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第九話 空港

さて、エーフィーを本部に連れていく。


 勿論、本部には話を通しているし、許可も取った。


 収集が掛かったついでに、Markに紹介しようと思ったのだ。


 今は、またまた車内だ。


 エーフィーはすっかり寝ている。


 被っているシリコンマスクがズレている。


 ま、それは別に良いか。


 既に家を出て8時間程。


 やはり遠い。


 俺達の拠点のあるヴァロン国のはずれから、本部かなりの距離がある。


 車で行けば、かなりの時間が掛かるだろう。


 故に。


 一度車を降りて、別の車を受け取らなければならない。


 さて、現在地は、ヴァロンの国境から西に230キロ程。


 エーディル共和国 サモン町という町だ。


 田舎の町であり、老人が多く、獣の多い。


 銃声を猟銃と勘違いする程、平和ボケした町だ。


 それはデータ的にも経験的にも知っている。


 


 今は、待ち合わせ場所のサモン町で、その車を待っている。


 丁度、車が来た。


 1台の車だ。


 その車は、男が運転していた。


 まっすぐこちらに向かってくる。


 近くに停まり、中から、運転手が出てくる。


 そして、こちらに寄ってくる。


 運転手側に来た。

 

「車です」 


「あぁ……毎度助かるよ」


「でも……」


「はい?」


「早いんだな……」

 


 そう。


 早いのだ。


 到着が。


 集合時間から2時間程前。


 泥啜りは、俺の受け渡しは絶対に早く来るな。と連絡を入れている。


 つまり。


「チッ」


 舌打ちと同時に男は、懐からピストルを取り出そうとした。


 しかし、遅かった。


 泥啜りは既にサイレンサーピストルを取り出し、右の窓に突きつける。


 ―パリン―


 窓にヒビが入る。


 弾は眉間を貫通した。


 その男は倒れ、痙攣し、死んだ。


 血が溢れる。


 そして、バックミラーを見る。


 後ろから、2人の人影が見える。


 それに向けて、脚を撃つ。


 窓を貫通させるべく、同じ箇所に弾を撃ち込んだ。


 命中。


 命中。


 二人とも倒れた。


 片方には、もう一発を脳天に撃った。


「さて……」


 泥啜りは周囲を確認し、素早く出た。


 そして、生かしてある方をトランクに詰める。


 止血だけはした。


 そして、素早く車をその場から動かした。


 携帯を出し、本部に連絡を入れる。


「こちらMark2襲撃に付き、場所を変更する。オーバー」


 ―ーー……ー―


「了解」


 変更を承諾するという合図であった。


 また、場所は、此処から10キロ程南の


 エーディル共和国内の、ヘイデン街での待ち合わせとなった。


 勿論、時間は変わらずだ。




「Markに喧嘩を売る輩が居たとはな」


「ごしゅじん何かあったの?」


「あ、起きてたのか……」


 いつまにか、エーフィーが起きていた。


 シリコンマスクはちゃんと被っていた。 



「いや、なんでも無いよ。仕事の話さ」


「ふーん……でも銃持って撃ってたじゃん」


 

「……」


 実はあの銃撃戦の際に、エーフィーはしっかり起きていた。


 目を薄く開け、様子を伺っていた。


 泥啜りは、エーフィーを舐めすぎていたのだ。


 故に見逃していたのだ。

 

「……ハァ。襲撃があったんだ」


「なんで起こしてくれなかったの?」


「……エゴだよ」


 エゴだ。


 怖がらせたくないという、完全なるエゴ。


 我ながら、情けないと思った。


「囮にさせるなら、エゴなんて言わないで……!」


 いつもより、強い口調であった。


 母親の様な、凛とした発音であった。


「……スマン」


「……?」


「今日の飯は、好きなやつ作らしてくれ。お詫びの印だ……」


「?うん!」


「……」


「ねぇ、ごしゅじん」


「なんだ……?」


「まだ着かない?」


「……あぁ、まだまだだ」



 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――


 今は空港。


 あの後、無事に車の受け渡しが完了し、空港に着いた。


 因みに、その際に銃も全て受け渡した。


 常に持っておきたいが、常に持っておくと面倒なのだ。


「ケニー、荷物は大丈夫か?」


「うん!ごしゅじん!」


「違う違う、いいか、俺らは親子っていう設定なんだ。分かったな?パパだぞ?」


「分かった!パパ」


「そうだ。さて、パパの名前はなんだい?」


「シド!」


「そうだ」


「よし、もう一度チェックするか……」


 キャリーケース。


 偽造パスポート良し。


 偽造ビザ良し。


 偽造保険証良し。


 偽造航空券良し。


 現金良し。


 クレカ良し。


 コピー良し。


 偽造戸籍謄本良し。


 常備薬良し。


 その他諸々日用品良し。


 生の食品は無い。


 銃無し。


 良し。



 俺は大丈夫だ。



「エーフィー、キャリーケース開くぞ」


「うん」


 ま、一度確認してるし、大丈夫だろうな


 

偽造パスポート良し。


 偽造ビザ良し。


 偽造保険証良し。


 偽造航空券良し。


 現金良し。


 クレカ良し。


 コピー良し。


 偽造戸籍謄本良し。


 常備薬良し。


 その他諸々日用品良し。


 生の食品無し。


 銃有り。


 良し。

 

 大丈夫だ。

 

 ん?


「銃有り?」


 サイレンサーピストルが入っていた。


「ごしゅじんいつも持ってるから」


「だ、駄目に決まってるだろ?!」


「え!駄目なの?!」


「あ、当たり前だろ!」


「ごめんなさい……」


「あー……どうすっかなコレ」


 いや……待て。


 これは俺の責任だ。

 

 銃を身近に置きすぎていた。


 エーフィーは戦争も経験してる筈だし……。


 銃を日常の一部に組み込んでいてもおかしくは無い。


 いや、まぁ確かにポンコツではあるかも知れないが……。


 そんな状況にした俺が悪いし……周りの環境も悪かった。


「……取り敢えず、本部に連絡しておく。幸いまだ車内だしな。また何処かで銃を受け渡ししなきゃな」


「ごめんなさい……」


「いや……まぁお前も悪いが、俺らも悪いさ」


 しかし、エーフィーはしおれていた。


「ま、飯は好きなモン作ってやるからさ。ほら明後日も作るからさ」


「分かった……」


 その後、またさっきのMarkの受け渡し係りに、空港から離れた街で、銃を受け渡した。


 俺達も忙しいんですよ、と苦情を言われてしまった。


 エーフィーは縮こまり、反省していた。


 


 その後、空港から、飛行機に乗って、Mark本部のある国、クイルァに行くのであった。



―――――――――――――――――――――――――――――――


 広がる海!


 白い砂浜!


 波のさざめき!


 南国の植物!


 そして!


 凄いスコール!


 着いた瞬間、大雨である。


 これが南国、クイルァ共和国である。


「うわぁ~……」

 

「これが止んだら行くぞ」


「うん」


「じゃあ、雨が止むまで飯でも食うか」


「良いの!?」


「……じゃあ、行こうか。ケニー」


「うん、パパ」


 俺達は荷物を持ち、飯屋を探したのだった。



 さて……空港での飯か。

 結構高いんだよなぁ。


 勿論、俺の総貯金はかなりあるが……。


 金銭感覚は大事だ。

 

 こういった、なりきりの際に重宝する技術だ。


 

 俺の鼻に、腹の空腹を促す香りが当たる。


 う、うまそうだ。


「いい匂いがするね。ご……パパ」


「そうだね、ケニー。これはなんの匂いかな?」


「……なんだろう……?」


「これは……肉だな。肉」


「お肉!?」


 エーフィーは目を輝かせた。


 本当に飯には目がないな。


「た、多分ね」


「お肉が良い!」


「そ、そうか」


 匂いの元を辿って行くと、2階のハンバーガー店であった。


「此処だね」


「ハンバーガー?」


「そうだね」


「ハンバーガーが良いな」


「そうかい?じゃあハンバーガーにしようか」


「うん!」




「注文決まったか?」


「うん!」


「じゃあ、店員さん呼ぶぞ」


「分かった!」


 ボタンを押すと、賑やかな店内に、ピンポーンと微かに音が聞こえた。


 


 20秒程で店員が来た。


「ご注文お伺います」 


「すいません、この……レギュラーバーガーと、コーラをお願いします」


「えっと、私はこの、スペシャルバーガーひとつお願いします!あと、オレンジジュースも!」


 エーフィーは、メニュ表の写真から見て、一番デカイバーガーを頼んでいた。


「ちょ、お前本当に食べれるのか?」


「大丈夫、大丈夫!」


 ほ、ほんとかなぁ?


「はい……レギュラーバーガーをお一つと、スペシャルバーガーをお一つ。ドリンクは、コーラとオレンジジュースで宜しいでしょうか?」


「はい、大丈夫です」




 20分後。


「お待たせ致しました。スペシャルバーガーと、レギュラーバーガーでーす」


 テーブルに、料理が乗せられる。


 スペシャルバーガー。


 デカイ肉。


 パンズと、肉の間から垂れるチーズ。


 野菜は全く入っていない。


 サイズは、レギュラーバーガーの1.5倍程。

 


 それは余りに大きく、大雑把過ぎたのだ。



「ほ、ホントに食えるのか?」


「だから、大丈夫だよ!」

 

 エーフィーは笑顔で食べ始めた。




 しばらくすると、エーフィーの手が止まった。

 

「……」


「お、おい?まさか?」


「……いや、まだ食べれる……うぷ」


「お、おい?無理するなよ?」


「だ、大丈夫だから……」


「……代わりに食ってy」



 ―バババババババババッ―



 突如として、銃声が響いた。

 

 賑やかな店内が一瞬静まり返った。

 


 賑やかの意味合いは少し分かるが、また直ぐに賑やかになった。


「なんだ?!」


「え、普通に銃声だよね?」


 エーフィーはキョトンとしている。


 焦る素振りも見せていない、


 こ、コイツ!


 分かってねぇ!


 やっぱり銃の重みがあんまし分かってねぇ!


 後で教えてやらねぇと!


「……いいか?演技しろ……。周りに合わせるんだ……」


 俺は声を出来る限り小さくして話す。


「わ、分かった」


 エーフィーも察して、声を小さくして応えた。




 店内が慌てふためいている中、声が響く。



「こんな所!ぶっ壊してやる!!」


 外を見ると、銃を持ち、顔も隠していない老若男女が、叫んでいた。


 成る程。


 あのテロリスト達は、クイルァの極右派だな。


 元々クイルァは、鎖国していたってか、無理矢理侵略紛いな事をされ開拓されて、資源取ってかれて、空港やら建てられて、色々な国の人間が入ってきたからな。


 だから空港を襲ってるのか?


 いやぁ……にしても素人っぽいな。


 銃の構え方も怪しい……。



 そんな事を考えていると、旅行者の金髪の少女か逃げ遅れて居るのに気付いた。


 親らしき人物が駆け寄ろうとしているが、刺激しない為だろうか、中々行けずにいた。


 テロリスト対策の特殊部隊が来るまで待ってるのだろうか?


 プロに任せるのは良い判断だがな……。


 ああいう輩は刺激せずとも、やらかすものなんだぜ……?


「こ、この侵略者共めッー!!」


 老人が子供に銃を向ける。


 あれでは間に合いそうに無い。


 特殊部隊といえど、事件が経ってから1分もしないうちに来るのは厳しいだろう。


 老人が、トリガーを引く。

 


 あれ?銃声が起きないな。


 あ、まさかセーフティ解除も知らないのか?あいつら……?


 もたもたしている。


 次の瞬間、扉がバンと開いた。


 誰かが出ていったのだ。


 馬鹿な奴だな。


 素人が今外に出るなぞ……。


 ん?


 あれ、エーフィーは何処行った?


「ケ、ケニー!?」


 辺りを見渡し、返事を伺うが、居ない。


 ま……まさか……!



 外に居た。


 このフロアを走って、右回りに走っている。

 

 物凄いスピードで走っている。


 あんな速度で走っているエーフィーを見た事が無い。


 あの馬鹿……!


 俺も店外に出る。

 


 エーフィーは、今階段を通り過ぎた。


 ん?待てよ?


 なんで階段を通り過ぎてるんだ?


 下に降りようとしてるんじゃないのか?


 「まさか……?」


 テロリストの頭上見る。


 フロアの縁付近だ。


  


 もう既に、エーフィーはそこに居た。




 そして、そこから飛び降り、テロリストの頭上に着地した。


 そのテロリストは動かなくなった。


 テロリスト達は頭上から降ってきた少女に、腰を抜かしていたが、辛うじて銃を構えていた。


 しかし銃口から避ける様に、切り替えし、動き、一人の銃を持った手を、思い切り蹴り上げる。


 そして銃を取り上げて、思い切り飛び、その銃のグリップ付近で、思い切り頭を殴り付けた。


 そのテロリストも気絶し、動かなくなった。


 そしてそのテロリストの頭に銃口を突きつけ、壁にする様に抱えた。


 相手が素人とは言え……とんでもない動きである。


 あの人の面影を感じた。


 

 襲われかけていた少女は、逃げて親と抱き合っていた。

 

 


 てか、あの馬鹿野郎……!


 目立ったら駄目なんだよ!


 てか、あんな動き教えてないぞチクショウ!!


 

 

 


 俺は急いで追いかける。


 若干の焦りはあったが、逆に嬉しくもあった。


 教え子があんな動きをしたんだ。


 そりゃあ嬉しくもなるさ。


 そして、早歩きながら、エーフィーの方を見る。

 

 


 既に特殊部隊が駆けつけ、テロリスト達を、捕縛していた。


 そこにエーフィーの姿は無かった。



 俺はエーフィーのスマホに電話を掛けた。


 電話は直ぐに繋がった


「あ、パパ?今って何処にいる?」


「それは俺のセリフだ。今何処にいる?!」

 少し語気を強めて言った。


「え……わ、分かんない。気づいたら此処にいた……」


「案内図が近くに無いか?」

 アドレナリンが出ているのだろうか?

 気づいたらって……。


「あ、案内図……。あ!あった!今は……3階のトイレ付近だよ」


「分かった。今からそっちに行く。待ってろ」





「あ、ご……パパ!」


「直ぐに外に出るぞ!」


「え?」



 外。


 雨は止み、湿気が体を襲った。


 指定の車は既にあったので、それに乗る。


「ケニー……。あんな危ない事をしては駄目だ。それに、目立ったら駄目なんだぞ……?」


 俺は語気を強めた。


「え?なんの事?」


「は?」


 な、なんの事だと?


「……テロリスト来たろ?」


「うん。でもあれは特殊部隊が倒したじゃん」

 余りにもキョトンとしているので、流石に驚いた。


 


「……本気で言ってるのか?」


「え……」


「お前がテロリストをほぼ制圧したんだぞ?」


「……?」


 全く身に覚えが無いといった風である。


「お前……まさか……?」


 俺の脳裏に浮かんだのは、多重人格という文字。


 エーフィーはかなり純粋なタイプだ。


 俺自身、嘘をつかれた事は無いし、ついてたら分かる。


 しかし、これは完全に知らないといった表情だ。


 これが嘘だったら、天才児だ。


 囮などやらせず、俳優の道を辿らせる。


「……本当に記憶が無いんだな?」


「……うん?」


「そうか……」


 これは……新しい問題だな……。


 今度Markに相談するか……。





 ―ルルルルルルルルルルルルル……―


 Markの携帯が鳴った。


 俺は直ぐに出た。


 ――……――…――――――……―………―――……………


 ……ヤバイ。凄い怒られてる。


 お前何やってんの?ちゃんと躾けろよ


 みたいな感じだ。


「申し訳無い。次はちゃんと対処する」


 ――…――――………―――――――……


 こちらで処理しておくとの事だ。


 ありがたい。


 ―ツー……ツー……―


 携帯が切れた。

  

「……ケニー。いや、エーフィー。次からは辞めてくれよ」


「……う、うん?」



 そして、再び本部に向かうのであった。

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