“ヴィシタンテ・エノールミ”(1)
インパクト狙いで素材表記無しです! 何がメインかはお楽しみに!
朝から雨が降り続き、昼過ぎからやっと晴れてきた8月12日の火曜日。
今日は北地区を中心に肉屋や魚屋などを回って、最後に各ギルドなどが集まる中央区にやってきた。その中で、昨日話題になった人に会えた。
「あ、ウティリザ兄さん」
「お、フェルティ! 久しぶり、大きくなったなぁ」
「さすがにここ1年は身長伸びてねぇよ」
俺ももう20歳だぞ。こんな頭をわしゃわしゃされて喜ぶ年はとっくに過ぎてる。
夕日の日差しが降り注ぐ中、薬師ギルドの前でシオンちゃんの兄、ウティリザに会った。夕焼け色の瞳と栗色の髪がシオンちゃんとお揃いだ。ガナド父さんそっくりに筋骨隆々だけど。
最後の仕事場がここで良かった。御者のバラトと馬のテロホを帰らせて、ウティリザと少し喋って帰ることにした。
「ウティリザ兄さん、おかえり。シオンちゃんとも会った?」
「あぁ、朝、実家でな。あいつ、野菜買いすぎじゃね? 大丈夫か、腐らせてねぇか?」
「大丈夫だよ。うちには馬のリンドがいるし。それに保冷庫もあるし」
「保冷庫か。そういうの聞くと、羨ましくなるな」
冒険にはいらないと思うけど。重いし、嵩張るし。でも、生の食材が比較的新鮮な状態を保てるっていうのは、良いものだ。
ため息をこぼしたウティリザが、腕組みをして俺を見た。
「ナバーから聞いたぜ。水属性でも氷を作れるようになったらしいな」
「まだ魔力効率が低いけどな。あー、ホージャス兄さんもウチに入門してくれねぇかな」
「ナバーも誘ってたらしいぞ。ただ、『土属性優勢だからなぁ』って渋ってた。まぁ、お前からも誘ってやれば、入るんじゃねぇか?」
「そうする」
ナバーの兄、ホージャスは土と水の魔法適性持ちだ。土が強いとはいえ、2属性持ちはやっぱり凄くてズルい。氷まで作れるようになったらもっとズルい。でも、フロラおばさんのご所望のグラス用氷を俺が作る頻度が少なくできると考えたら、やっぱり誘っとくべきだ。
「そんなホージャス兄さんは今、薬師ギルドの中に?」
「あぁ。自作ポーションの鑑定をしてもらってるぜ。聞いて驚け。今回のその数なんと、50個だ!」
「もうポーション屋になれよ」
「なー」
その50個のポーションを運ぶのに、ウティリザ兄さんが駆り出され、売れなかった分を持ち帰る為に外で待ちぼうけを食らってるってとこか。んー、まだ掛かりそうか?
「俺はそろそろここでの仕事に入るけど、ウティリザ兄さんも見学してく? どうせ暇だろ」
「そうだなぁ。涼ませてもらおっかな」
ただ待ってるよりは、俺の話し相手になってくれ。
開け放たれた木の扉をくぐると、色んな薬草の匂いがより強くなる。慣れてないと咳き込みそうな空気の中、倉庫の鍵を持つギルド職員さんに『今日はウティリザ兄さんも連れていくこと』、『ホージャス兄さんが俺たちより先に用事を終えたら、保冷庫の方へ案内してほしい』と注文して、裏に回った。
薬師ギルドの裏には、小さな薬草畑になっている。ポーションの基礎になる薬草を育てているんだ。栽培できるかっている研究用だから、多種多様だが数自体は少ない。無駄にせず使えて、1種類の薬草でポーションが3個出来るかどうかの栽培量らしい。
その畑の隅に、窓の無い小屋が立っている。それが氷を仕舞ってある倉庫だ。このギルドでは氷は、出来上がった熱々のポーションを急冷する氷水に使われている。らしい。
鍵を開けて入った中は魔道具の熱をほとんど発しない照明一つで端まで照らせている。つまり、それほど大きくない木造の小屋の中には、鉄製の棚が左右の壁沿いに設置されている。上下2段の棚には、猫が1匹すっぽり入る大きさの鉄の箱がズラリと並んでいる。
扉の鍵を開けたギルド職員にどの箱の水を凍らせたら良いかを確認して、仕事を開始する。
まずは鉄製の両棚に手を当て、魔力を流して熱を奪い取った。キンッと急激に下がる小屋内の気温。背後でウティリザ兄さんが寒さを堪える為に両腕をさする音が聞こえた。もっと寒くなるし、温まろうとするなよ。氷が溶ける。
「それじゃ、今日も頼みます」
「あぁ。ホージャス兄さんの件、忘れないでくれよな」
「はい。……フェルティさんがお仕事を済まされる方が早いと思いますけどね」
「そうだな」
「ええ……」
ホージャス兄さんがいつ薬師ギルドに入ったかによるけど、長すぎない……? まぁ待つ必要もないと切り替えて、氷にしてくれと言われた左手の棚から仕事をしていく。
水が並々と注がれた鉄の箱に左右から両手を当て、魔力を流して熱を奪う。蓋の無い箱の中で、俺の手が触れている部分からピキピキと白く凍りついていく。中央近くまで白くなったら手を当てる部分を変え、また凍らせる。最後に上から魔力を送って。はい、1箱終わり。これをあと13箱と、右棚の半分溶けてる4箱を凍らせなおす。うん、30分もあれば終わるな。
「早いなぁ。前より成長してんじゃん。凄いなフェルティ」
「そうか? ありがとう」
1年くらい期間を空けた、親しい身内からの成長への誉め言葉。少しだけ気恥ずかしいが、俺の自己流修行をずっと見てきたその目は確かだろう。自分が遅々としても成長してると教えてもらえて、素直に嬉しい。大人になると褒められないし、俺は思春期をとうに過ぎてる。
よーし! 残りもやっちまうぞ!