第六話 記憶の奥
「おい、嬢ちゃん弾当たってないか……?!」
炎に包まれ、そう聞く男性の軍人が居た。
名はキッシュ·ジール
しかし、質問の対象となる少女は、倒れて微動だにしない。
「……おい?」
キッシュは、少女に近づく。
血は、流れていない。
微動だにしない少女の呼吸を確認し、生きている事を確認する。
銃を撃たれたショックか?
そう考えたのも束の間。
少女の前にある物。
燃える、何か。
人のように見えるそれは、異臭を放ち、燃えていた。
それは、少女と一緒に居た母親。
まさか。
「うっ…………」
キッシュは、咄嗟に口を抑える。
異臭からでは無い。
この子供の置かれた状況を想像したからである。
しかし、吐くわけにはいかない。
水分が、勿体ない。
必死に、堪える。
必死に。
「ハァッ……!ハァッ!」
なんとか吐き気を抑える。
そして、ある結論に至った。
「まさか……気絶……?」
そう、気絶。
ならば、とっとと安全な場所に連れてゆくべきだ。
男は少女を背負った。
傷付けない様に。
慎重に。
「……!キッシュ!」
すると、後ろから声がした。
「隊長ッ!」
女性軍人であった。
名を、ミース·シェフィアと言う。
黒髪に、少し焼けた肌。
焼けたというのは、爆発からではなく、日焼けである。
「大丈夫……じゃなさそうね……」
キッシュは、爆発の際に頭の半分を大火傷している。
しかし、アドレナリンによってある程度軽減されていた。
「今はなんとかなってますが……」
「それより、この子が優先ですよ」
キッシュは、背中の少女を見る。
「いや、貴方が倒れては、元も子もないです」
そう言うと、ミースは懐から包帯を取り出す。
「残ってるんですか……包帯」
「……皆、即死です……」
「……そう……ですか」
可能な限り消毒をする。
「……イッ」
「我慢して下さい」
そして、包帯が巻かれる。
「すみません、ありがとうございます」
「……そろそろ移動しますか」
「えぇ……でも」
「でも?」
「ちょっと……やりたい事があります」
「そう」
そう言うと、キッシュはミースに少女を渡した。
そしてキッシュは、探した。
何を探したか。
勿論、無事な市民も探したろう。
が、彼は、とある死体の前で止まった。
それらは、体に銃を受け、死んでいた。
死んだ市民の前で、死んでいた。
護ったのだろう。
が、それは叶わなかったのだ。
が、確かに救うことに貢献したのだ。
一人の少女を。
「シャル……シードル……」
シャル。助手席の男だ。
タイヤを変える際に襲われた筈だが、恐らく襲撃から逃げ切り、市民の防衛に参加した。
シードル。運転席の男だ。
運転席に居ながら、銃撃を乗り切り、市民の防衛に参加した。
皆、優秀な軍人であった。
しかし、皆、元味方に殺された。
「……ハァーッ…………」
血に塗れた、銃を拾う。
男は、こめかみに銃を突きつけた。
「……もう、いいか」
―パァン―
キッシュは倒れた。
いや、倒された。
「何をやってんだッ!!馬鹿ッ!」
ミースに。
「…………?」
キッシュは生きている。
撃つ直前に、倒された。
つまり、死んでいない。
「おいッ!なんとか言えッ!」
ミースからすれば、黙っていた事が死と錯覚するのも、無理はない。
「……スイマセン。」
「…………二度としないで。こんな事……」
そう言うと、ミースはキッシュからどいた。
「…………」
両者、黙り込んだ。
「……申し訳無いです」
キッシュが、言葉を先に出した。
「……」
「……」
しかし、会話は無かった。
キッシュは、ただ呆然としていた。
自身が、なぜあんな事をしたのか。
なんだか、よく分からなくなっていた。
ふと。
ミースを見る。
こちらをじっと見つめている。
ふと、気づいてしまった。
さっきので、逆に敏感になったのだろう。
背中に、居ない。
背負っている筈の、少女が。
「……その……少女は何処へ……?」
「あそこに……」
ミースは振り返る。
少女はいない。
「その……何処ですか……?」
「……うそ……」
「え?」
「居ない」
ミースは、キッシュが銃を拾った瞬間、嫌な予感がしたので、そっと、しかし、早く置いた。
建物の付近に置いた。
確かに置いた。
しかし、居ない。
あの一瞬で?
まさか。
見渡す。
居ない。
居ない。
居ない……。
「……うそ」
「ッ!俺が探しますッ……!」
やっとキッシュは、責任を感じた。
自身が、やろうとした事に。
自身のした事によって、少女が消えた事に。
罪滅ぼしを、しようとした。
駆ける。
走る。
転ぶ。
立つ。
見渡す。
駆ける。
走る。
走る。
走る。
歩く。
止まる。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
スタミナというのには、限界がある。
勿論、戦闘の後だ。
「ハァ……ハァ……、ちょ、ちょっと待って……」
ミースが追いかけて来ていた。
「あ、す、スイマセン」
「一緒に……探しましょう」
「あ、え?……はい」
―――――――――――――――――――――――――――――――
目を開ける。
空。
雲はそこまで無い。
……何かがやける匂い。
ここは、どこだろう。
何も、覚えていない。
なんだが、走らないといけない気がする。
逃げないといけない気がする。
「……!」
銃を持っている人達がいる。
2人。
この人達だ。
逃げなきゃ。
こっちに気付くまで。
音を立てずに、走った。
走った。
体に、支障は無かった。
無傷であった。
その理由を、彼女は覚えていない。
――――――――――――――――――――――――――――――
「一体、何処に……?」
「俺のせいです……」
「いや、そんな事は無い」
「でも……責任はあります」
「……」
「だから、償わければいけない」
「……それは、私もよ」
「……」
「……」
その日、軍人達は夜まで探し回った。
しかし、少女が見つかる事は無かった。
その二人の事など構う事無く、夜空は星を輝かせていた。
1時間程探したが、見つからない。
「……もう、俺軍人辞めたいです」
キッシュは、もう折れた。
人として。
「……」
「……隊長は、どうですか……?」
「私は……まだ助ける命がある限り、軍人で居たい」
「そうですか……」
「貴方は……?」
「俺は、もう辞めます」
「そう……なら私が書類出しとくわ」
「……申し訳ないです」
「良いのよ。けど、ここからどうするの?」
「俺は……一旦スティルナートに行きます」
「……そう、じゃあ……これを持っていって」
それは、シャルと、シケールの2人のドックタグである。
「……これ、シャルとシケールの……」
「……もう、彼等には必要はないでしょう……」
「……」
「……もう、死体も誰か分かるし、助かる可能性もないもの」
「……分かりました、これは俺が預かります」
「……じゃあ、また何処かで」
ミースは、敬礼をした
「また、何処かで」
キッシュも敬礼をした。
この日、一人の軍人が引退し、2人の軍人が死んだ。
――――――――――――――――――――――――――――――
一方
少女は、ひたすらに歩いていた。
夜空が輝く中も。
朝焼けに空が染まる時も。
空が水で溢れる時も。
雷で空が唸る時も。
全て、ただひたすらに歩いた。
その間に、髪が白くなっていく事に、少女は気付かなかった。
不思議と、何も感じなかった。
逆に言えば、何も感じない程限界なのであった。
その度に、雨水を飲み、瓦礫から食べ物を漁り、時には、虫も食べた。
不思議と、毒には当たらなかった。
勿論、腹を下す事はあった。
しかし、彼女は幸運である。
食べ物を漁れば、食事を見つけ出し、虫も毒を持っているものは食べなかったし、敵に出くわす事も無かった。
本能的なものなのか、はたまた知識であるのか、それは判断しにくいものである。
そして、もう一つの幸運であるのが、スティルナートに着いた事である。
スティルナートは、崩れた街である。
勿論、終演の街であり、終わった街の一つだ。
しかし、それは他の街も同様。
むしろ、街もどきとして、機能しているからこそである。
この国の街は、被害を受ければ、全てスラムより下、もしくは無くなるに等しいのだ。
そして、敵も崩れたのは認知しているので、既に撤退し、他の戦場に兵を送った。
互いにジリ貧なのだ。
引くに引けないジリ貧。
故に、隙間が出来たのだ。
そこにゆっくりと人が流れた。
しかし、闇市等の大きい事は出来なかった。
ジリ貧とは言え、バレたら、終わりなのだ。
民の方が、よっぽどジリ貧なのだ。
故に皆、色々な商売をした。
死なない為に。
犯罪も横行した。
しかし、他の街より、希望があった。
しかし、市民はそんな事は知らない。
自分達が、一番不幸であると。
そう感じていたのだ。
故に、誰も動こうとしないのは、当たり前である。
少女は、ゴミを漁り、時たま腹を下し、生きていた。
そんな暮らしだ。
長続きなぞしない。
しかし、もう一つ、彼女に幸運が訪れる。
彼女は、布を被せられ、何かを巻かれる。
この巻かれた腕は、男性の腕である。
タルテ。
そう、タルテの腕であった。
そしてこれが、最大の幸運であったのだと。
―そうか、こんな事があった―
目の前で記憶を目にしたシルクは、全てを思い出した。
記憶の背景は全てが止まった。
―私は、エーフィーでは無く、シルク……―
エーフィー。それはあくまで仕事の名前だ。
仕事名。
だが、記憶のない頃の本名になる。
しかし、本当の名前はシルク。
それは分かった。しかし、本名は?
シルク……何だったか?
そんな事は言ってくれなかった。
わざわざ、上の名前を言ってくれる実の親など、いないであろう。
「シルク·ロッツォ」
聞いたことのある声。
後ろから。
―え?―
「本当の名前は、シルク·ロッツォよ。シルク、いや、今はエーフィーかしらね」
―ママ?―
そこには、シルクの母親が立っていた。
傷一つない、想像通りの母親。
「シルク」
―なんで……?―
「あら、嬉しくないの?」
―嬉しいよ……けど……なんで……?―
「これは記憶。そう思ったろ?」
聞き覚えのある声。
また、後ろから。
高い身長に、スーツ。
金髪の男。
白い肌。
緑の目。
シルフィの身長が腰ほどしかない。
この人は―
―パパ……!―
「……シルク、ただいま」
シルクの父親が、何故一緒にいなかったか。
シンプルな理由である。
仕事の出張中に戦争が起きたのだ。
帰る前に電車等は破壊されたので、帰れない。
故に、先に避難所に行ったのだ。
故に、会えなかった。
故に、帰れなかったのだった。
―おかえり……なさい―
「あ、ほら泣くなっ高い高いー」
シルクは抱きかかえられ、上に上げられたりする予定であったが、
父親の手は、シルクを貫通する。
―え?―
「あ、そうか……」
「ちょっとパパ、シルクがビックリしてるじゃない」
「いや、俺等がいる時点でビックリでしょ」
「あ、それもそうね」
フフフと笑う母親。
ハハハと笑う父親。
今何が起こっているのか、シルクには分からない事であった。
―パパ?ママ?―
「ん?なんだいシルク?」
「どうしたの?」
―なにがおこっているの?―
「んー、それはね、簡単だよ。パパ達がお化けになって出てきてるんだよ〜」
「ちょっと、パパ?」
「ハイ」
父親はかしこまり、姿勢を整えた。
「……まぁ、いいわ」
「えへへ……ごめんねママ」
「いいのよパパ」
―……―
ふと見ると、シルクは震え、声を抑え、泣いていた。
「あぁ!ごめんねシルク。ほ、ほらほら。いないいない、バァ〜」
「ちょ、ちょっとパパ……」
―パパァ……ママァ……―
―あぁぁぁぁっ、うわぁぁぁあん―
シルクは、声を上げて泣いた。
それを見るや否や、両親はシルクを包み込む様に、抱いた。
そのまま、しばらく時間が経った。
「ねぇ、シルク、ママはね、貴女に生きて欲しいの。シルクとして。エーフィーとしてじゃなくて」
―ママ……?―
「貴女に、人を手にかけて欲しくないの」
―でも…………―
「…………でも?」
―私は、恩を返さなくちゃ……―
「子供がそんな事を考えなくていいのよ……私は、貴女に平和に生きて欲しいの」
―でも…………パパは?―
「ん、俺かい?俺は、シルクがやりたいようにやって欲しいね」
―でも……私は……―
―囮として生きる―
「シルク……」
「……」
両親は、その返事に心を締められた。
―そうでもしなきゃ、生きれない―
「……」
「……でも、暴力では、何も解決しないのよ……?」
―……―
「シルク、貴方は、どう思うの?」
―……でも、ごしゅじんは、ご飯をくれたよ……―
「……」
―……―
「シルクはさ、どうしたいの?」
と、父親が優しく聞いた。
―分からない―
「……そうか」
―けど、やらなきゃ―
「やらなきゃ?」
―おいしいご飯食べれない―
「……そうね」
母親が微笑む。
「そうだな……」
父親も微笑む。
「……んで、あんたは誰なんだ?人の記憶を覗き見して?」
「…ん、バレちゃしょうがないね……」
老婆がいた。
ポニーテールの白髪に、緑の目。
しかし、左目は眼帯。
黒い上下ジャージ。
袖を前腕までたくし上げていた。
―誰?―
「んー?まぁ、そのうち分かるんじゃないかい?」
「そんな事言わずに教えて下さい」
と、父親
「そうだよ、お婆ちゃん」
と、母親
「おば……?!お婆ちゃんじゃないっ!お姉さんと呼びな!」
キレる老婆
「え、じゃ、じゃあ、お姉さ」
「お姉さん、早く教えて下さい」
父親が言い切る前に、母親が言い放す。
「ん〜〜、まぁ……神様かなぁ?」
「嘘は付かないで下さい」
と、母親。
「……まあまあ。取り敢えず、そうだね……凄いお婆ちゃんさ……」
―え?―
「……」
「……」
黙る両親。
「……え?」
とぼける老婆。
―どういう事?―
「まぁ、あんたらの話が終わったら教えるよ。……さらばっ!!」
―ま、待って!―
そう言うシルクを見ながら、老婆は消えて行った。
―消えちゃった……―
「な、なんだったんだ……?」
「……なんか、今のシルクに、似てたわね……」
一体誰か。
しかし、彼等の目的はそこではない。
彼等は、シルクの事を考えに来たのだ。
「……で、シルクは何をしていきたいの?」
―ご飯を、おいしいご飯をいっぱい食べたい―
「……そう」
―あと―
「あと?」
―絶対に、死なない―
「……」
「……」
「……死なない、ねぇ」
また、あの老婆が居た
「あ、また!」
「ちょ、ちょっと、もういいでしょ!?」
「シルク、あの界隈で死なないってのは、キツイよ?」
―なんでわかるの?―
「言ったろ?私は強いお婆ちゃんってね」
―……―
「……」
「……」
皆、黙り込んだ。
「え、何この空気」
「そりゃ、家族会議に知らない人がいるからですよ」
「……分かった、分かったよ。じゃあ本当に終わるま出てこないよ」
また、消えて行った。
「ハァー……シルク、じゃあ、今から言う事を約束して」
―わかった―
「絶対に、関係の無い人は撃っちゃダメよ?」
―うん―
「囮だけど、変に死にに行く様な事はしないで」
―うん―
「それと、囮として死んだらダメ……」
―……うん―
「……ごめんね…」
―なんで……?―
「私が、死んだから…………こんな事にね……」
―ママは、守ってくれたから……―
「……ごめんね……ありがとうね……」
物理的なハグは出来ないが、ハグをする動作をした。
「シルク……絶対に、生きて……!」
―わかった……!―
その上に、父親が重なってきた。
「シルク、自分の身は、自分で守れる様になるんだぞ……」
―わかった…!―
「「頑張れ、シルク」」
―……うん!―
少女の顔は、輝きに満ちた。
これでは、老婆の出る幕は無いだろう。
―ママ……?パパ……?―
「お別れだ、シルク」
「元気でね」
―うん……パパ、ママ、大好きだよ―
2人は、ほほ笑みながら、しかし、涙を流しながら消えた。
――――――――――――――――――――――――――――――
「……っ!」
シルクは目を覚ました。
いや、仕事名はエーフィーであった。
森の中。
目元は、涙の跡があった。
「ママ……パパ……」
思い出す。
両親との記憶を。
不思議と、怖い思い出というのは、消え去っていた。
「私、頑張る……!」
気絶して、さほど時間は経っていなかった。
慌てて銃を構え直し、耐える。
そこからは、ピタリとも動かなかった。
ふと、頭に鳥が止まった。
鳥は、自身の足元が人だとは考えなかった。
故に、地面であると思ったが故に……。
―ピチャリ―
「え」
ブザーが、森に響いた。
――――――――――――――――――――――――――――――
「ど、どうしたエーフィーっ!」
「ご、ごしゅじん何これぇ?!」
顔に、白い何かが滴っている。
ギリースーツにも付いているそれは、少し茶色の何かを含んでいる。
「……エーフィー。それは……鳥のフンだ」
泥啜りは真剣な表情で言い放つ。
寄生虫が居るかもしれないから。
「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――」
エーフィーは泣き叫んだ。
汚いから。
初の忍耐力の訓練は、これにて幕を閉じるのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
キッシュは、一人で歩いた。
装備を外し、シャツ1枚、だが、3つのドックタグを付けていた。
自身のと、戦友の物。
これが、唯一の支えであった。
魂が抜けた様な、この男にとって。
彼はスティルナートに着いて、惨状を目の当たりにした。
崩れた建物。
広がる瓦礫。
腐ったような匂い。
飢える人々。
横行する犯罪。
もう、折れてしまった。
あれだけやって、助かった人も。
こうやって、不幸ではないか。
だから、なにか、なにをすれば良いか、分からなくなってしまった。
ただ、彷徨うだけ。
ただ、死なない様に、生きるだけ。
あぁ、何を。
何をすれば良い?
何をしたいんだ?
髪は延び、髭も延び、汚れ、満身創痍の俺に、何が、出来る?
そう自問自答をしつつ歩く。
すると、大通りに出た。
やはり、人々が座り込んで居る。
が、何か違う。
今までの人々と、何か違う。
何か、見ている。
目線を追う。
人。
ナップサックを背負った。
坊主頭の、男。
何か、動いている。
瓦礫を退かしている……?
……何故、そんな無意味な事をする。
もう、どうしようもないこの国で。
「……あんた、瓦礫を退かしてるのか」
「ん?」
「まぁ、そうだな。瓦礫を退かしてる」
何故だ。
なんの為にやる?
「なぜだ?」
「なんでって……」
……まさか理由などないのか?
なるほど。内戦で狂ったのか。
話しかけるべきでは無かったな。
「……まぁ、償いだな」
償い。
償いか。
「……償いか」
……この戦争は、国民同士の戦いが発端である。
そして軍に拡がり、政治に拡がり、戦争に発展した。
そしてこのザマだ。
さて、その責任は誰が取るのか?
誰も取ろうとしない。
既に互いの主犯格は狙撃されて、死亡。
それにて戦争は終わった。
だが、どうだ?
戦争の傷は癒えず、国民の意気は消沈した。
この国は病んでしまった。
誰の責任だ?
誰も悪くないのか?
……いや、少女が逃げたのは、誰のせいだ?
……俺だ。
あぁ、そうか。
俺は、償いを求めてたんだったな。
……ようやく、分かった。
ようやく思いだした。
ミースさん、ごめんなさい。
……俺、今からでも頑張ります。
「俺も手伝おう。償いたいからな」