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“ヴィシタンテ・エノールミ”(3)

 仕事を終わらせたら、夕日を浴びたり、ギルド受付前のテーブル席で薬草茶をいただいて、冷えた身体を温めた。冷えることにはもう慣れたとはいえ、身体に熱が戻るときの震えは、どうしても抑えられない。


「おおぉ……。お茶が通ったとこが分かるわ……」

「美味しい……。これ、身体が温まる薬草が入ってるらしいから、すぐに末端まで暖かくなるぞ」

「そうなのか。それにしても、座り心地のいいソファだな。買い換えたか?」

「らしい。俺が毎週座るから、自分たちの休憩用のついでにってさ」

「厚遇されてんな」

「まぁな」


 不遜に応えたら、薬草茶の缶と茶器が広げられたローテーブル越しのウティリザ兄さんが、お茶を吹き出しそうになって咳き込んだ。なんだよ、ナメられないように自信持てって指導してきたの、あんたら兄妹だろうが。


 そのままのんびり、ウティリザ兄さんと熱いお茶を飲んでリラックスしてると、台車をゴロゴロと押す人影が俺らの前で止まった。


「やぁ待った? ウティリザ、フェルティ。フェルティは久しぶりだね。少し見ない間に、自信に満ちてる顔付きになったね」

「そ、そうか? ありがと。あと、久しぶり」


 顔を合わせた早々に誉め言葉をくれたのは、ホージャス兄さん。いつも顔に微笑みを浮かべてる人。台車には薄めの木箱が5つ積まれている。


「ウティリザ兄さんから聞いた。ポーション検定の5級に受かったんだってな」

「うん。これで何とか、下級の活力・魔力回復と治癒ポーションは販売できるクオリティってことが証明されたよ。ほら、見て!」


 声をかけてきた時から嬉しそうだった表情をより濃くして、足元に積んである木箱を両手で1つずつ持ち上げた。そのどちらも空っぽで、見えるようになった3段目の木箱も空っぽだ。


「さっき言った3種類! 1箱分12個を買い取ってもらえたんだ! つまり、36個!」

「おー凄いじゃん! 今回の旅に出る前は12本中3本も合格できればって感じじゃなかった? でっかい男になって帰って来たなぁ!」

「ほ、褒めすぎ……。まだ5級だよ? ほら、こっちは残っちゃったし……」


 謙遜するホージャス兄さんは空き箱を台車から外すと、残った2つの内の上段を持ち上げ、下段のことも指し示しながら見せてきた。そこには3本と4本、取り残されたように佇む、口をコルクで閉じられた丸底フラスコがあった。


「筋肉強化と水中呼吸は、4つと3つしか合格しなかったよ。7つ中ね」

「そりゃ、独学ならなぁ。自分の満足まで、極めてけよ」

「うん、ありがとう。目標は3級なんだ。その時にはフェルティの凍らせ屋にも魔力回復と、凍傷予防のポーションを納品するよ」

「た、助かるぅ……」


 聞いたことねぇポーションだけど、そんなのあるなら是非とも! ただ、何年後になるんだ?


 木箱を台車に戻したホージャス兄さんが、左に寄ったウティリザ兄さんの隣に、俺の正面に座った。ウティリザ兄さんは俺たちが話してる間に淹れた薬草茶をホージャス兄さんに出した。


「ほい、熱いから気を付けろよ」

「ありがとう、ウティリザ。……それで? 職員さんに聞いたけど、フェルティは俺に用があるんだよね?」

「あぁ、勧誘しに来た。ホージャス兄さんも、水属性持ってるだろ? できたポーションを冷やしたり、したくないか?」

「……それはとても、魅力的な提案だね」


 凍らせ魔法を習得した先の活用を一つ、提案したら、ホージャス兄さんは微笑みを少し獰猛にして、食いついてきた。



 ポーションってのは乱暴に言うと、素材をお湯で煮出したものだ。研究職員さんから教えてもらった話では、煮出す時間ってのはまぁ大事らしくて、足りなくてもやりすぎてもいけないらしい。

 その流れで、出来上がった後もなるべく、空気に晒さない形で早く冷ましたい。そのために俺の氷で氷水を作って冷やしてんだと。

俺の氷が無かった頃は、少し早めに取り出して、余熱で完成させてたって。完成品の色より浅めの色だから、そのタイミングが掴みづらい、らしい。

 きっとホージャス兄さんは余熱を活用している方だろう。だから、誘えば乗ってくると確信してた。


「だろ? 氷にまではしなくて良いしさ。出来上がりホヤホヤのポーションを冷ませればいいんだから」

「あれっ、いいの? それだと評判上がらなくない? “満足に育てられないぞ”とかって……」

「氷を作れるようになるには時間かかるから、仕方ないだろ。それに、街の外に出てる冒険者を弟子にしたとなれば、他の冒険者も俺の弟子になりやすいだろ?」

「いかにも今思いついたような言い訳だけど、それもそうだね」


 う、うそだろ……なんでバレたんだよ……。

 狼狽えて身体をビシッと固めてしまえば、2人そろって笑いやがった。


「俺らの前で悪ぶろうなんて、面白すぎるって」

「カマかけに簡単に引っかかるウチは、悪役なんて無理だね」

「……うっせぇ」


 5歳しか変わんねぇのに、年上ぶんな。いや、年上だけど。


 その後は、『ポーションに熱を挙げるのもいいし世話になる心づもりだけど、青果店を閉めるのは勘弁してくれ』って話をして、別れた。あー、恥かいた。変に猫かぶりしてた俺なんなんだ。


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