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両親と秘密のとんかつの食事会(4)

 俺たちの分のカツを半分に切って、大きい方を皿に残してシオンちゃんに渡す。予想通り、酒と共にカツがあっという間に消えていくから、シオンちゃんをさっさとキッチンに回した。揚げてる間につまんでね。俺のはもう、半分が両親に強奪されたよ。たった今。


「ほら、フェルティもチーズが固まる前に食べろ!」

「分かってるよ」


 もう切るのも面倒な大きさのカツをフォークに刺して、薄い豚肉の間からはみ出たチーズに誘われるまま、かぶりついた。


 サクッ! じゅわとろ~!


 しっかりとした歯触りのいいサクサクのパン粉衣! 肉汁と一体となったとろっとろの癖のないチーズ! サクッサクッと咀嚼すると歯切れのいい豚肉からさらに旨味があふれてきて……! 早く次の一口を! サクッ!!

 あれぇ? 揚げたらすんげぇ美味しくなったぞ!? あれだ、油分が足されてジューシーになったのか!


「うっまぁ……!」

「はっはっはっ! 自分で揚げて、自分で幸せになって、世話ねぇな! よっ! 天才!」

「どうも、揚げる天才です」

「これもシオンのアイディアなの?」

「あー、チーズを入れようって言ったのは俺だけど、この形にしようって言ったのはシオンちゃんだな。父さんと母さんを驚かせようってさ」

「あら、まんまと驚いちゃった。あなたたち、お酒飲めないのに合うものを作るのは得意ねぇ。うふふ~」


 父さんも母さんも、酔いが回ってきてんな。声が大きくなって、ずっと笑って。悪い酔い方する人たちじゃなくて良かったって、俺ずっと言ってる気がする。

 あ、そうだ、コレ相談しとこ。


「父さん、相談があんだけど」

「ん? なんだ、言ってみろ」

「ありがと。俺さ、このとんかつの為に習得した魔法があんだけど、肉屋に氷を納品する日、それ使って父さんに肉を薄く切ってほしいんだけど、いいか? 回収はシオンちゃんに頼むから」

「そりゃあ別に構わねぇが、その魔法ってのは何だ?」

「あぁ。肉をさっくり切れる程度に凍らせる魔法だよ。ムニムニ動かねぇから、今食べてる肉くらい薄く切れるはずだ」

「おうおうおう、お前親父を舐めんじゃねぇぞぉ。常温だろうと薄く切ってやらぁ!」

「マジかよ、これ叩いて伸ばしたヤツだぜ? 多少縮んでるとはいえ……」

「解体屋の誇りにかけてぇ!」

「あぁもう……」


 なんか急にめっちゃ酔いが回ってねぇか? 酒飲んでる時に頼み事なんてするもんじゃねぇな。明日覚えてるか分からんから、また今度改めて頼もう。


「フェルティ、どうして薄く切ったお肉が必要なの? ウチに頼むくらいなんだから、まとまった量が欲しいのよね?」


 だんだん出来上がってきた父さんに代わって、母さんが理由を聞いてきた。切り出したのは俺だし、母さんなら覚えててくれるかも。牛カツが来るまで話そうか。


「俺が切ったら断面がボロッボロになっちまうんだよ……。シオンちゃんも薄く切るのちょっと大変そうだったし。だから今日のもちょっと厚めに切って、叩いて伸ばしてんの」

「筋が壊れて噛みきり易いけどねぇ」

「その狙いも勿論あるけど、叩くの面倒じゃん? それに早く火が通ればその分早く食べれるなぁって。今まで塊の肉が至高だと思ってたけど、薄切りには薄切りの良さがあるって気付いてさ。野菜と一緒に炒めんの、結構美味しいよ」


 もともと動物性の脂で炒めたらどんな野菜でも美味しくなるんだけどよ。そこにちゃんと肉を入れたら、もっと美味しくなるのよ。その肉が厚ければ食べ応えはあるけれど、野菜と別で焼いてから合わせないと、火の通りが違いすぎるんだよね。牛肉なら表面だけでいいけどさぁ。

 酒グラスを片手に持つ父さんがジト目で俺を見てくる。


「付け合わせに合わせんなって」

「失礼な。どっちも主役だわ。で、火を使う時間を減らすために、肉を薄くしたいってわけ。父さん母さんもやってみろよ。美味いから」

「薄い肉は干し肉で十分だっ」

「試してみるわね。最近、あの子に影響されて、茹で野菜を食べてるの。だから薄切り肉も茹でてみようかな」

「……アマネセが言うなら」


 酒に酔ってても妻に弱いなんて、心底惚れてんな。知ってるけど。


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