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新しい油とエスカベーチェとアドボ(2)

決めました! 普通の動植物は現実の名前そのままで。モンスターは少しアレンジするか妖怪モチーフにするかにします! よって雷呼茸はしいたけっぽいモンスター確定です! なんだこいつ!

 うちの馬のリンドに「ただいま」と挨拶してから、裏口から家に入る。馬小屋からの賑わいを聞いて気付いたのか、シオンちゃんはキッチンからエプロンで手を拭いながら出迎えてくれた。挨拶もそこそこに、馬のフランテブランカの世話があるレティセンが馬小屋との扉を閉めると、シオンちゃんがリーリオに声をかけた。


「リーリオ、言われてた下処理は済ませておいたわよ」

「わぁ、ありがとう! じゃあ、エスカベーチェから調理していこうか」

「うん!」

「……」


 やっぱりお前、シオンちゃんに近づくな。


 身支度したり、レティセン用のエプロンをカウンターに用意したりしてから、2人に遅れてキッチンに入る。例のごとく、食材は中央の作業台に並んでいる。

 真っ先に目に付いたのは、頭を落とされたり、三枚おろしされた魚たち。オリーブ色に小さな銀色に、眩しい黄色。……その黄色の魚、こないだナバーが睨んでたヤツだな。モンスターも旨い奴は旨いんだけどね。

 他にはニンジン、セロリ、玉ねぎ、黄色のパプリカ。千切り用のキャベツ。……ん? 黄色の魚、半身しか無いな?


「なぁリーリオ、シオンちゃん。こいつのもう半身はどこ行ったんだ?」

「あぁ、半分はこっちだよ」


 俺の疑問にシオンちゃんは、保冷庫から取り出したもので答えてくれた。2つの金属ボウルの中には、何かのつゆと、それに浸けられた切り身にされた大量の魚と、頭が落とされた小魚があった。ツンとしたすっぱい匂い。あ、酢だ。マリネだ。淡水魚が生のままだし、なるほど、これは揚げダネか。


「こっちがアドボになる魚で、まだマリネしてない方がエスカベーチェになる魚だよ。リーリオから聞いた?」

「いや、答えは教えてもらってなかった。魚を使った揚げ物で、酢が、マリネするのが最大の特徴ってところか?」

「だいたいその理解でいいよ」


 なるほどなぁ。察するに、マリネするタイミングが揚げる前か、後かの違いだろう。


 エスカベーチェとアドボの正体が分かったところで、調理開始だ。まずはエスカベーチェからだったか? こっちが揚げた後にマリネするやつな。


 今回の食材魚は以下の通り。

 テンチ。オリーブ色で、半身の状態で15cm程の大きさ。細かい鱗と口ひげと、なんかぬめっとした表面が特徴。今ここにあるのは滑り取りされ、頭を落とした後のものだ。

 カワムツ。背中側は黄色、お腹は銀白色。真ん中に紺色の線が一本入った、頭を落として5cm程の大きさ。あんまり美味しくないって噂だけど、揚げたら豹変するかな。

 キイロココディリロガー。長いからキイロガー。でっかい。落とされて今はない頭には幅広い嘴と鋭い歯がある肉食魚モンスター。菱形で縁がギザギザな硬い鱗や尖った骨は、素材として回収されたらしく今はない。頭の無い状態で1mくらい。


 どいつもこいつも淡水魚ってか川魚特有のコケ臭さがある。テンチとガーはその原因になる皮を剥いだ後、半身を3~4cm幅で切る。10匹以上のカワムツはもう殆ど落ちてる鱗を完璧に落としてから、布で水分を取る。


 俺の担当であるキイロガーの皮引きを終えた頃、馬の世話を終えたらしいレティセンがキッチンに入ってきた。しっかりとエプロンを着けたレティセンが静かに入ってきたのに気付いたテンチ担当のリーリオがそっちを向いて目を輝かせた。


「おぉ、野菜の千切り担当大臣! 今日もよろしく頼むよ!」

「……あぁ」


 なんて素早い役割授与。たった一言で自分のやることを教えてもらったレティセンは、期待に応えようと中央の作業台のキャベツのもとに向かった。「場所ないし、カウンターで切ってきてもいいぞ」と言ったら、必要なものを持ってさっさとキッチンから消えた。……生臭いから、じゃないよな? ついでに他の野菜も千切りにしてくれるみたいだからいいけども。


 川魚の匂いは、皮と身の間に溜まっている。だから多少勿体ないが、少しの身ごと皮を引いた。エノールミ湖はきれいに管理されてるから、これでだいぶコケ臭さは無くなる。切り身にしたら、後は水っぽい身を締めるために塩を振って、少し置いておく。

 ふぅ、やっと一息付ける。シオンちゃんに目を向ければ、彼女は担当のカワムツに粉の衣を着け終えたところだった。ん? なんか黄色くね? ……あぁ、コレがあの布袋の粉か。


「シオンちゃん、その粉は何?」

「これ? これは、ひよこ豆の粉だよ。カリカリになるんだって!」

「へぇ、ひよこ豆でもいいのか……」

「粉だけまぶしても、粉を水に溶かしたのを纏わせてもいいよー」


 そう解説しながらシオンちゃんの隣に来たのはリーリオ。両手で持つ平皿の上にはテンチの皮を引いて、先に塩で余計な水分を出して下味を付けた切り身がある。まぁ魚体の大きさ的に俺が一番遅くなるのは当然だわな。


「なぁリーリオ。エスカベーチェって、マリネにする揚げ物はなんでもいいのか?」

「ん? あぁ、肉でも貝でも構わないよ。衣も、粉でも液でもいいし、そもそも、焼いたものでも茹でたものでもいいんだよ」

「思ったより自由な料理なんだな」

「美味しかったらなんでもいいのさ。君たちなんて筆頭だろ?」

「確かにな」

「新発見したと思ったのにねー」


 リーリオが言った筆頭っていうのは、俺らがレシピを教わる前から勝手に開発したことを言ってるんだろう。別にいいじゃん。


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