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第八話 留守番

―パァァァン―


森の中に、微かに銃声が響く。


―パァァァン―


―パァァァン―


―パァァァン―


何発も響く。


 人里付近では無いので、人には聞こえていない。


「さて、今日の訓練はここまでだ」


「はーい」


 パワードスーツを得てから、おおよそ2週間。


 エーフィーはかなり成長をした。


 身体的に、精神的に、技術的にだ。


 パワードスーツの補助も大きかったのは確かであるが、それでも、エーフィー自身の成長は早かった。


 的にはほぼほぼ当たるし、構えも完璧。


 なんなら近距離の戦闘も出来る様になった。


「昼飯にするか」


「うん」


 今日の昼飯は、至ってシンプル。


 目玉焼きに、ウィンナー、それを焼いたパンに乗っける。


 そしてコーンスープだ。


「頂きます」


「頂きます」


 泥啜りに続き、エーフィーも手を合わせた。


「狙撃が随分と上手くなったな」


「ご主人の教え方が上手いからだよ」


「そうか?」


「そうだよ」


 他愛のない会話をしつつ、食事を続ける。


 ―ピリリリリリ―


 泥啜りのスマホが鳴った。


 スマホと言えど、持っているものはいくつかある。


 その中で、Mark本部との連絡用のスマホが鳴った。


 これは常に持ち歩いている物である。


 そして、本部からの連絡というのは、重要な連絡が多い。


 故に急いで電話に出た。


「こちらMark2。オーバー」


「――……――……――――…………――――……」


 モールス信号の様な音が鳴る。


 暗号音声。


 Mark独自の暗号だ。


 そして、この暗号は……


 招集の暗号である


「了解」


 ―ツー……ツー……―


 電話が切れた。


「電話?珍しいね」


「……明日までに出かけるしとけよ」


「え?」


「明日には、本当の職場。いや、本社に向かうぞ」


「え?本社?前のが職場なんじゃなくて?」


「俺にとっちゃ、仕事として赴く場所は、全部職場だ」


「あぁ……」


「飯食ったら準備を始めろよ」


「うん」


「あと、少し長旅になるからな。飛行機にも乗る」


「え、飛行機……」


「……そうだ、飛行機だ」


「ワクワクするね!」


 エーフィーは目を輝かせる。


 それは少女の目と言うよりは、少年の目の輝やかせ方であった。


「……そうだな」


―――――――――――――――――――――――――――――――


そしてその日。


 泥啜りは、シリコンマスクを被り、出掛けた。


 他人に変装出来るアレだ。



「……俺はちょっと出掛けてくる。……組織から変装用のアイテムを受け取らなきゃいけないからな」


 Markは、本部に来る前に、狙撃手達に偽造をさせる。


 主に偽装用のカード。


 そしてシリコンマスク。


 それに加え服や履歴書までだ。

 

 それらはMarkが一括でやってくれる。


 勿論、本部の特定を防ぐという意味合いもある。


「え、私も行く!」


「いや、エーフィーはお留守番だ」


「えぇー」


「えーじゃないぞ。いいか。余り、物にベタベタ触るなよ」


「分かった」


 それを聞いた泥啜りは、家を出た。

―――――――――――――――――――――――――――――――


始めてのお留守番だ。


 無音。


 辛うじて冷蔵庫の音がしたり、あと、TVの音が聞こえる程度だ。


「……暇だなぁ」


 そう。


 最も辛いのが、暇という事。


 あくまでエーフィーは子供。


 暇なのは嫌なのだ。


 子供の好奇心は、止めれないのだ。


「……」


 何かを探し始める。


 何か特定の物を探す訳では無い。


 ただ、何か発見を求めて探すのだ。


 ――――――――――――――――――――――――――――――


 泥啜りは、車を使い、拠点から一番近い街に向かっていた。


 Mark本部からの支給品を受け取りに行こうとしていた。


 待ち合わせ場所に、本部の人間がいる。


 そこで偽造用の色々を貰うのだ。


 今、泥啜りが拠点にしている家は、半径5kmには何も無い。


 自然が豊かな場所だ。


 水等は川から取ることもある。


 故に、一番近い街でも時間が掛かる。


 さて、それは特段珍しい事ではない。


 何度も経験しているし、全く緊張もしない。


 が、なぜか落ち着かない。


「やはり、エーフィーは連れて来るべきだったか?」


 そう。エーフィーを残して来た心配。


 あの家は、危険な装置もそこそこある。


 無いとは思うが、作動する可能性も全く0とは言えない。


 そして、もう一つ。


 あの拠点には、そこそこ住んでいる。


 ヴァロンでの仕事をする為の拠点だった。


 つまり、下手したら敵にバレかねない。


 もう既に仕事は終えているので、とっとと離れたいのだが……。


 エーフィーが囮として成るまで、それまではあそこに居たいのだ。


「まぁ、一旦今はいいか……受け取り優先だな」


 ――――――――――――――――――――――――――――――


「うーん……なんもない……暇だー」


 勝手に泥啜りの部屋に入ったエーフィーは、勝手に泥啜りのベッドにダイブした。


 リビングにはめぼしい物は無かったので、泥啜りの部屋に入ったのだ。


 しかし、泥啜りの部屋にはリビング以上に何も無かった。


 本一つ。ホコリ一つ。髪の毛一つ。


 何も無かった。


「ハーッ……」


 体を回す。


 天井が目に入る


 やはり、何も無い。


 


 エーフィーは、そのまま寝てしまった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――



 あ……。


 また此処……。


「やぁ、エーフィーちゃん、元気してた?」


 眼帯の老婆だ。


 ―うん。お婆ちゃんは?―


「元気さ。にしても、良いモン貰ったねぇ」


 ―パワードスーツ?―


 いつの間にか、自分にパワードスーツが装着されていた。


 ……やはり着ている感覚はある。


「そうだ。ちょうど今着てるやつさ」


 ―いつの間に……―


「私が神様だから出来るんだなぁ」


 ―ねぇ、お婆ちゃん―


「……。なんだい?」


 ―私、囮になれるのかな―


「いや、なれるよ。そんな装備も着てるからね」


 ―……実践経験っていうのが欲しい―


「……アホだね。そんなの子供が欲しい経験するべきじゃないよ……」


 ―でも、此処なら出来るでしょ?―


「私とやろうってのかい?」


 ―うん―


「ハァ〜……身の程知らずだね。分かった。やってやろうじゃないか」


 ―ありがとう―


「ただし、手加減はしない」


 その老婆の目は、獣よりも残酷で、光は無かった。


 殺しの目だ。


 ―分かった―


「じゃあ、合図で開始。状況は、ターゲットが建物内に居る。それを狙い撃つというモンだ。勿論、護衛にスナイパーも居る。それを、クリアしてもらう」


 ―分かった―


「じゃあ、開始する」



 目の前が暗転する。


―――――――――――――――――――――――――――――――


 気づけば、森の中に居た。


 パワードスーツに、ギリースーツを着ていた。


 銃は、いつものよりも大きく、重かった。


 使用した事の無い銃だ。


「とにかく建物を探さないと……」


 100メートル程歩くと、見えて来た。


 建物だ。


 おおよそ1500M程先だろうか?


 周りにも木が生えているが、良く見える。


 家の様なモノ。


 どういう物かは分からないが、とにかく家みたいなものだ。


 いや、基地と言ったほうが正しいかもしれない。


 ……もう少し情報が欲しい。


 自然とそう思った。


 伏せて構える。


 そしてスコープで覗き込む。 


 人影。


 1…2………


 数えてみると、20人程。 


 全員装備をしている。


 アーマーは勿論、銃も。


 そして、コンテナが多く積まれている。


 そして、迫撃砲等の武装。


 ―ザザッ―


「!」


 耳元から、音がした。


 ―やぁ、エーフィー。こちら依頼主だ―


 男の声。


 聞いたことのない声だ。


 ―目標は分かるな?ザイオンだ。頼んだ―


 聞いたことのない名であったが、何故か、誰か鮮明に分かったし、目的が何か分かった。


 ターゲットの抹殺だ。


 そして、今の状況を理解した。


 此処は、テロ組織幹部の基地だ。


 そして、ザイオンは、テロ組織の幹部。


 なんで分かるんだろう?


「なんで分かるんだって感じだね?エーフィーちゃん」 


「お婆ちゃん?」


 老婆の声だ。


「此処は私の頭の中みたいなモンだ。だからどういう状況か。アンタに共有出来るんだね」


「?と、とにかくありがとう?」


「ハッ!礼なんていいさ。さ、さっさと狙撃しておくれよ。ま、そんな直ぐに撃って良いもんじゃ無いけどね」


「うん」


 先ず、敵の情報が分かった。


 そして、見渡す限り、奴は建物の中に居る。


 お引き寄せるべきだ。


 ……何か無いか?


 すると、一つ目に入った。


 ガソリン……。


 周りには誰も居ない……。


 運が良い。


 確か、撃つと爆発するみたいな事を聞いた。


 引火だけに留まる可能性もあるが……。


 撃つか。


 ―パァァァン―






 あれ?


 爆発しない……。


 あ、今着弾した。

 

 あれ?随分と右に行っちゃった……。


 あ!そうか!


 ごしゅじんから聞かされた事がある。


 風速のヤツ……。


 えーと、えーと……


 と、とにかく、ズレた分を合わせれば良いよね!




 

 ―パァァァン―



 弾は着弾した。


 ガソリンは火を噴き、爆発した。


 轟音が響いた。



 ど、どうだろう。


 人は出てくるかな?


 エーフィーは一瞬スコープを覗いた。




 ―ゴッ―


 何か鈍い音が鳴り、視界が悪くなった。


 いや、ヘルメットにヒビが入った。


「え?」


 次の瞬間、エーフィーの意識は途絶えた。






「やっぱり死んだね」


 ―え?―


 目の前には老婆が居た。


 何が起きたのか、情報が巡る。


「なんで死んだか分かるかい?」


 ―え?え?―


「スコープをまた覗くんじゃないよ……。馬鹿だねぇ。反射でバレて、狙撃されたんだよ。いや、狙撃したって言う方が正しいかな?」


 ―……あ、うん。分かった―


 エーフィーはやっとの事で、理解が追い付いた。


 此処で、死んだのだと。


 痛みは無かった。


「ま、私に勝とうなんざ、早いよ」


 ―え?私お婆ちゃんと戦ったの?―


「そうだよ?あんたを撃ったのは私さ」


 分からなかった。何処から撃たれたのか。


 何処でバレたのか。


 殺気さえ、何も感じなかった。


 差。


 圧倒的差だった。


 当然ではあるだろうが、差であった。


 しかし、スコープを覗いたのは、ほんの一瞬だった。


 それでバレたのか……。


「因みに、一度撃ったら、ある程度場所を変えるのが良いよ。後、なるべく、隙間から撃て」



 ―す、隙間?―


「そう。隙間だ。あと、死角とか。場所的に彼処は真正面に近しい。だから一瞬でバレたのさ」


 いや、にしても早かったが……。



 ―もう一回―



「え、またやるのかい?」


 ―うん―


「ハァー……あれ疲れるんだぞ……」




 



 視界が暗くなる。



 また森の中に居た。



 よし、次こそは……



 今度はまたかなり移動をした。


 左に周り、そこから索敵した。


 建物の窓は極端に少ない。


 狙撃を対策しているからだろう。


 しかし、隙はあるだろう。


 此処はテロ組織の建物だ。


 何かしら幹部が出なければいけないタイミングはある筈だ。


 それを待つ。



 1時間。


 2時間。


 3時間。


 4時間。


 5時間……………



 辺りはすっかり暗くなってしまった。



 しかし、未だに出て来ない。


 やはり、自身からアクションを起こすべきなのか……。



 その時、建物付近に、1台の車が接近して来た。

 


 その時、建物のドアが開いた。



 そのドアの近くに、先程の車停まった。

 


 ドアから、ザイオンが表れた。


 今だ。


 ―パァァァン―


 ザイオンの眉間から、血が流れる。


 ザイオンが倒れた。



 また、意識が遠のく。





「やるじゃないか」


 腕を組み、満足気にエーフィーを見つめる老婆。


「まさか、2回目でやっちまうとはね。いや、正直意地悪したつもりなんだがね……」


 ―えへへ―


 エーフィーはドヤッと言わんばかりに、胸を張る。


「張れる程の胸は無いけどね」


 ―うっ……―


「あ、取り敢えず、実践はまた今度だね。ほれ、ごしゅじんが帰ってきたぞ」



 ―え?ちょ、待っ……―


 段々と視界が黒くなってゆく。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「おい」


 目を開ける。


 目の前にはごしゅじんが居た。


 寝てたらしい。


「何人の寝床使ってんだ」


「えへへ」


「えへへじゃないぞ……良いか?人の物は勝手に使ったら駄目だぞ?」


「分かった」


「……まぁ、良い。んじゃ、飯にするか」


「え?もう?」


「今何時だと思う?」


「え?お昼じゃないの?」



「夜8時だ」


「え?!」


 そんなに寝ていたのか……。


「えっ!?て……まぁ、良いけどさ」


「な、なんか虚しい……」


 なんか、胸にポッカリと穴が空いたような……。


「ま、自由時間を寝て過ごしたら虚しくもなるさ。さ、飯だ飯」


「うん!」


 今日の夕飯は、ステーキであった。


 

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