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困難と鶏肉巻き野菜のカツと可能性(2)

 レティセンとの本日の訓練は切り上げた。

 レティセンにキャベツの千切りを頼みつつ、キッチンで揚げ物をやってるらしいシオンちゃんの元に向かった。俺は『揚げ物はふたりっきりの時だけにしよ?』って言ったんだけど、『食べてくれる人が多ければ、作る練習量が増えるじゃない』って返されて、引くしかなかったよな。高みを目指すシオンちゃんの邪魔はしたくない。


 深緑色のエプロンをしっかり着て、魔道竈の前のシオンちゃんの隣に立つ。彼女が手に持つ平皿には、パン粉衣の手のひらサイズのタネがあった。


「シオンちゃん、今日のは何?」

「今日は鶏肉でパプリカやアスパラガスを巻いたもの! これなら中が生焼けにはならないでしょう? それでいてしっとり揚げたいけど……初心者が高望みしすぎかな?」

「そんなことない! イメージが出来ていること、目標が明確なことは素晴らしいし、シオンちゃんなら大丈夫。俺もそばで支えるしさ」

「うふふ、ありがとう。あ、そろそろ油の温度いい感じかな」


 俺の励ましで元気になってくれたシオンちゃんは、熱した油にパン粉をパサッと入れた。ひとつまみのパン粉はジュワッと音を立てて、ゆっくりと鍋の中に広がった。基本の中温くらいだな。


「よし、揚げてくよ!」

「頑張れ! 寝かせるようにだよ!」

「うん!」


 慣れない上に火傷の恐れが高い揚げ油に、緊張した面持ちで揚げダネを入れていくシオンちゃん。鍋の大きさ的に今回は3つ同時に入りそうだ。そのどれもが沈み、細かくサラサラな油の泡に包まれたところで、息をついたシオンちゃんに尋ねる。


「ねぇシオンちゃん、よく肉の中に野菜を巻けたね。ドンドン叩いてたけど、それのおかげ?」

「そう。鶏肉を叩いて、筋繊維を壊したの。だから平たくなって、巻けるくらい薄く柔らかくなったの」

「よく思いついたね」


 正直、家の中から一定の速度でドンドン、ドンドンって聞こえてきた時は、事件かと思った。飼い馬のリンドが平然としてたから、冷えた肝も落ち着いたけど。


「切れ込みを入れたら野菜がはみ出ちゃうかもしれないし、それならって。あ、お皿と千切りキャベツの準備お願い。付け合せの野菜は中に巻いちゃったし、ソースは瓶のトマトソースだから、すぐに出来るよ」

「分かった。レティセン、キャベツは切れてるか?」

「おう、全部な」

「嘘だろ???」


 そんな時間経ってねぇぞ。でも本当に1玉切り終えてるし、ボウルに張った水に漬けてある。こっわ。仕事が早すぎる。キャベツそんなに小さかったかな。


「な、なんでキャベツ切るのそんな早ぇの? しかもそこそこ細いし。プロ並みじゃん」

「最近、肉とキャベツのパンケーキを作るのにハマっててな。毎食キャベツ切ってたら、上達した」

「毎食……?」


 お前、気に入った料理はずっと食べたいタイプ? あとしっかりとした自炊をするタイプだったんだ? 冒険者ってバルか屋台とかで飲み食いしてるイメージだった。


 カウンターを拭いたり、食器の用意をしたり。冷水で締めたキャベツを平皿にこんもり盛ったら、シオンちゃんに呼ばれたから揚げ鍋のところに戻る。どうやら最後のカツがそろそろ揚げ上がりのようで、引き上げをシオンちゃんから任された。


 最初は重さで沈んでた揚げダネも、水分がある程度抜けて軽くなったからか、泡のおかげなのか、浮いている。

 意識すると、揚げ上がると音も違う。最初はボコボコ大きな音が鳴っていたのに、今ではピチピチ? チリチリ? なんだか高い音がしている。こういうところにも合図があったんだな。


 美味しい茶色に揚がったカツをトングで掴む。すると肉汁やらが衣の中で沸騰してカツが震えていた。中がパプリカやアスパラガスといった野菜で水分が多いからか、この間より振動があるような、気がする。

 ……ん? 振動? ──そうか!


「フェルティくん? なにか閃いたの?」

「ああ。レティセン、夕飯食べ終えたら、少し試したいことがある。協力してくれるか?」


 余った衣でクズ野菜パンケーキを焼こうとしていたレティセンは目を丸くしながらも、二度三度頷いてくれた。

 そりゃ驚くか。揚げ物っつー熱いものから冷風のヒントを得るとは思えないよな。


 だが、得た。冷風どころか、氷作りへの新しいアプローチをな!


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