歓迎会と魚出汁の潰し芋揚げと魚と芋の練り揚げ物(3)
俺たち夫婦お気に入りの肉串屋台、『ロセちゃんの狩った肉串屋』は、ピンク色の屋台と筋骨隆々なロセ姉さんのギャップと、甘辛タレと自分で狩って焼く肉串が売りの店だ。
解体から使いやすいサイズに肉を加工するのは、彼女が贔屓にしている肉屋に頼っている。そのおかげで、提供している魔物肉には硬さも匂いも、無駄な脂も筋も無い。その肉屋は俺が氷を卸しているお得先の一つでもある。
1つ業者を挟んでるせいで周囲の出店より価格は高いが、ロセ店主お手製の果物を使ったタレが甘辛くて癖になり、肉自体のクオリティも相まって、価格以上の価値がある。
「ロセ姉さん、豚串の大を2本くれ」
「あーい! あ、フェルティちゃんたちには世話になってるから、これも食べてって!」
「? これは?」
「マッシュポテトに肉の切れっ端を混ぜたサラダ! 食べ応えが増すでしょう?」
「あ、あぁ。かなりずっしりしている」
この広場での出店許可を取ってる店舗だけが使える、濃い緑色の長い皿に、豚串4本盛られて渡された。2本は注文した通り、ワイルドボアの大串、もう2本が並串にマッシュポテトが分厚く塗られていた。細かい肉と、ニンジン玉ねぎも入ってるか? 芋の色が濃くて、旨そうだ。
「新商品にって考えてるんだ。シオンちゃんから評判聞いといてよ? できれば本人の口から聞きたいけどね」
「すごく美味しかったら自分から言いに行くと思う。自信あるなら待ってろよ」
「ふんぞり返っとくね!」
「ふはっ」
腕組みして、存在感のある胸部を張るロセ姉さん。どんだけ旨いんだこれ。ただモンじゃあなさそうだな。
飲み物を買いに行ってくれたシオンちゃん、リンドと合流して、近くのベンチに腰掛けた。いい加減俺を満たせと腹がぐうぐう鳴っている。冷める前に、いただきます!
まずはいつもの豚串から。炭の香りと焼けたタレが香ばしく、端っこはカリカリしている。焼き時間の短縮の為に一度茹でているという肉は軟らかく、串を持ち上げると端が少し垂れた。一切れ豪快に頂こう。
はぐっ ピリッあまっ もぐもぐもぐ…… じゅわっじゅわっじゅわっ……
「うっまぁ……!」
ニンニクやショウガ、スパイスも入った甘辛タレがガツンと効いて、サクッと歯切れのいい赤身肉は噛めば噛むほど肉の旨味が溢れ出す! 茹でたおかげか、どことなくさっぱりしていて、最後舌の上に残るのはソースの果物の甘さ。
それを、レモン水で流し込む! ぐっぐっぐっ! ぷはーっ! 酸っぱ爽やか! ちょっと入った果肉がプチプチしてる。
「相変わらず、ロセちゃんの串は美味しいわね!」
「だな。そういえば、シオンちゃんからの試作品の感想が欲しいって言ってたぜ」
「えぇ? ちょっと、責任感じちゃうわね。……感じたことしか言えないけどね」
「それがいい」
プロの感想と一般人のアドバイスは何一つ信用ならないからな。うっせぇんだよ。熱属性は俺しか持ってないのに、俺のやり方にケチ付けんなクソ冒険者ども。顔覚えてるからな。何が、討伐に使えない雑魚だボケ。
冒険者ギルドで昔あったいざこざを思い出して、一気に怒りが沸いてきちまった。頭を振って雑念を追い出したら、マッシュポテトを乗せた豚肉串を食う。
もちっ 旨味パッ! ぴりっあまっ もっもっもっ…… じゅわっじゅわっスワ~ 旨味ぶわーーっ!
「すっげぇ旨いじゃねぇか! 芋があるからてっきり優しい味になるかと思ってた!」
「芋に肉の旨味を吸わせたのね。じゃが芋のもちもち感から、肉と、そうね、ニンジン玉ねぎのエキスもじゅわっと溢れて……。甘辛いタレとの相性もいいし、とろりとしてくる芋と噛みしめたい赤身肉の食感の組み合わせも、私は好きよ」
「食べ応えと腹持ちが良いだけじゃなく、満足度も高い。こりゃ人気商品になるぞ。チーズを上からかけて、炭を上からかざして溶かすのも、コクが増して旨いかもな」
「ちょっと何それ、すごく素敵! 食べたら早くロセちゃんにリクエストしましょ!」
「だな」
シェフへ感謝を伝える為に、バクバク食べ進める。通行人に芋乗せ豚串を食べてるところを見せたおかげで、ロセ姉さんの店は今日も繁盛したし、ご機嫌になってくれたロセ姉さんから特製マッシュポテトの作り方を簡単に教えてもらった。大量の肉を仕込む店らしいレシピだったが、まあなんとか家庭用にも出来るだろう。
きっとこれは、ナバーも喜んでくれるから。