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第五話 記憶

「……ク?……ルク?!」


 ぼやけた視界。


 そこに見える、何か。


 金の髪の、誰か。

 

 声が聞こえた。


 懐かしい声。


 けど、最近聞いたような声。


「シルク……!?」


 ハッキリと聞こえたそれは、母親の声であった。


 視界も晴れ、母親の姿がクッキリと見える。


「ママ……?」


 少女は力無く声を上げる。


「シルク!……良かった……!」


 声を震わせ、母親はエーフィーを抱きしめた。


「ママ……」


「ママよ……!シルク……!」


 シルク?


 あぁ、そうか。


 すっかりと忘れていた。


 名前はシルクだ。


 そう。


 エーフィーではない。


 シルク。


 


 本当の名前は、シルクなのだ。



 


「良かった……本当に……心配したんだから……」

 


「シルク、今からパパに会いに行けるのよ」


 母の目は、優しく光を帯びていた。


「ほんと?」


「本当よ、シルク」


「やったぁ!」


「良かったわね。私も楽しみだわ」 

 


「シルクも楽しみ!」


「ねぇ、シルク?」


「なに?ママ」


「絶対に死なせないからね……」


 母親は、小さく呟き、シルクを抱きしめた。


「……」


「……もう少し寝ててもいいわよ」


「もう眠くない」


「そうよね、いっぱい寝たものね」


 


「皆さん」


 突如、後ろから声がした。


 女性の声。


 後ろを見る。


 防弾チョッキに、ヘルメット。


 そして、銃。


 軍人だ。

 


 ……いや、元々此処は何処だ。


 辺りを見渡す。


 人は多くはなかった。


 自身を含めて、6人程。


 老人、若い女性、若い男……。


 色々居るが、

 子供は、シルク一人だ。


 軍人は2人の運転手含め、4人。


 運転席は後ろ側とは遮断され、見えはするが、横のドアからしか逃げれないものになっていた。



 そしてその中で、顔色が良い者は誰一人居ない。


 不安な顔、恐怖で引きつった顔、絶望で感情が死んだ顔。


 様々であるが、どれも、よくない模様であった。


 そして、定期的に揺れる視界。


 エンジン音。


 そして、さっきの女性の装備。

 


 避難トラックだった。


 窓から見える暗さ的に、もう夜だろう。


 今は避難中。


 攻撃がこの街にも来るから、避難所に避難するところだ。

 

 


「……明後日には避難所に着きます」


「本当ですか!」


 女性軍人の言葉を皮切りに、トラック内がざわつく。


 良かった、やっと着くのか、家族に会える、と安堵する声。


 逆に、避難所に家族はいるだろうかと、心配する声。

 


 色々な声がする。


「皆さん、安堵されるのは分かります。ですが……」


 なにか、言い淀んだ。


「……」


 他の軍人も、なにか言いにくい雰囲気を醸し出している。


「実は、つい先程から、ジャミングを受けたのか、通信が出来ません」


「えぇ!?」


「安全なのか?!」


「勘弁してくれ!」


「今更なんで……」


 トラック内は更に不安と恐怖、そして敵に対する怨みで渦巻く。


「落ち着いて下さい、避難所に襲撃しようものなら、戦争は激化する一方です。それは相手も分かっているはずです」


「……」


 トラック内は、静まった。


 直後。


 そうだよな。と安堵する声。


 流石にな。と安堵する声。


 安堵の声が広がる。


 安堵の声ばかりである。


 そう。


 安堵しなければ、皆、壊れてしまう状況であった。


 頭から消していた。


 可能性を。


 記憶を。


 この戦争が、人を殺し合う目的でやっているという記憶を。


「取り敢えず避難所に行きます。最悪の場合、我々が盾となり、皆さんを守ります」


 

「頼りにしてます!」

 

「どうか、俺達を護って下さい」


「お願いします!」


 ある種、軍人に対する激励でもあった。


 民から頼りにされる。


 この極限状態においては、大きな支えになった。


「我々は、命を賭けて貴方がたを守ります。……そして、ありがとう……」


「?え、まぁ、どういたしまして、かな?」


「あぁ、だな」


「ハハッ」


 少し、和んだ会話が拡がった。


 ――――――――――2日後 朝―――――――――――――


「嘘でしょ……」


 母親は声を震わせる。


 皆、トラックから降りて、確認した。


 


 避難所であったものは、跡形も無くなっていた。



 


 周辺は煙が立ちこめ、建物はつぶれていた。


 風が吹く度、砂ぼこりが舞う。


 

その中で、軍人は考えた。


 なぜ通信が途絶えたのか。


 ジャミングでもある。


 強力なジャミング。


 それは分かった。


 しかし、何故。


「ッ……!」


 工作員。


 最悪のパターンだ。


 上層部は、何故予想しなかった?


 いや、した所で無理だ。


 誰が工作員か、分からない。


 思想とかの話だ。


 真意なんて確かめようが無い。


 しかも、相手の工作員は優秀だ。


 それは、軍人だからこそ分かる事。


 元々同僚だから分かる。


 そして、これは内戦。


 しかも、国全体の。


 軍を巻き込んだ、国民同士の戦い。


 文化と思想、人種と差別の摩擦によって生じた戦争。


 軍人も人だ。


 感情もあるし、思想もある。


 だから、軍部も割れた。


割れた際に、工作員など、幾らでも入り込めた。


 つまり…… 


 これらは、ジャミングをし、

 その後工作員が完全に通信網を潰し、

 爆撃の撃墜システムを一時的に落とし、

 その隙に爆撃をさせる。


 「やはりこの戦争は、人を殺す事を目的とした戦争だ……」


 男の軍人が呟く。


 そう。


 互いが人を殺す目的で戦う、愚かな戦争であった。


 安全な場所など、無いに等しいのだった。


 文字通り、最悪な戦争であったのだ。


 故に、だから防げなかった。


 防ぎ得なかった。


「……」


 軍人達は、絶望を出すのを堪えた。


 唇を噛み、耐えた。


 泣きそうになるのを堪えた。


 それでも、肩は震え、拳は握ると揺れた。


 


 市民達は


「あ、あ、あ……」


 膝から崩れ落ちた。


「うぁああぁ……!」


 声を荒げて泣いた。


「夢、夢だこれは夢。夢、夢、夢、夢夢夢……」


 頭を抱え、逃避した。


「ッんでだよっ!!」


 声を荒げ、ぶつけようの無い怒りを、何かにぶつけた。


「あいつら、死ねよ。死ね。クソォッ!死ねッ死ね」


 敵を怨み、妬んだ。


「…………」


 シルクの母親は、ただ黙り込み、何も無い景色を見つめた。


 シルクは何が起こったか分からなかった。


 が。


 父親が居ないのは分かった。

 

「ママ、パパは?」

 

 母親は瞬時にシルクを、抱きしめた。


 母親は、肩を揺らし、ただ、堪えた。


「ママ……?」


「パパは……パパはね……遠い場所に行ったのよ……」


 その声は震えていた。


 シルクは、父親"は"居ないのが分かった。


「え、なんで……?嫌だよ……帰ってくるって言ったじゃん!!ねぇ……パパぁは?パパぁ……パパぁ……」

 

 

―うぁぁぁぁんっ……うぇぇぇぇぇぇっ……―


 シルクは泣きじゃくった。


 響く。


 少女の泣き声が。



 それは、トラック内にも響いた。


 


 


 皆、反応は違えど、絶望に心を割られた。


 しかし、軍人を責める者などいなかった。


 


 不思議と、空は晴れていた。


――――――――――――――――――――――――――――――― 


「……」


 トラック内で軍人は皆、黙り込んだ。


 それはそうだ。


 本来ならばある希望が、消えたのだから。


 だが、まだである。


 まだ希望はある。


「……別の場所の、避難所を目指しましょう」


 男の軍人がそう言った。 


「しかし……あそこは人が溢れかえってるんですよ?」


「しかし、ここで動かないよりはマシです」


「……しかし……!」


 女性軍人は考えた。


 動くリスクはある。


 敵の遊撃隊が襲ってくる可能性がある。


 しかし、動かないよりはマシだ。


 動かなければ、物資が消え、どの道助からないだろう。


 少女の泣き声が脳裏によぎる。 


「俺達が守らないと駄目なんだ。そう言ったじゃないですか」


「……そうですね」


 女性軍人は決心した。


 死ぬ気で彼等を守る。と




「ルートはどうですか?」


 女性軍人が、トラックを運転していた軍人達に尋ねる。


「恐らく、ルート的に、今日から3日間は掛かります」


 地図を持っている助手席にいた男が答える。


「3日間……」



「普通の開けたルートでは危険ですし。遊撃隊や、待ち伏せがある可能性があります」


「……やはり」


「ジャミングによって、通信網が潰され、何処に敵がいるか、何処に味方がいるか分かりませんし」


「……隊長、ジャミングされる前に、味方の隊の場所は把握していますよね?」


 運転手が、煙草を吹かしながら聞く。


「そうですね」


「ならば、味方の隊と合流するのが良いのではないですか……?」


「いや、恐らくもう攻撃されてる可能性が高いです」


「ならば……何故我々は攻撃されないのです……?」


「私達が生きてるのは、恐らく救助部隊だからだと思います」


「武装部隊より脅威が少ないからですか……」


「そうです。恐らく、今は武装部隊同士が戦闘中だと思います。そちらに武力が集中している筈です」


「……」


「リスクが無い訳では無いです。敵遊撃隊はいる可能性は高いですし、合わなかったのはタイミングが良かっただけでしょう」


「……取り敢えず、ルートをもう一度考え直す必要がありますね」


「えぇ……では、お願いします」


 彼女は敬礼をした。


「「了解」」


 彼等も敬礼をした。


 ――――――――――30分後――――――――――――――――



 「皆さん!!」


 女性軍人の声が響き渡る。


 皆、女性軍人を見る。


 エーフィー達も見る。


 絶望した目。


 諦めた目。


 壊れかけの目。


 泣いた目。


 多種多様な、暗い目。


 それは、女性軍人に負の感情を与えた。


 しかし、それには怯まない。


 彼等は軍人なのだ。


 それに怯えては、死の恐怖とは闘えない。


「今から、別の避難所に行きます!集合お願いします!」

 

 皆、少しどよめく。


 移動なんて出来るのか?


 また無かったらどうする?


 襲われるかも……。


 その様な考えが脳裏に浮かぶからである。


 「皆さんを我々は守ると、誓いました!!だから、どうか我々の手で守らせて下さい!!」


「!」


 その言葉に皆は、気づいた。


 どうか守ってくれと。


 そう言ったのは我々だと。


 彼等は、まだ折れていないのだと。


「分かりました」


「お願い……します」


「頼りにしてます」


「守って……ください」


 一部の人は涙を流す。


 壊れたからでは無い。


 悔しさが拭いきれない人もいただろう。


 しかし、その理由のみでは無い。


 希望はまだあったから。


 それを、思い出したのだ。


 「……ありがとう……」


 女性軍人は、そう呟いたが、誰にも聞こえなかった。


 「……では、皆さんトラックに乗って下さい」


 ――――――――――――――――――――――――――――――


 トラック内。


 あの絶望から2時間程。


 真っ昼間である。


 が、皆は寝たように動かない。


 軍人達は外を見ながら、警戒を怠らない。


 ただその日は、ひたすらにその様な状態が続いた。


――――――――――――1日目――――――――――――――――


目的地までかなり近づいてきた。


スムーズに事は運び、道のりはかなり進んだ。


今の所、何も問題は無い。


――――――――――――2日目――――――――――――――――


トラックは、爆撃の被害が少ないエリアに入った。


 建物は乱立し、遮蔽となる場所が多かった。


 軍人達は一層警戒を強めた。


 

「ねぇ、ママ……?」


「なぁに?シルク?」


「お腹減った……」


「……ごめんねシルク、あとちょっとだからね」


「分かった……」


「…………」


「…………」


 こんな会話でも、この極限状態でするには、限界であった。


 しかし、その会話は、少しの希望である。


 あと少しだから。


 これは、このトラック内全員への勇気を与える言葉でもある。


 例え、自分に向けられていなくとも。


 


 


 その時、運転席から


「ッ!グレネードぉぉ!!」


「っ!」


 叫び声が上がった後


 車がバックする。


 乗員が前に跳ねる。


 瞬間。


 ―ドォォォン―


 爆発音。


 同時に、運転席のガラスにヒビが入る。


 


 市民は皆、頭を下げ、震えていた。


 どうやら、グレネードは目標から、少しズレたようだった。


「み、皆さん、だ、大丈夫ですか?」


「……何が起こったんですか……!」


 一人の市民が問う。


「襲撃です……!皆さん、ここで」


 ―カンッ カンッ カンッ―


 トラックに、響く、銃弾が弾かれる音。


「!」


 軍人が見渡す。


 頭を上げている市民がいる。


「皆さん!頭を下げて!!」


「窓から撃てぇ!!」


 軍人が辺りを見渡す。


 敵が、いた。


 建物の中に。

 


 始まった。


 銃撃戦が。


 トラックの小窓を開け、撃つ。


 運転席からも、銃声が響く。


「相手の数は?!」


「5……8人……!」


「8人……」


「やはり、遊撃隊だなっ!」


 本隊ではなく、遊撃隊。


 ならば、助かる可能性はあるにはある。


「左に2人ぃっ!」


「撃てぇっ!」


 火花が散る。


 音が割れる。


 ライフルの撃ち合い。


 しかし、射線的には、こちらの方が有利である。


 「ぐぁッ」


 男の声。しかし、小さい。


 壁越しに聞こえた。


 どうやら、敵を一人倒した様だ。


 そして、もう一人も。


「まだ右にいるぞぉっ!」


「3人だ!撃てぇ!撃てぇ!」


 そして……段々と静かになる。


 銃声が止む。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 軍人達は息が上がっている。


「大丈夫ですか……?」


「えぇ……」


 市民は無事である。


「シードルさん達は?」


 シードルとは、運転手の事である。


「俺らは大丈夫です、隊長……」


 そう言いながら、運転席の小窓を開けた。


「良かった……」


「しかし……タイヤが……」


「え?」


「爆発でタイヤがやられました……」


「……やはり」


 しかし、おかしい。


 何故タイヤを先に潰さなかったのか。


 その方が、倒しやすかっただろうに。


「でも、何故、最初にタイヤを潰されなかったのでしょうか……」


「気になりますが……一旦予備のタイヤ付けるので、見張りお願いします……」


 助手席の男が答える。


「……分かりました」


 戦闘は終わった。が。


 不安が強まる。


 市民の不安が強まる。


「は、早く動きましょうよ!」


 一人の市民が、叫んだ。


「……」


 女性軍人は黙った。


「また来るかもしれないですから!」


 市民が叫ぶ。


 そう、来るかもしれないのである。


 しかし、トラックは頑丈だ。


 ある程度の銃弾ならば耐えれる。


「…………少し考えさせて下さい」


「……」


 皆、黙った。


 車内に緊張感が溢れる。


「皆さん、着いて来て下さい!そして、少し広がって!」


 女性軍人が市民を引き連れて、トラックから出る。


 そして、次々に市民が降りる。

 


 男が外に出る。


 一度後ろ側に周り、市民の入っている側の扉を開ける。


 中に入り込んで、タイヤを持ち去る。


 扉を閉める。


 そして、タイヤを取り外そうとした瞬間であった。


 運転手の目の前に、何かが放り込まれた。


 それを、瞬時に何であるか悟った。


「ッグレネードですッ!」


「またかッ!」


 今度は、確実に被害が出る場所である。


 バックも出来ない。


 相手は、コレを狙ったのだ。


 捨て身で特攻をさせる。


 相手は油断し、消耗する。


 タイヤは潰させ、後は自分達が処理をする。


 それを狙ったのだ。


「逃げ―」


 ―ドォォォォォン―


 潰れた街に、爆発音が響く。


 トラックは燃えている。


 しかし、逃げた者。


 装備を着ていた軍人達は助かった。


 しかし、一部の者は助からず、死んだ。


 焼けて、焦げて、吹き飛んで死んだ。


 


 そして少女の意識は、一度途絶えた。





 


「う、うぅん…………」


「……ク?……ルク?」


 ぼやけた視界。


 そこに見える、何か。


 金の髪の、誰か。

 

 声が聞こえた。


 懐かしい声。


 けど、最近聞いたような声。


「シ……ルク……?」


 ぼんやりと聞こえたそれは、母親の声であった。


 視界も晴れ、母親の姿がクッキリと見える。


「ママ……?」


 少女は力無く声を上げる。


「シ……ルク……良か……った……」


 声を震わせ、母親はエーフィーを抱きしめた。


「ママ……」


「……シ……ルク……」


「ママ!」


 シルクは、母親を抱き返す


 ―ピチャ―


「……え?」


 温かい。何かが手に付く。


 血。


 本能的に理解した。


 よく見ると、母親の口からは、血が垂れ、目は、光を失いつつある。 


「……逃……げて」


「ママ……?」


「ご……めんなさ……い」


 それを皮切りに、抱かれている圧力は、無くなった。


「え?ママ……?」


 応答は無い。


「ママ?」


 応答は無い。


「ママ?!」


 応答は無い。


「ママぁ……?!」


 応答は無い。


「ママぁ……」


「…………げて……」


 小さく、本当に小さく、母親が願った言葉であった。


「ママ!」


 少女は、母親が反応した事が、嬉しかった。


 が。


 応答は無い。


「ママ?」


 応答は無い。


 その瞬間、燃えた。


 母親の体が。


 ガソリンが引火したのだ。


 それが、母親に移った。


「っ!!」


 シルクは咄嗟に離れる。


「……あ、あぁ……」


 後ろに下がる。下がる。


 涙が溢れる。

 煙で。

 思い出も溢れる。


 吐き気がする。

 臭いで。

 想いで。


 「ハァッ……!ハァッ……!ハァッ……!」


 呼吸が上手く出来ない。


 心臓が早くなる。


 焦る。


 焦る。


 何か、何か無いか?


 火を消せる物は?


 水は?


 水が無い。


 そんな物は無い。


 見渡せど無い。


 ……あぁ、もうダメだ。


 無理だ。


 母は、火で包まれた。


 


 ……あれ。


 目の前で……何が燃えている?


 アレは……何が。


 母親か?


 いや、違う。


 違う違う違うッ違うッ!違うッ!!違うッ!!!


 あれは、母親では無い。


 絶対に違う。

 

 じゃあ、あれは、誰だ?


 誰だっけ……?


 あぁ、もう。いぃや


 燃えたらいぃや。


 もう……どうでも…………


「異端者だ!」


「殺せ!」


「死ね!異端者共!」


 声がする。


 なんだろう。


 トラックの軍人では無い。


 こちらに、銃を向ける。


 敵。


 敵だ。


 あぁ、そうか、あの目だ。


 あの目が、憎かったんだ。


 怖かったんだ。


 そして、一人が怖かったんだ。


 もう……嫌だ。


 ―パララララララッ―


 銃声。


 次の瞬間、敵の三人中一人が、倒れる。


 そして、もう一人、もう一人と。


 辛うじて、それは見えた。


 しかし。 


 少女の、意識は途絶えた。


 ショックで。


 ストレスで。


 衝撃の蓄積で。


 助かった緩みで。


 膝から、崩れ落ちる形で。


 倒れる。


 





  


「おいっ、嬢ちゃん大丈夫かっ!!」


 炎の中。


 トラック内唯一の子供見つけ出した男性軍人。


 その名を、キッシュ·ジールと言う。

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