歓迎会と魚出汁の潰し芋揚げと魚と芋の練り揚げ物(2)
傍点は誤字ではない印です。
シオンちゃんとリンドとの乗馬散歩デート。まずは2度目のモーニングを、馬留場のある喫茶店、その名も『馬留カフェ・のんびい屋』でいただく。
野菜は自宅で散々食べたから、ここではワイルドボアのベーコン、チーズスクランブルエッグ、ゴロゴロタイプのポテトサラダ。サワーブレッドとコーンスープのセットを2人とも注文。品が届くのを待ってる間に窓からリンドにニンジンをあげたりして、ゆったりとした朝の時間を過ごす。
「お待たせしました~。今週もーあいがとなー」
「ありがとう、マルバ。今日も馬の型取りのデザート、可愛いわね」
「メロンと、馬蹄型のビスケットか。ありがとう」
「世話になってうのはーこっちもだかあなー。お前あが宣伝してくえてうからー、繁盛してうぜー」
仕事中に馬を連れてる人に出会った時には、欠かさず教えてるな。だって、俺もシオンちゃんもリンドも、この店大好きだもん。
少しだけ間延びした喋り方の男、マルバが店主をしてる『馬留カフェ・のんびい屋』は、マルバの馬好きが高じて始めたカフェだ。かつてシオンちゃんの乗馬の先輩兼先生だったが、成人の少し前に落馬して、ラ行と走るのが苦手になっちまって、好きだった乗馬も怖くて出来なくなった。
それでも、馬が好きなのは変わらなかった。仕事中も馬を見られる環境を作りたかった。だからこの店を始めたんだ。
「繁盛してんのは、リピーターがいるからだろ? 客の心を掴んだのは、マルバだぜ」
「あはは、あいがとー!」
生来からのんびりしてたマルバの喋り方も、動きも、表通りから一本外れた通りに店があるのも、カフェ内のゆったりした空気を作るのに貢献してると思う。
そして、この美味しい料理も。
「今日も全部、美味しいな」
「ね!」
白い果肉のメロンは、よく熟れて甘くて、幸せになる味だった。
太陽が完全に顔を出した頃、シオンちゃんを背に乗せたリンドの綱を引いて、馬を走らせられる広場まで歩く。
エノールミ湖沿いの、領民が釣りも楽しめるセグイリ公園。中々の広さを誇る公園には、ピクニックに最適な芝生広場もあれば、領主館の馬たちを走らせたり、新人冒険者たちの訓練所にもなっている運動場もある。お目当てはその運動場の一角。馬用に隔離されている場所で、思い切り走らせてやるんだ。
ドドドド……ドドドド……たったったっ……
「リンド、まだ走れるよね! ハイヨッ!」
ダダダダ……!
「……いい顔で、走ってるなぁ」
シオンちゃんは笑顔で、リンドは真剣な表情で。勢いよく地面を蹴り上げ、舞い上がる土煙で臨場感がある。腰を浮かせた前傾姿勢のシオンちゃんに指示されて、リンドは全力で広場を駆け回る。
ウキウキ跳ねるように。ヒューンと飛ぶように。ドドドド……嵐のように。時折休憩するように緩く走っているが、一週間分のフラストレーションを晴らすようにひたすら走っていた。
……いうて、俺がいない間も普通にここ使ってるよな?
「いつか、遠乗りって奴をしてみたいな」
そんなお貴族様みたいなマネ、魔物が跋扈する街外で、小金持ち程度の平民ができるワケないんだけどな。せめて俺にできるのは、この後の散歩コースを変えて、見える景色を同じにしないこと、くらいか。
「……それにしても、今日は張り切ってるな」
いつもより多くダッシュしてる気がする。まぁ、リンドとシオンちゃんが楽しければ、それでいいさ。
2人が走るのに満足した頃には、すっかり昼飯時だった。日陰で筋トレしてた俺もめちゃめちゃ腹の虫を鳴かせている。水分補給とリンドへの餌やりをしてクールダウンをしたら、食べたいものを話し合って、その店まで歩いた。
「今日は暑いなー」
「そうねー。肉でスタミナ付けたいねー」
「食べやすいから串系がいいな」
「ふふっ、なら、結局あそこね」
「ははっ、そうだな」
ってことで、中央広場でやってる出店市場へ。ここなら馬が居ても気にする人はいないし、許可もいらないし、自分の好きなの買えばいいし、さっと食べられる。本当に楽すぎて、毎週決まってここに来てる。リンドも俺が綱を引かなくても向かえるんじゃないの?
「じゃあフェルティくん、いつものお願いねー」
「うん。そっちも飲み物大きいの買ってな」
今日も、味の濃い肉が食べたい気分。それなら、ピンクに塗られたド派手な屋台へと向かおう。あぁ、甘いタレが炭火に落ちて、燻される味のある煙。肉の焼ける良い匂いと音。味を知ってる腹が、そこへ向かえと足に命令を出している。
「ロセ姉さん。豚串あるかい?」
「あらフェルティちゃん! もっちろん! 今日の肉はワイルドボアね! 当然、私が狩ってきた上等物さ!」
はつらつに笑顔を見せるお姉さん、ロセは、自ら獣型魔物を狩って串にしてる、パワフル冒険者な店主だ。炭火の上で肉串を持つ腕の、なんてたくましいことか。俺の太ももくらいありそう。ここの肉を食えば、俺もいつかこの腕になれますか。