第7話 パワードスーツ
―バァァァン……―
森の中に、僅かに銃声が響く。
「う〜ん」
泥啜りが唸る
「またハズレ……?」
「あぁ、ハズレ」
「う〜……ん」
先日の訓練から、エーフィーは変わった。
銃を見ても抵抗が無い。
なんなら、別人と思える程明るくなった。
「……変わったねぇ」
思わず、そう呟く
「何か言った?ごしゅじん」
「ん、いや、なんも言ってないよ」
「そう?」
にしても……なんだろうか。
自身が支えているのはそうだが……。
エーフィーの体が動かない。
小さめの銃とは言え、反動では体が動く。
それまでは、石の様に動かない。
そこまで、彼女を変わらせたのか?
あの訓練が……?
「……あ、いやでも外してるしな」
「やっぱり何か言ったよね?」
「え、いや何も」
「ふーん……」
「……明日、出かけるから、準備をしてくれ」
「……!分かった、ごしゅじん」
エーフィーは目を輝かせて答えた。
その日の夕飯はチャーハンであり、エーフィーは直ぐに平らげだ。
純粋に美味しかったからである。
訓練で疲れたエーフィーはぐっすりと眠った。
――――――――――――――――――――――――――――――
「やぁ、こんちは。シルクちゃん」
黒いジャージ。
白い髪。
緑の目。
眼帯。
―あ!この前のおば……お姉さん!―
「……まぁいいさ。そう、この前のお姉さんさ」
―なんで見えてるの?―
「ん?それは、神様みたいなモンだからさ」
老婆は、自慢気に言う。
―嘘なんじゃないの?―
「まぁまぁ」
―……―
「にしても、当たってないね」
―え―
「見てたよ?的に当たってないじゃないか?」
老婆は、子供を宥める様に言った。
―え?なんで知ってるの?―
「ん?そりゃあ、私が神様だからさ」
―……―
シルクは、本当に神様なのかと思った。
しかし、直ぐにその考えを改めた。
神様はこんなジャージを着たお婆ちゃんでは無いと。
「……まぁ、いいさ。何も深く考える事じゃないさ」
―?―
「……取り敢えず、反動に対する構えが駄目だ」
―え―
「いいかい?こうやって構えるんだよ」
何処からとも無く狙撃銃が現れる。
―え?狙撃銃が……―
「見てな」
老婆は指を指す。
その方角に、的がある。
随分小さい。
いや、遠い。
1kmはある。
老婆は流れる様に構え、トリガーを引く。
―パァァァァァァァァン―
的のド真ん中。
本当に誤差の無い狙撃。
しかも老婆の体は一切動かず、まるで石の様であった。
それは、少女の目にも分かる。
そう簡単に出来る技では無い。
職人の技であると。
―……凄い―
「言ったろ?神様だってね」
―……―
少女は、老婆をじっと見つめる。
「なんつー目でみてんだい、ほら、やってみな」
―……銃が無い―
「あ……」
老婆が少し唸る。
すると、目の前にいつも使っている銃が出る。
「よし、やってみな」
―……でも、支えてくれないと―
「1回やってみな。此処なら怪我はしないからさ」
エーフィもそう言われ、流れる様に構え
―パァァァン―
撃った。
初めて直接経験する反動。
狙撃銃が上に跳ねる。
―ッ!―
手首、二の腕付近に痛みが走る。
反動を抑えきれていない。
しかし、これは仕方の無い事である。
エーフィーはまだ子供である。
筋力が足りずにそうなるのは必然的だ。
「うーん……なら、これがあった方が良いね」
突如腕が、銀色に、一回りほど大きく、太くなる。
―え?!―
エーフィーは悲鳴を上げる。
……手もなんだか大きい。
所々部品が見える。
少し腕が重い。
―これは?―
「パワードアームだ」
―パワードアーム?―
「言うなれば、補助装置だね」
―補助装置?―
「そう、狙撃がやりやすくなる筈だよ」
―分かった、やってみる―
構えてみるが、アームは大きいとは言え、鎧に近く、特段狙撃がやりにくくなるというものでも無かった。
なんとかトリガーを引く。
―パァァァン―
反動は抑えられている。
痛みも和らいだ。
しかし、的には当たらなかった。
どうも、横に反れたりするのだ。
―やっぱり……―
「……まぁ、反動は肉体的に仕方ないとして、シンプルに腕が無いね……」
―……―
「まぁ、気に落とす事はないさ。あの教え方でここまで出来るんなら、及第点さ」
―でも、当たらなきゃ、強くなれない……―
「強くなる目的はあるんだろ。美味い飯を食うっていうさ」
―?―
「え?違うのかい?」
―そうだけど……―
「目的があると無いじゃ、随分違うからね。いや、聞いただけさ」
―……?―
「ま、とにかくそうだね……。此処は無風の空間だ。風の心配は要らない。つまり、狙いやすいんだよ。当たらないのはそれくらい腕が無いんだ」
―……―
「ま、なんだ。数撃ちゃ当たるようになるさ」
―分かった―
それから、エーフィーは何発も弾を撃った。
無限に等しい様な時間で。
無限に等しい弾を。
そして。
―シュッ……―
「お」
的を弾が掠める。
―か、かすった……―
「やるね……よし、今日はここまでだ」
―ありがとう、お婆ちゃん!―
「……」
―あ、お姉さん―
「いや、もうこの際お婆ちゃんで良いよ」
―ありがとう!お婆ちゃん!―
「……ハァ……元気だねぇ……ホント」
老婆は頭を掻きながら言った。
―あ、でもアーム……―
アームはこの訓練が終われば消える。
そう感じた。
「あ、アームは直ぐに手に入るさ」
―ホント?!―
「本当だよ」
―やったぁ―
「多分」
―どっち?―
「……手に入るさ」
―やったぁ!―
「……ま、今日はこれまでだ。明日また会おう」
―バイバイ、お婆ちゃん―
「……じゃあね、シルクちゃん」
―――――――――――――――――――――――――――――――
リリリリリリリリリリリリリ………
エーフィーの部屋。
窓は無く、暗い。
その暗い部屋に、目覚まし時計が響く。
「……夢……?夢を、見たの……?」
夢。
正直、夢という感覚ではなかった。
本当に撃っている衝撃も来たし。
感じる感覚が、夢の中で収まる範疇では無かった。
しかし、疲れは取れている。
不思議な体験であった。
リリリリリッ……
目覚まし時計を止める。
時間は9時。
今日は、お出掛けの日である。
エーフィーは身支度を済ませ、部屋を出た。
泥啜りは、既に朝飯を作り終えて待っていた。
「お、おはようエーフィー」
「おはようごしゅじん」
今日の朝飯は……
焼き鮭。
味噌汁。
ほうれん草のお浸し。
そして……これは……?
茶碗に、白いつぶつぶがいっぱい入っている。
「ごしゅじん何これ?」
白いつぶつぶを指さし、エーフィーは聞いた。
「あ、あれは米だ。ジェドー国の名産だ。美味いぞ」
「へぇー……」
ジェドー国。
聞いたことがある。
飯も美味いし、景色も良いと評判が良く、両親もいつか行ってみたいと言っていた。
「これってさ、すし?にも使うやつだよね」
「お、良く知ってるな。そうだ。寿司にも使われるな」
「やはり、エーフィーは博識なのです」
「フッ、まぁそうだな」
泥啜りは、鼻で笑い応えた。
「……じゃあ、頂こうか」
「うん」
その時から、米は好評になった。
――――――――――――――――――――――――――――――
車内。
いつもとは違う、ワゴン車。
起床から2時間後。
「ねぇごしゅじん」
「……なんだ、エーフィー?」
「なにそれ?」
「あぁ、ヘルメットか?」
泥啜りは、黒い、フルフェイスのヘルメットをしていた。
目の付近のシールドには、スモークタイプの加工がされ、顔は完全に隠れている。
どちらかと言うと、ライダーヘルメットに近い。
「ま、これが俺の正装ってやつだな」
「正装?」
「仕事用の服さ」
「なるほど」
「で、何処に行くの?」
「……俺の職場だな」
「職場……」
エーフィーは職場など見たことが無い。
父親から話をちょくちょく聞いたことがるが、あまり良いイメージは無い。
「えぇ〜つまんなそう」
「え、えぇ〜じゃないっ。今回はエーフィーの為に行くんだからな」
「え、そうなの?!」
「そうだ」
「なんも聞いてない」
「あれ、言わなかったか?」
「言ってない」
「……多分エーフィーが今一番欲しいものだぞ」
「ホントに!」
エーフィーは、今までに無い程目を輝かせた。
「本当だ」
「やったぁ!!」
そう言うとエーフィーは、嬉しさの余りに脚をバタつかせる。
「あ、こら。脚をバタつかせるなよ」
「はぁ〜い」
――――――――――――――――――――――――――――――
起床から6時間。
車は曲がりに曲がり、山道に入った。
高速道路等は利用していないので、時間が掛かるのだ。
因みにエーフィーは、既に酔い止めを飲んでいる。
前回の反省を活かす為だ。
車がガタガタと揺れる。
「大丈夫か?エーフィー」
「うん、大丈夫」
「そうか」
「……」
「……」
「いつ着くの?」
「……そうだな、あと5〜6時間だな」
「えー」
「えーじゃない」
「え〜〜」
「ハァ……」
泥啜りが溜め息をつく。
「ハァーじゃない」
「お、お前が言うか?」
「だって、えーって駄目なんでしょ」
「……分かったよ」
「えー」
なぜ、えーとまた言う?
ふと、ミラーを見ると、エーフィーはニヤついている。
「……。いいか、スナイパーってのは常に冷静なんだ。だから感情の起伏を抑えるなんて、楽な事なんだぞ?」
「えー?」
「……」
「えー」
「……」
「えー」
「……やめろ?」
「えー」
「……」
「えー」
「よし、今日の飯はピーマン炒めだな」
「……!ま、待って!」
エーフィーはピーマンが苦手である。
最初食べた時に軽く嗚咽し始めて、かなり焦った。
「どうしようかなぁ」
「ご、ごめんなさい!」
「あんまし大人を舐めないほうがいいぞ」
「ごめんなさい」
「……」
段々と、アレだ。
生意気というか、アレだ。メスガキってやつだ。
それになって来ている。
あの訓練を終えてからだ。
……森で変なキノコでも食ったのだろうか。
いや、まぁ、そういう時期もあるかと思う。
実際、エーフィーはお年頃の女の子だ。
恐らく、身長からして、8歳くらいだろうか?
しかも、親も居なかったろう。
そりゃあ、この様に甘えたくはなる。
……と思う。
思いたい。
シンプルに舐められてるだけだと、傷付くし。
……まさか、日頃の訓練の鬱憤晴らしか……?だとしたら申し訳無いがな。
「なぁ、エーフィー」
「なにごしゅじん?あ、ピーマン炒め以外にしてくれる?」
「あ、うん。それはそうだがな」
「?」
「俺の事、どう思ってる?」
「え?」
……少し後悔した。
子供とは言え、変な事を聞いてしまったかもしれないと。
「ごしゅじんのご飯は美味しいよ?」
返事が返ってきて、少し安心した。
変な空気にならないからな。
でも、違う……。そうじゃない。
「……いや、飯の評価じゃなくてだな。いや、まぁいいか……」
「?」
「パパはパパだし、ママはママ。ごしゅじんはごしゅじんだよ?」
「……そうか」
泥啜りの表情は緩み、安心というより、それで良い。といった表情であった。
御主人。
雇い主。
囮としての。
仕事としての。
それ以上でも、それ以下でも無い。
けれど、それで良い。
それで良いんだ。
――――――――――――――――――――――――――――――
夜。
車が停止する。
結局、あれだけ走って山奥である。
見渡す限り黒。黒。黒。真っ黒である。
しかも、山道。
「よし、降りるぞ」
「え、此処?」
「そうだ」
そう言いつつ、泥啜りは車を降りる。
「何も無いけど……」
辺りを見渡しつつ、エーフィーもついて行く。
あるのは、黒い煙の出る一つの家くらいである。
民家の近くなのだ。
正直、見つからないか少し不安なのだ。
「あるぞ」
泥啜りが止まる。
「?」
「此処に」
―カンッ―
泥啜りの足元から金属音がする。
その足元には、古びたハッチがあった。
錆びて、かなり年季が入っている様に見える。
―カンカンッ カンカンカンッ カン―
泥啜りは、そのハッチをリズミカルに、まるで、タップダンスの様に踏みつける。
いや、これはまんまタップダンスだ。
「え?え?」
エーフィーは混乱した。
それはそうだ。
大の大人が、暗い森の中でタップダンスをし始めるなど、恐怖でしか無いだろう。
しかも、黒いフルフェイスヘルメット。
エーフィーでなければ泣いていた。
因みに本人は呆気に取られ、ただ見つめていた。
白けた目で。
「……」
「……」
互いは無言であった。
気まずい空気が流れる。
―カンカンカンッ カカカカンカンカンッ カカンカンッ―
しかし、タップダンスは続けられる。
そして
「……このリズムは、泥啜りさんですね」
ハッチから篭った声がした。
「え?」
ハッチが開く。
中から、黒い覆面の男が出てくる。
服装はスーツだ。
その男は、泥啜りをみた後に、エーフィーを見た。
「あれが、エーフィーちゃんですか」
「そうだな」
「こ、こんにちは」
エーフィーは咄嗟に挨拶をする。
初対面では挨拶が大切だと、お母さんに教わっていたのだ。
「こんにちは」
丁寧な挨拶を返された。
「じゃあ、ちょっと所持品チェックしますね」
「了解だ」
覆面スーツは、泥啜りを服の上から入念にチェックする。
かなり慎重にチェックしていたが、ヘルメットには触れられてい無かった。
「……大丈夫ですね」
「ありがとう」
「ご協力感謝します。次は、エーフィーちゃんの番ですね」
覆面スーツは、エーフィーの方に向く。
「エーフィー、絶対に暴れないように」
「分かってる」
「よし、じゃあ、どうぞ」
「では、失礼しますね」
入念にチェックがされる。
エーフィーは、所々くすぐったかっていたが、なんとか耐えた。
「はい、エーフィーちゃんも大丈夫そうですね。では、ハッチをゆっくりと降りていって下さい」
「分かった。行くぞ、エーフィー」
「分かった」
2人はハッチをゆっくりと降りる。
その後に、覆面スーツが続いた。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「お〜……」
エーフィーが感嘆する。
ハッチの下に広がっていたのは、The秘密基地。
床は鉄の様なもので作られ、壁はコンクリートの様だ。
そして、ファンの音が響く。
換気扇的なものだろうか。
壁には銃が並び、鎧が並び、弾が並び。
そして扉が一つ。
レジの様な物がある。
それの奥。
鉄の扉。
しかし、開いている。
そこからは、鉄か銅か、金属を叩く音がしている。
「親父さん、来ましたよ」
泥啜りが、その部屋の方角に向かって、叫ぶ。
鉄の叩く音が止まる。
そして、部屋から男が出てくる。
鍛え上げられた筋肉。
ピチピチの無地の半袖。
ビショビショに汗をかいている。
顔は、溶接マスクで分からない。
「よぉ泥啜り!囮の子ってのは、その子か?」
太い声であった。
少ししゃがれたような声。
若くない事は確かだが、肉体的にそれを全く感じない。
テンションも。
そして、その声の持ち主は、エーフィーを探していた。
「そうです。私です」
「そうか!アイツを思い出すな!」
「……まぁ、そうですね」
「アイツ?」
エーフィが顔を傾げ、泥啜りを見る。
「……ま、今度話すよ」
「うん」
エーフィーは素直に従った。
「んで、依頼のやつだがな。着せてみるか?!」
「お願いしても良いですか?」
「よし!」
その溶接マスクは、また部屋に戻って行った。
そして、すぐに戻ってきた。
その腕には、何か迷彩柄の何かが抱えられている。
「……あ」
その内の一つは、夢の中で見た、パワードアームに似ていた。
「よし、早速着せてみるか!パワードスーツをっ!!」
――――――――――――――――――――――――――――――
早速エーフィーに着せてみた。
結構もたもたしたが、その内慣れるであろう。
「どうだ?エーフィー」
「なんか、ちょっと怖い」
「ま、それは慣れてくしか無いな」
うん。
良いんじゃないか。
ゴツい宇宙服みたいでカッコいい。
身長は、俺よりデカくなってるな……。
180以上はある。
パワードスーツは、全体に迷彩が施されおり、
腕部分は、衝撃、反動を抑え、シンプルにパワーのかさ増しを目的としている。
脚部分は、身長のかさ増し、不安定な足場でも対応が可能である。
ヘルメットは丸く、後頭部にあたる部分には、プレートが施されており、その部分以外は、強化シールドの、黒いスモークが施されている。
勿論、大口径ライフル弾も通さない。
次に、細部のアーマー。
これらは胸や太腿等の、メインとなる装備以外の部分を守る目的だ。
因みにこれらは、特殊なドライバーで調整が可能であり、身長体格問わず着用が可能である。
その中で少し疑問に思った。
それは……肩パッド。
やけに大きい。
弾を弾く面積が大きくなるのはそうだが……大きすぎやしないか?
「親父さん、なんでこんなに肩パッドが広いんです?」
「ん?それか!ギリースーツを着せたら分かる!」
ギリースーツを上から被せる。
「うーん……」
……特に見た感じ代わり映えは無い。
「よし!エーフィー!伏せて、狙撃の姿勢をしてみてくれ!」
親父さんがそう叫ぶ。
「わ、分かった!」
エーフィーもそのテンションに釣られ、大きく応える。
そして、構えた。
「あ、なるほど」
構えて見ると、ギリースーツのお陰で、中身のパワードスーツが全く見えない。
ギリースーツを被った大人に見える。
それに一役買ってるのが肩パッド。
肩パッドのお陰で肩幅的にも、違和感なく大人に見える。
なるほど。
「……やはり、考えておられますね」
「当たり前だ!こちとら、お前らと一緒のプロだからな!金も貰ってるしな!」
「……早速試してみても?」
「勿論だ!」
「エーフィー、やるか?試し撃ち」
「うん!」
「よし、セルト、案内してやれ!」
親父さんが叫ぶ。
「了解です、親父」
エーフィーは、背後の声に驚いた。
覆面スーツが、いつの間にか後ろに立っていた。
どうやら、名前はセルトと言うらしい。
「では、こちらへ」
―――――――――――――――――――――――――――――――
覆面に案内されるがまま、ついて行く。
壁についている扉を開ける。
一面に、緑が広がる。
緑と言えど、人工芝。
そして、壁に埋め込まれたファン。
コンクリートの壁。
大規模な射撃場。
直線で3km、横には500mはあるだろうか。
「もしかして、山の下全部……」
「射撃場です」
「……」
エーフィーは声も出なかった。
子供ではあるが、土地がどれくらい高いか知っているし、ましてや地下にこの様な施設を作る大変さも、良く知っている。
父親から良く聞かされた。
「さて、早速撃ってみるか、スティールカットを借りるぞ」
「スティールカットですね、少々お待ち下さい」
「あぁ」
数分後、スティールカットが持ってこられた。
ちゃっかり親父さんも来ていた。
「よし、早速やってみろ、エーフィー」
「分かった」
エーフィーは伏せ、構える。
既に1キロ程先に、的は出ている。
ギリースーツと、パワードスーツを纏った少女の構えは、確かに狙撃手であった。
「……似てるな」
親父さんがそう呟いた。
それは、確かにエーフィーの姿勢であった。
―スーッ―
エーフィーが息を吸う。
そして、トリガーを引く。
―パァァァン―
銃声が響く。
体は動かなかった。
「……」
「……」
「……」
弾が当たるまでの時差。
皆黙った。
しかし、全員が確信した。
「当たる」
泥啜りは、そう言った。
―バコンッ―
予言通り、弾は命中し、的は砕けた。
「良く当てたな」
「このスーツ、凄い……」
「当たり前だ!俺の作った作品だからな!」
その後、何度か試し撃ちをし、射撃場から出た。
弾は全て命中した。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「親父さん、いつもありがとう」
「おう!いつでも来ると良い!」
「それでは、またいつか」
「おう!」
「ありがとうございました」
「嬢ちゃん、お前さんは良いスナイパーになる!」
「私は囮です」
「そうか!そうだったな!アッハッハ!」
そんな会話をし、2人はハッチへと向かう。
「それでは、またのご来店お待ちしております」
覆面スーツが言う。
「えぇ、また来ます」
泥啜りがそう言うと、覆面スーツは、丁寧にお辞儀をした。
アーマを脱いだエーフィーはお辞儀、泥啜りは軽く会釈で返す。
2人はハッチを出て、車に入った。
アーマーは後部座席に置いた。
このアーマーは、バラバラにして、再度組み立てる事も出来るのだ。
テントみたいなものなのだ。
「……ごしゅじん」
「なんだエーフィー?」
「もっと可愛いのが良かった」
「……そ、それはスマン……」
その鎧は、エーフィーの矛となり、盾となるのだった。