやまぁ、修行時代の俺を見てるし、大丈夫か?
「じゃあ明日、早朝に漁港で。寝坊しないでくれよ? 本当に!」
「了解。早朝ね。薬草摘みで早起きには慣れてるから、大丈夫だよ」
あぁ、気付けて良かった。氷づくりの師として何もしないなんて、悪評が高まりすぎる。ギリギリ間に合って良かった。




