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両親と秘密のとんかつの食事会(1)

 7月30日、水曜日。今夜は親子での食事会だ。会場は我が家。もてなす料理はもちろん、揚げ物だ。


「おーうぃ、来たぞー! リンド用の果物を手土産になー!」

「お邪魔するわね。楽しみにしてたわよー」

「いらっしゃーい。リンドお腹空かせて待ってるから、ゆっくりあげてー」

「いらっしゃい、父さん母さん。リンドのブラッシングでもして待ってて」

「そうするわね。こんばんは、リンドちゃん。今日も可愛いわね!」


 空いている窓から親しみの声を掛けられ、我が家の馬のリンドは嬉しそうに嘶いた。


 今日のガナド父さんとアマネセ母さんはお客さんだから、リンドを可愛がって待っていてもらおう。この間に調理の続きをする。


「シオンちゃん、そろそろざく切りキャベツを茹でるね」

「お願い。私は牛カツの準備を続けるから、茹でられたら他のカツを揚げてって!」

「了解」


 今回の食事会は、最初で全部揚げて提供するんじゃなくて、一品一品出すコース形式だ。全品揚げ物だけど。


 ちょっとクタッとするほど茹でたキャベツをザルにあけたら、熱魔法である程度温めた油の鍋を魔道竈の火にかけた。

 適温になるまでに、もう一度揚げダネを確認する。最初に出すのは斜め切りのナスと、玉ねぎの花揚げ。今回はパン粉じゃなくて、粉→溶き衣→粉の二重粉まぶし衣。これなら野菜の姿が分かりやすいからね。

 時間のかかる玉ねぎから揚げていこう。その次は棒カツ、秘密のとんかつ、牛カツ……。

 まだ油は温まらないか? じゃあ平皿にキャベツとレモンを盛っておこう。


 キャベツを生の千切りじゃなくてざく切りで茹でたのは、俺の包丁技術が未熟なこともあるが、こないだ閃いた、湯通ししたほうが甘くて美味しいんじゃないかっていう考えからだ。正直塩だけで美味い。無くても美味い。

 陶器の平皿に茹でキャベツとカットレモンと塩を盛ったら、そろそろ油の温度を確かめよう。パン粉をパラリ……ゆっくり広がって、シュワッ。よし、良さそうだ。じっくり揚げられる温度帯だ。


 網杓子に乗せた切り込みの入った玉ねぎをトングで支えながら、熱した油の海に沈めた。水分のせいですぐにバチバチ言うが、跳ねる油に負けずに揚げていく。

 時間をかけて粉と小麦粉を水で溶いた衣を丁寧に付けた甲斐があって、こないだより花びらが開いていく。上下にひっくり返しながら、じっくり火を通す。ものすごかった泡と音が控えめになり、衣が美味しい色になったら引き上げ。網杓子で持ち上げて……。


「おぉ、今日は特にいい」


 油が光を反射してキラキラ輝く、玉ねぎの花揚げ。使った玉ねぎがデカいから、迫力が段違いだな。


「わあ素敵! これを2人で突っつくなんて、2人の距離が縮まっちゃーう♡」

「商売の天才め。これはつまんでトマトソースにディップして食べるのがいいかもな。ナスもすぐに揚がるから、一緒に出しちゃおう。大皿にするよ」

「そうね。私は牛カツの準備ができたから、あっちのカウンター用意と水のお代わりを出してくるわね」

「お願い。ナスはすぐに揚がるし、シオンちゃんもおしゃべりしてきていいよ」

「ありがと!」


 保冷庫から氷水の入ったピッチャーを持って行ったシオンちゃんを見送ってから、ナスを揚げ始めた。

 粉チーズやスパイスを混ぜた粉がまぶされた斜め切りのナスを、1枚1枚ずつ油の鍋に入れていく。ナスは軽いから浮いたまま揚がる。縁の色が変わってきたらひっくり返して、軽い音になったら引き上げる。それを繰り返していく。……案外あるな。早く揚がるから暇にならなくていいけど。


 玉ねぎを揚げてたくらいの時間をかけてナスを全て揚げ終えたら、キャベツを盛りなおした追加の大皿に玉ねぎの花揚げと粗熱を取ったナスの粉衣揚げを並べる。茹でキャベツの隣にココット皿に入れたトマトソースを置けば、1皿目の完成だ!

 竈の火が消えていることを確かめてから、カウンターに持って行った。


「一皿目、出来上がったぞー」

「おう、待ってました! って、おおっ! こりゃ豪華だなぁ!」

「すごいわぁ。まさか玉ねぎを丸々あげちゃうなんて! まるでお花みたいじゃない!」

「これはその名も、“玉ねぎの花揚げ”! 私のアイディアなんだよ!」

「天才の作品は、一切れずつ千切って、ソースにディップして召し上がれ」


 シオンちゃんを称えつつ、食べ方のレクチャーをする。豪華な一皿目に目が釘付けの父さん母さん。ホカホカだけど摘まめる熱さの花揚げに、父さんが手を付ける。8等分にした中の1切れをバラバラにならないよう、しっかり摘まんで、他のところを押さえつつ、カラカラ言わせながら千切った。

 ここで一度母さんに目配せをした父さんだったが、母さんがフワッと微笑んでアイコンタクトを送ると頷いて、トマトソースにディップした。少し暗めの照明がトマトソースを怪しく照らしている。

 父さんは期待でニヨニヨする口を大きく開けて、ソースがどっぷりついた揚げ玉ねぎを放り込んだ。


ザクッ! サクサク……

「……!! おー! うまいっ!」


 父さんの歓声に、シオンちゃんとハイタッチで称えあった。

 目を見開く父さんはもう一切れ千切ると、ソースをたっぷり付けた玉ねぎを母さんにあ〜ん♡した。相変わらずだなぁ。


「んー! 美味しいじゃなーい! じっくり時間をかけて火を通したのね。外はザクッと食感と歯切れがいいけれど、中の玉ねぎは噛むとトロッとして甘いわ! 酸味のあるトマトソースとの相性が良いわね」

「アマネセ、ナスも美味いぞ! 当たり前にトマトと合う! ほら!」

「あーん、うん! とろけるわね~!」


 父さんがせっせと母さんに餌付けをする、甘すぎる光景。多分母さんの指を汚さない為にやってんだろうな。

 実子と養子の前でもお構いなし。慣れてっからいいけど、さすがに胸はいっぱい──


「はい、フェルティくん、あ~ん♡」

「おっあ、あーん!」


 まぁ、小さなころから見てきた俺らが、習慣づいてないワケないわな。はいシオンちゃんも、あ~ん♡


フェルティが♡付けてしゃべるのきついとか言わないであげてください……

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