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新しい油とエスカベーチェとアドボ(4)

 そこそこの時間をかけて、エスカベーチェ分のキイロココディリロガーの切り身ダネを揚げ終える。

 それを網の上で油を切ってる間に、大きなグラタン皿に先に揚げたカワムツとテンチを並べ、出来立てのマリネ液を野菜ごと入れた。もう一皿分、同じことを油の切れたキイロガーの揚げた切り身を並べたグラタン皿に、こちらは温め直したマリネ液を注いだ。

 これで、やっと、エスカベーチェの下準備が終わった。蜜蝋ラップをしたグラタン皿2つを、粗熱が取れるまで保冷庫の近くに置いた。


「ふう……」

「お疲れ様フェルティくん。後は私が引き継ぐわね」

「……うん、ゴメン、ありがとう」


 カッコつけて揚げるのを続けようとしたけれど、さすがに一旦休憩したい。「まかせて!」ってマッスルポーズするシオンちゃんに癒されつつ、俺は竈から離れた。


「フェルティ、そろそろ油を温めてくれるか?」

「お、粉付け終わったのか。早いな?」

「……こっちは3人いたからな」

「ずるい」


 お前も揚げ担当になりやがれ。おら、油あっためてやったぞ。

 山盛りになった揚げダネを見て思う。ひよこ豆の粉は、揚げる前から黄色くて、揚げた後もカラッとしてて油切れが良くて、つまみ食いした時も食感が軽かった。


「今度から衣はひよこ豆だな」

「そうね。おなかまわりを気にしなくてよくなるもの!」

「お酢の効果で痩せるかもよ?」

「無駄な希望を抱かないように」

「「はーい」」


 相変わらずこれだけには厳しいな、リーリオ。


 アドボ用の揚げ工程をシオンちゃんとレティセンに任せた俺は、水分補給で休憩に入る。足の細い椅子に腰かけ、疲労を溶かしこんだ溜め息を吐く。ずっと立ちっぱで熱い中、焦げと火災の注意をしながら揚げ物すんのは、大変なんだよなぁ。目が離せないし。ここからは2人で2つの鍋の体制で、ウチの特徴である離れた竈でやってる(ここが一番大事!)から、倍の速度で終わるだろう。


 水を飲みながらぼーっとキッチンを眺めてたら、新しくマリネ液っぽいものを少量作ってるリーリオが俺を呼んだ。


「フェルティ、鍋の酢が沸いてきたら竈の火を止めて野菜を入れて放置しておいてくれるかい?」

「……野菜、煮込んでるんだと思ってた」

「これは付け合わせの浅すぎピクルスね。どうせ今食べるなら、シャキシャキ感が残ってる方が楽しいだろう?」

「そうだな。わかった、見てる」

「頼んだよ」


 そう俺に託してきたリーリオは、さっきまで魚が漬けてあった酢を、シオンちゃんに聞いてから流しに捨てた。そうだよな。そっちに移った魚の臭みとか、雑菌とか寄生虫とか怖いもんな。少しだし、うん。……後で臭み消しにちょっとだけ酒でも流すかな。こないだウイスキー置いてったからな、ガナド父さん。



 頼まれたことを済ませた頃には、動きっぱなしのリーリオが盛り付ける皿も用意して、もう使ってない部分の掃除もやってくれて、調理中なのに奇麗になってきた。ありがてぇな。俺も保冷庫の氷を追加して、粗熱が取れてきたグラタン皿のエスカベーチェたちから更に熱を奪ってから、中に入れよう。よし、まずは氷っと。


 シオンちゃんから「これ味見ね」って言って渡されたキイロガーのアドボをつまみ、元気が出てきたから揚げるのをシオンちゃんと交代したりして、山盛りだった魚の酢漬けを揚げきった。

 やっと……やっと、調理し終えたよ……。明日の夕食分まで作り置きが出来ちゃったよ……。

 また体力が尽きた情けない俺に代わって、3人がさらに野菜とアドボを盛り付けた。千切りキャベツに酢浸し野菜、そしてメインのアドボ。俺はパンでも籠に盛るかぁ。


「ふぁああ……」

「お疲れだね、フェルティくん」

「すっぱいものってなんとなく疲れが取れる感じがするし、いっぱい野菜を食べたらいいさ」

「そこ、なんとなくなのね」

「……本当に効果があるなら、ポーションはすっぱそうだが」

「はぁっ、その視点は無かったな」

「いやあれ元気の前借りだろう? 疲労の回復とは違うんじゃないのか? それとも私が知らないだけで、疲労回復効果のものがあるの?」

「はいはい、熱い議論は食べながらにしよーねー」


 内容が思わぬ方向に転がったお喋りをシオンちゃんが止めたら、やっと夕食だ。時間がかかって、窓から見える外はもう、暗くなり始めている。食べたら水浴びしよ。もう身体熱いわ。

 カウンターにいつもどおり皿を並べて、カトラリーを並べて、パン籠も2つ置いて、完成だ!


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