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両親と秘密のとんかつの食事会(3)

 棒カツを食べて満面の笑みのアマネセ母さんが、口を左手で覆いながら野菜の肉巻き棒カツの感想を言ってくれる。


「美味しいわ! なるほどね、衣でも肉でも包むから、野菜の水分が流れず、蒸されているのね。さっきの玉ねぎとナスもサクとろで美味しかったけど、こっちは、表現が合ってるか分からないけど、よりフレッシュって感じね!」

「うおっとと……。ん-! 水分のインゲン! 食感のニンジン! 旨い鶏肉! こりゃあ酒が進むぞ!」

「言うと思った。はい、氷」

「気が利くなフェルティ! ありがとなぁ!」


 にっこにこでご機嫌にウイスキー瓶の蓋を開けた父さんを横目に、俺はシオンちゃんと入れ替わりでキッチンに入った。この調子じゃ、すぐに次を揚げなきゃ間に合わなさそうだし。


 シオンちゃんとすれ違いざまに口に突っ込まれたカツは最後に振りかけたチーズのコクも相まって、すんげぇ美味かった。野菜の水分と肉汁で溺れかけた。あっぷあっぷ。



 さて、3皿目のカツを揚げていこう。

 すぐに揚げると予知していたからか、シオンちゃんは竈の火を下ろさず、最弱にしてくれていた。パン粉で油の温度を図って、中火にしてから、叩いて大きくしたトンカツを2枚、静かに入れた。このタネは、丁寧に扱わないと剥がれちゃうからな。あまり触らないのがコツと見た。


「包丁で切れるギリギリの硬さを突き止めるの、結構大変だったな」


 今日のために練習したけど、何度も冷凍と解凍を繰り返した豚肉は、あんまり美味しくなかった。結構、血とは違う赤い汁が流れ出ちゃって、焼いて食べたらかなりパサパサしてた。

 北の地方の噂話だけど、冷凍肉って冷蔵のものより味が落ちるらしいのに。それを繰り返しちゃあなぁ。トマトは適当にやってても大丈夫だったのに。いや、あれは丸かじりするからちょっと硬くてもどうにでもなったか。


 まぁそのおかげで、肉をカチコチにならない程度に凍らせて、サクサク切れる硬さを見つけた。ついでに火が通らない解凍方法もなんとなく分かった。

 熱を与えるというより、()()()()()()()って感覚。まだ完全には理解していないけど、コツは冷えてるものの周りにも意識を向けること。『お前は冷たさの逃げ先だ』と自覚させてやるというか、なんというか。その周囲の物体の素材も、熱伝導が良いものがいい。今のところ、鉄なべが最適だ。……食欲って、技術を向上させるよな。これ多分熱を逃がす事とかにも転用できるし。俺、成長しちゃった。


 閑話休題


 両面が香ばしめの美味しい色になったら、油から引き上げて、余熱で中までしっかり火を通す。その間に大きめの平皿の用意を整え、茹でキャベツ、くし切りレモン、バジルソースを入れた小皿を乗せたそこに、カットしないまま、カツを乗せた。多分このカツも瞬殺だろうから、火は最弱にして……揚げカスも回収して……。

 さぁ、持っていこう!


「出来たぜー。お待たせしましたー。こちら、“秘密のとんかつ”になりまーす」

「「秘密~?」」


 良い反応してくれんじゃん。しかし、何の話をしてたのか。2人とも酒が進んでるな。……いや、これ水で薄めて飲みやすくしてる? 食事と一緒だしな。俺酒飲めねぇからよく分かんねぇけど。

 2人の話し相手だったシオンちゃんが空になった皿たちを重ねて端に寄せた。空いた場所にとんかつの皿を置けば、父さん母さんは興味津々に覗き込んできた。


「見た目におかしなトコはねぇな。レモンが追加されたくらいだ」

「となるとやっぱり、秘密は中身ねぇ。こちらにも野菜が入ってるとか?」

「それじゃあ芸が無いぞ!」

「んもう、そんなに言うならさっさと切っちゃって! 答え合わせは自分たちでね!」


 その方が驚きも増すからな。

 いろいろと考察していた2人にシオンちゃんはナイフとフォークを指し示した。父さんは「おぉ、そうだな」と言いながら水で割ったウイスキーの入ったグラスを置いて、手にしたナイフとフォークを秘密のとんかつに立てた。


 ザクッ! ザクッザクッ……キンッ


「あ? なんか白いものが……」

「これって……!」


 切れた部分から割り広げられたとんかつから、白くとろとろしたものが、肉汁と共に流れ出ていく。あぁ、チーズの良い匂い。よく肉の中に閉じ込められててくれてたよ。


「あら~~! チーズを挟んじゃったの~~? 美味しいに決まってるじゃなーい!」

「そのままでも美味しいし、バジルソースを付けても美味しいよ」

「じゃあまずは、そのままで。……はい、あなた♡ あ~ん♡」


 今度は母さんから父さんにかぁ。酔い回るの早くなってそう。

 父さんは2、3度カツを咀嚼して、目を見開いた!


「うおおっ! 美味いぞ! 旨さで殴られてるみてぇだ!」

「あらら、バイオレンスねぇ」


 水みたいにゴクゴクと酒を飲みやがる父さんにそう言いながら、母さんもチーズとんかつを大きめの一口にカットして食べた。


「ん~! 軽い食感ととろとろチーズの塩味とコク! 後から豚肉の美味しさが噛むたびにやってきて、確かに強い旨味! 私もお酒が進んじゃうわねぇ」

「アマネセ、乾杯!」

「かんぱ~い!」

「母さんもちゃんと薄めてよね?」


 なるほど、酒飲みには肴になるのか。俺は焼きバージョンのこれを食べたとき、バゲットの無いサンドイッチみてぇだなって思った程度だったのに。いや、間違いなくこのチーズとんかつは最高に旨いんだけどな。まだ揚げバージョンは食べたことねぇけど。


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