歓迎会と魚出汁の潰し芋揚げと魚と芋の練り揚げ物(5)
ふと、揚げダネの入ったバットを見ると、残り3つと少なかった。
「そろそろ夕飯か。向こうもそろそろ切り上げてくるわ」
「うん。ねぇ、ナバーはどんな感じ? 揚げてる音であまり会話は聞こえてこなくって」
「けっこう前のめりって感じだな。あれはすぐにでも習得しそうだ」
「習得が早ければ早いだけ、効率化の研究が進みやすいだろうし、良い話ね」
「あぁ。だからって、変な使い方を思いついて、そっちで消耗激しすぎて倒れられても困る。ちゃんと見張ってなきゃだな」
「頑張ってね、お師匠様」
「あぁ」
年下の友人の様子を報告したら、弟子2人が待ってるカウンター席に戻った。ナバーとレティセンはなんかもう打ち解けてるみたいで、結構にこやかな表情だ。あ、ナバーに気付かれた。
「あっフェルティ師匠! 質問いいですか!」
「分かってることなら答えられるぞ」
「あざっす! フェルティ師匠は、凍らせる水に魔力を通すんすか? それとも何か違う方法?」
「あぁ、対象に魔力を通して、凍らせる時は熱を奪ってる」
「魔力を通すのがやっぱり大事?」
「俺はこのやり方が今のところ、効率がいいな」
「なるほど……」
何がなるほど、なんだろうか。レティセンまで顎に手を当てて、何か考え込んでるし……。
「お前たち、応用を考えるのも楽しいだろうが、まずは氷を安定的に作るっていう基本を達成してから試せよ」
「はーい」
「……はい」
基本が出来てりゃ、応用もやりやすいだろうしな。……。…………。
「……まぁ、お前たちが何を企んでるのか、師として知っとくべきだ。言ってみろ」
俺に内緒で面白そうなこと考えてんなよ。冒険者の考える魔法の応用なんて、絶対攻撃転用だろ。ワクワクする!
否定されてるわけじゃないと分かったナバーが、笑顔で手を挙げた。
「はいはいっ! 魔力を通したとこが氷になるなら、水中で氷の銛を作れば泳いでる間は両手が空くと思いまーす!」
「……魔法で出した水には当然、自分の魔力が通っている。ならば遠隔で氷が作れるのではないか、と」
「お前らそれっ、絶対俺の前で練習しろよ!? 魔力消費デカすぎて欠乏症でぶっ倒れるぞ!」
ワクワクよりヒヤヒヤもんじゃねぇか!! 恐ろしいこと考えやがって! モンスターの前で倒れるお前らが目に浮かんで、肝が冷えたわ!
改めてレティセンとナバーの2人に“まずは氷を安全に、安定的に作れるようになることだけに集中しろ”ときつく言い聞かせてたら、シオンちゃんが夕食の準備を終えたらしい。キッチンから食事プレートを持ってカウンターに来た。
それじゃあ、切り替えて!
「新弟子ナバーの歓迎会を再開しよう。ナバーはこっちに、レティセンもその隣に座ってくれ」
「ありがとう! ございます! あれ? シオン姉ちゃんはカウンターの中?」
「あぁ。誰もシオンちゃんの隣に座らせねぇ」
「相変わらずだな~」
互いに子供のころから知ってる仲。俺の威嚇を笑って流しながら、ナバーは案内されたカウンター席に腰掛けた。レティセンはその左隣。俺はナバーの右隣かつ、シオンちゃんの正面の席だ。
カウンターの上にはすでにサラダが偏って盛られた皿が置かれている。別皿にはスパイスも効いた濃い茶色でサラサラなソースが入っていて、それは各自かける感じだ。
「? シオン姉ちゃん、メインは?」
「ふふっ、それは、これよ!」
カウンターの下からシオンちゃんが取り出したのは、金属網バットにこんもり盛られた、2つの揚げ物の山だった。1つは丸く、衣はついてない。もう1つは楕円形でパン粉衣だ。中身が違うことを分かりやすく衣で表していた。
「2種類も作ってくれたの?」
「ナバーのリクエストは、“野菜を使った、魚の食感の無い揚げ物”でしょう? これだけじゃ正直、どっちが主役なのか分からなかったから、どっちも作っちゃえばいいと思って!」
「どっちも……」
「楽しかったよ、ありがとね」
若干申し訳なさそうに背中を丸めるナバーの皿に、平たい円と楕円の揚げ物が2つずつ置かれた。むちっとしたのと、サクサクしてるの。もう口触りが違うんだろうと楽しくなる。
全員の皿に行き渡ったら、命に感謝して、いただきます。
「ナバーからどうぞ。どっちからでもいいよ」
「う、うん。じゃあ、楕円形の方から……。なぁこれ、名前とかある?」
「名前? うーん、そうねぇ。“魚出汁の潰し芋揚げ”、かなぁ」
「出汁、かぁ」
感心するナバーは左手に持ったフォークでパン粉衣の揚げ物をザクンッ、カツンッとさらに当たるまで突き刺し、明るい茶色で美味しそうに上がったそれをしげしげと、回して眺め、匂いを嗅いで、喉をゴクリと鳴らして。期待できらめく目を細めて、魚出汁の潰し芋揚げへ噛りついた!
ザクッ! サクッサクッサク……
「んふーーーっ! うまーーーっ! なんだこれ、なんだこれーーっ!」
目をかっぴらいてうまい美味い言ってくれるナバーは、また勢いよく潰し芋揚げに噛り付いて、衣のパン粉をパッと散らした。
「食感はサクッと、ほろっと!噛むたびに染みてる魚の味が広がって! なんだこれー!」
「ふふっ、ありがとね」
ナバー、感想言うの上手いな。俺も早く食べたいし、レティセン、さっさと食べな。お客さんから食べてもらわないと俺、食べれない。そんなマナーな気がする。