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新しい油とエスカベーチェとアドボ(5)

 長い時間をかけた調理を終えて、やっと夕食だ。

 今日のメニューはアドボ。酢漬けにした魚に粉を付けて揚げた、きっと川魚特有の匂いがなくなった美味しく柔らかな揚げ物だ。付け合わせはいつもの千切りキャベツと熱い酢に短時間浸した野菜たち。揚げ物で油に濡れた口をさっぱりさせてくれるだろう。


 俺らの糧となってくれる命に感謝を。いただきます。


「火が通ったおかげか、酢のおかげか。表面がテカテカだな」


 最初に目を付けたのは、酢浸し野菜。しっかり漬けたというよりはというところから、ピクルスでもなく浸しと名付けたそれの野菜は、ニンジン、玉ねぎ、セロリ、黄色のパプリカ。

 フォークで玉ねぎを刺せば、触りは軟らかく、それより先は芯があって、シャクッと水分のある硬さが感触として伝わってきた。何切れかまとめて口にすれば、第一に酸っぱさが口の中に広がって、砂糖と玉ねぎ由来の甘さが追いかけてきた。そして最後は、爽やかに口が落ち着いた。

 ずっと揚げ物してたから、口まで脂ぎってたのかな。すごくさっぱりする。って、そういや味見つってつまみ食いしてたわ。そりゃ清々しくなる。


 ニンジン、セロリと食べて、いよいよ揚げ物へ。頭以外の姿揚げなカワムツ。3cm幅のテンチ。心なしか身まで黄色いようなキイロココディリロガー。どれから行こうか。


「シオンちゃんはどれから食べる?」

「そうねー、捌くのに時間がかかったキイロガーかな。たくさん食べてやらなきゃ気が済まないわ」

「そっか、魚を買ってくるところからってことは、アドボ用の魚はシオンちゃんが全部捌いてるもんな……」

「自業自得よ。鱗と骨は矢とかの素材になるからって全部取ってくれたけど、身は全部買った方が3割お得って言われたから……頭も内臓も取ってくれたし……」

「それでもだよ。ひとりだったろ? それにテンチはどうだったんだよ」

「……そうね。私はテンチを滑り取りから頑張ったんだものね!」


 キイロガーの半身一つでひーこら言ってた俺と違って、シオンちゃんはテンチ数匹を三枚おろしするところからだもんな。


「うん。お疲れ様。ありがとうシオンちゃん。俺もキイロガーには苦労したし、ガッツリ食ってやろっと」

「ふふっ、じゃあはい! あ~ん♡」

「!? この流れでっ? あっ、あーん!」


 シオンちゃんに差し出された、1口サイズにカットされたキイロガーのアドボ。そんなつもり無かったから気分ブチ上がりながら頬ばって、口から幸福感が全身に広がって! 何の味も分かんねぇ! はい、シオンちゃんもあ~ん♡


「ん~♡ 酢に漬けたおかげで全然臭みがなくて、ホロホロと口の中でほどけるわねぇ。身自体に脂は無いけど、揚げたおかげでふっくらして、身自体に脂は無いけど、酢の効果か揚げたおかげかでふっくらして、表面のサクサク感との相性が良いわぁ。マスタードとの相性も、うん! 爽やかな辛さとも合うわ! これはパクパク食べられちゃうわね!」

「うんうん、そうだねぇ」


 夢中で食べる君に、俺は夢中だよ。俺も食べよー。

 さっきナイフで切った断面をじっくり見る。やっぱり、捌いたばかりの生の身より黄色になってる。照明もひよこ豆の粉衣も関係ない、と思う。何も付けずにもう一口。


 サクッ ふわっ ほろほろほろ…… じゅわ……


 シオンちゃんの言う通り、臭みは無いし、衣はカリカリサクサク。油切れが良いから小麦粉よりも軽いような印象を受ける。そして、揚げたおかげか、長時間酢に漬けてたにも関わらず、そのキツさは無かった。ふと気付く酢の刺激と香りはキイロガーの白身を引き立てている。漬け酢にローリエでも入れてたのか、その風味も遠くに感じる。……気がする。もしかして、コケのにおい?

 噛めば味が広がり、そしてすぐ消える。うん、なるほど。後に残る旨味ってのが無い分、パクパク行きたくなるな。マスタードの控えめな刺激も合う。スープに浸しても合いそう。


 シオンちゃんが「次はテンチね。こっちも上手に揚げられてるわ」と次の魚にナイフを立てた隣から、リーリオが俺に話題を振ってきた。


「フェルティ、私はここに来るのが1ヶ月ぶりなわけだ。何か君自身の進歩なんかの話題はあるかい?」

「んー、仕事熱心だな、リーリオ」

「な、何のことだい?」

「ダウト」


 本当に気になってるだけなら、俺の言いがかりにその返しはしない。まぁいいけど。こそこそ隠れて、スパイみたいに聞き出そうとするから俺もこんな態度を取っちまうけど、領主は敵じゃないし。てかこの聞き出し方も、ただリーリオがカッコつけてるだけかもしれんし。


「そうだなぁ、前から出来てたのが進化した、かな。肉を布くらい薄く切り出したくて、肉の水分が氷になるかならないかくらいの温度に落とす魔法を開発した。その開発の中で、物体の周囲に熱や冷気を逃がす発想が浮かんだりしたな。2つ目の方はまだ、中央がどうも熱いまま、冷たいままだったりするから、研究途中だ」

「ま、待ってくれ。まさか1ヶ月で本当に進化してるのかい!? 驚いたな!」

「小さいし、中途半端だけどな」


 そんな感心してもらえるほど、大きいことは成してないよ。


「……フルーツでやったら、この時期、旨そうだな」

「あー、レティセンは氷の練習がてら、やって出来たら領主とかに売りつけてみれば? シャリシャリで旨いのはトマトで分かってるし」

「レティセン! ウチの専属になるか!?」

「待てやリーリオ、そういう話なら領主館から弟子候補を連れてこいや」


 ……あれ? そもそもレティセンって領主から雇われてるから、専属みたいなもんじゃね? 改めてリーリオがスカウトしなくてもよくない?



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