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グレーな依頼と野菜のカツ(2)

 今日は7月24日、木曜日。弟子は来てないし、油が貰える予定日はまだ遠い。明日はレティセンに牛カツを振る舞う予定も入ってるし、だから揚げ物じゃない、野菜たっぷりな何かだと思ってたんだが……。


「え? 今日の夕飯、揚げ物なの? いいの?」

「うん。ちょっと閃いてね」


 自宅の広いキッチンの中央を陣取る作業台。そこに並ぶのは様々な野菜と、豚バラ肉がだいたい100g。半分は明日のサラダの下準備かな。

 空色のエプロンを着たシオンちゃんが、むんっと気合を入れて背筋を伸ばした。


「今日は、“一口豚バラ衣揚げ”と“野菜のパン粉揚げ”。揚げ物って、肉だから太るんだよ! タネを野菜にしちゃえば、問題ないはず!」

「いや、油だよ? 調理法に問題があるよ」

「食べたいの? 食べたくないの?」

「食べたいです」


 それとこれは話が違うじゃん。俺だって、揚げ物好きだよ。

 その後、手順を説明された俺はまず、豚バラブロックを軽く凍らせて、サクサクッと大きめの一口サイズに切った。こないだレティセンと話したときに閃いた、タパスみたいなのにするんだ。

 これから下処理する野菜は以下の通りだ。じゃがいも・玉ねぎ・パプリカ・ズッキーニ・ナス。にんじんもトウモロコシも豆もある。

 パプリカは種を取って太いスティック状に。なすは斜めの輪切り。じゃがいもとズッキーニはホクホク感を出すために厚めの輪切りにする。玉ねぎはなんと──


「え? 下まで切らないの?」

「うん。8箇所切り込みを入れて、少し広げてから揚げるよ。ごちそう感があって素敵でしょ?」

「確かに。シオンちゃんってば天才!」

「自分でも才能に戦くわ……」


 フッ……とキメ顔で天を仰ぐシオンちゃん、かっこ可愛い!


 にんじんは千切りして、皮付きのとうもろこしと白と赤のインゲン豆を茹でた。じゃがいもとズッキーニは10分くらい蒸して、その間にサイコロカットな豚肉と花になった玉ねぎ2個に塩とコショウで下味をつける。


「にんじんとか小さいやつはいつも通り、余った衣の液でまとめて揚げるの?」

「うん。ついでに明日の朝のサラダの下準備してるかんじ」

「本当に保冷庫があって良かったよな。食材が傷むかどうか気にしなくていいの、助かる」

「フェルティ様々ね」

「鍛冶屋のおっちゃんたちにも感謝を」

「あちらも保冷庫の注文でウハウハみたいよ。木工所さんも」

「あ、ガワはそうだね。ふははっ、俺達って経済回してる~」


 クスクス笑いあいながらご機嫌に会話してる間にも、茹でるべきものが茹で上がった。ザルにあけて水気を切って、1/3だけ取り分ける。 残りは保冷庫へ。この保冷庫は魔道具じゃない。2階建ての鉄の箱に木の枠を取り付けた、横から開ける箱だ。

 上階に氷を置いて、下ってくる冷気で下階に入れたものを冷やすんだ。溶け出した水は床を伝って、排水口に流れていく。元は飲食店の強みが出てるよな。

 他で使ってるところは俺たちと同じだったり、保冷庫が小型だからシンクに流したりしてるんだと。他のところは俺たちみたいな使い方 じゃなくて、ただ氷を溶かさないようにしてるだけみたいだけど。


 閑話休題


 揚げ油を俺の魔法も使って温めつつ、太いスティック状のパプリカから、小麦粉と溶き卵、パン粉の順で野菜にまぶしていく。

 蒸したじゃがいもとズッキーニは水気を拭き取ってからまぶして、適温になった油に静かに入れていく。最初はおとなしいが、すぐにパチパチッパチパチッと蒸発する水分が激しい音と泡を立てる。


 大量の泡がだんだんと消えてきて、揚げダネが見えてきた。衣が美味そうなキツネ色になったところで取り上げる。中身は生で大丈夫だったり、すでに火が通ってるものだったりするからな。

 丸ごとの玉ねぎだけはしっかり揚げた。外はサクサク。きっと中はトロッとしてるぞ、メインディッシュ。


 パン粉衣の揚げダネが終わったら、今度は粉・卵・パン粉を一纏めにしたものに水を加えて溶き衣に。これにサイコロ状の豚肉をくぐらせて、油の海へ。衣がねっとりしてるおかげか、あまり派手な泡は立っていないように見える。

 つまみ程度で肉の量は少ないから、こちらはすぐに油に入れられた。残った衣液にはニンジン、芯から切り離したとうもろこし、白と赤のインゲン豆と、パプリカの種と今までの揚げカスをドバッと入れて混ぜて、スプーンで掬って油の中へ滑らせるように入れた。


「はい、フェルティ君。あ~ん♡」

「おっ!? あ、あ~ん♡」


 びっくりしたー。デート中じゃなくてもめっちゃイチャついてくれるなんて。にしても、ナスのパン粉衣揚げ(カツ)、美味いな。どうやって形を保ってたんだってくらいとろとろしてて、口いっぱいに広がる。これ、トマトソースで食べたいかも。


「美味しい?」

「うん、すっごく美味しい! シオンちゃんの才能と情熱と愛の味がするよ!」

「んもう♡ 褒めても野菜カツしか出ないよ♡」


 嬉し恥ずかしそうなシオンちゃんはそう言いながら、俺の口にパプリカのカツを入れてくれた。これもうっま。シャキッとしてて良い。エキス甘っ!


「これもう全部、トマトソースで食べようぜ……」

「それもいいわね。でも一応、塩とバジルソースも用意してるからね」

「ありがとう」


 さあ、どんどん揚げていくぞ!


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