表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/66

新しい油とエスカベーチェとアドボ(7).

※レティセン視点

「さて、今日も聞こうか。氷や、フェルティ関連で何か進展などはあったかい? レティセン」

「はい。あくまで話を聞いただけですが、熱属性魔法の新たな活用法を見出したようです」

「おぉ……彼の成長はとどまることを知らないね」


 8月2日、土曜日。決まり通り、今日も領主であるエノールミ男爵へフェルティ師匠との修行の成果などを報告に来ていた。

 とはいえ、昨日はリーリオがオリーブオイルを持ってくる日で、カウンターで野菜切って、揚げ物作って食っただけ。報告することは本当に少ない。


「肉を布のように薄く切る目的で、肉の水分を凍るギリギリまで温度を下げる、その加減を身に着けたそうです」

「そうか、肉が動かなければ切りやすいし、カチコチでないなら刃の入りも容易いね。どうしてその技術が必要になったんだい?」

「リーリオとの会話から推察するに、挟んだり巻いたりなどの揚げ物調理に薄い肉を使うためでしょう。以前、フェルティ宅で鶏肉を叩いたもので野菜を巻いたカツをご馳走していただきましたが、奥方が苦労したと言っていました。その労力の解消の為と考えます」

「ほぉ……。我が家のシェフからの指導を受けずとも、フェルティたちは我流レシピを発明しているという噂は、本物のようだね」


 まぁ、リーリオが開けた場所であんな大声で捲し立ててたんだ。誰が聞いて立って、それが領主の耳に入ったって、何もおかしな話じゃない。


「もう一つ。こちらは本人曰く開発中だそうですが。“対象物の周囲に熱や冷気を逃がす”技術を閃いたそうです」

「ほお。それはどういう場面で活躍するのかな?」

「きっかけはやはり肉の扱いだそうで。冷凍肉の解凍を考える中で、熱を与えるのではなく、冷たさを逃がすという思考に切り替えたそうです。熱伝導のいい物体に冷たさを逃がせば、素早く解凍しつつ冷凍肉に火が通らず、常温にすることが出来る、と」

「なるほど。冷たいものでできるなら、熱いものに転用できると考えたわけだ」


 これも、フェルティが熱属性魔法使いだからこそ閃いたんだろうな。火属性、氷属性なら考えもしない。やっぱり熱も侮れない。


「しかし、開発中とのことだ。どこが足りないのかね」

「はい。対象物が大きなものであればあるほど、中央はその温度を保持したままになるそうで。今のところ、術者本人が魔力を流して熱を吸い取ることでしか解消出来ず、術者の身体への負担が大きいそうです」

「んー、気にしなくても良さそうだけどねぇ。まぁ彼のこだわりに意見はしないさ。それよりも、レティセン」


 それまで背もたれに身体を預けていた領主は、体を起こし、執務机に両肘をついて手を合わせた格好で、俺の目を見据えてきた。


「一つ目の、物体を凍るギリギリの温度にする魔法技術。それを身につけられそうかい?」

「……そのつもりです」

「よし! 買い取ろう! 最近は暑くて仕方ないね! なるべく早くマスターしてくれたまえ!」

「はい」


 代金は弾んでくれ。あと効率はさほど良くないから、あまり数は期待しないでほしい。死んでしまう。


 その後、いつ話を聞いたのかシェフのエルナンに連れ去らわれて、メロン、桃、ブドウを凍らせられた。水分量の多い果物ばかり用意しやがって。おかげで死にかけたわ。午後からのギルドでのモンスター解体バイト、危うく行けなくなるところだった。


 ……シャリシャリの甘い果物は、何物にも代えがたい美味さをしていた。





 今日も今日とて、街に氷を卸す。土曜日は診療所が多めで、火傷や発熱の病人の顔を見ると、心が痛む。もっと、溶けにくい氷を作れないだろうか、やはりそれには氷属性じゃないとダメなんだろうか。


 今抱えてる課題も解決してないのに、次から次にやりたいことがやってきて溺れそうになりながら、家に帰ってくる。


「おかえりなさい、フェルティくん」

「ただいま、シオンちゃん」


 家で帰りを待っててくれる愛しい人の存在に癒されて、コートを脱いでカウンターに着く。今日はもうメインが出来てるから、夕食の準備は盛り付けるだけ。サラダと、ガーリックトーストと、エスカベーチェ。朝より身はくったりしてる。よくマリネ液が染みてそうだ。


「一日漬けるのが理想って話は、本当だったんだな」

「そうね。しっかり漬かってるのに形は崩れないしね」


 俺の肉体を作り、体力になってくれる命たちに感謝して、いただきます。


 すん じゅわっすっぱ ふわっ ほろほろほろ……

 ぎにっ じゅわっあまずっぱ にっにっにっ……


 疲れてるせいかな。酸っぱいのが心地いい。リーリオが酸っぱいものは疲労回復の効果があるって話してたけど、あれ結局本当なのかな。

 それはそうと、切り身の方はだいぶ柔らかいな。噛んだら形を保てないというか、すぐにエキスになったぞ。カワムツはまだ食感はあって、噛めば噛むほど旨い。こっちの方が好みかも。俺、魚なら小魚系が好きなんだな。


「美味しいね、シオンちゃん」

「そうね、フェルティくん」


 揚げもんって、寝かしても旨いもんがあるんだなぁ。時間をかけて調理、か……。


お気付きの方も多くいらっしゃるでしょうが、エスカベーチェは南蛮漬けです。南蛮漬けのルーツにいる揚げ物だそうです。


今回もご覧いただき、本当にありがとうございます。

作者の執筆やる気につながりますので、皆様どうか、ブックマーク、評価、いいねをよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ