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第二話 出会い

廃れた街。


いや、崩れた街と言った方が正しいだろう。


空気は生暖かく、腐臭も混ざっている。


風が吹けば、コンクリートの砂埃が舞い、建物は崩れ放題、瓦礫は山積みであった。



其処に通りを歩く、一人の少女が居た。



その少女は、その白髪が砂や泥で汚れ、茶色を帯びていた。



体は、泥で汚れている上、傷や痣だらけであり、青色の目は死んでいる。

 

そして、頭を隠すようにボロ布を被り、上下のボロ服を羽織るだけであった。




今の彼女に名前は無く、ただ、歩いていた。目的も無く。

 


ただ、生きる為。

 

 

普通の街ならば、何かしらの注意は引くはずである。

 

しかし、そんな光景は、今やこの街では当たり前である。珍しいと思う方が珍しい程に。

 


此処は、スラム街よりも下。終焉の街。

 


ヴァロン国、スティルナート。

 


元々は、色々な国から人が来る、栄えた国であった。


故に、色々な髪色、肌色、眼の色、身長、体格の人が多く、多様性の国と言われた。


しかし、多様性故の内戦を境に、それが崩れ、廃れた。


今は、世界最低の国の一つになる。


そして、その内戦の被害者が、少女である。


少女は生まれた直後は、幸せであった。


が、今は途方に暮れている。


戦争で親は巻き込まれ、死んだ。


5歳には、こうして歩いていた。


今の齢さえ、覚えていない。


しかし、彼女にはその記憶がほぼ無い。


歩き方と、拙い言葉のみ覚えていた。


―ぐぅー……。―


少女の腹の虫が鳴る。


食べ物を探すが、無い。


腹が減ればゴミから漁っていた。

 

しかし、この街では、生ゴミでさえ争奪戦が起きる。


この前は、猫と。

その前は、犬と。

そのまた前は、鼠と。

そのまたまた前は、人間と。


そして、ゴミを求め、人間と争う機会が増えてきたのである。


人間との勝負となると、勝つ術など持ち合わせていなかった。


ただ、殴られ、蹴られ、引っ掻かれ、負けた。

その度に腹を空かしながら、歩いていた。


―もう、無理だ―


少女は、本能的にそう感じた。



その時であった。



目の前が真っ暗になった。



少女はその感覚が分からなかったが、自分の着ている物の感触と似ている。

 

それだけは分かった。

 


何かを頭に被せられた。

 


それだけは分かった。

 


腹と背に、何かが巻きつく。太い何か。

 


(少女は、それが何か分からなかったが、それは男の腕である)

 


直後、足が浮く。



本来ならば、抵抗するだろう。

 


しかし彼女は、これは楽だ。と思った。

 


布ごと、頭を抑えられた。

 


体が上下に揺られ始める。



その内に、彼女は瞼が重くなるのを感じた。



今までの疲れが、どっと出たのだ。


 

その日、少女は誘拐された。


―――――――――――――――――――――――――――――――


少女が起きると、縦と横に交差する、鉄の棒が見えた。



(其処は、いわゆる牢屋であるか、彼女には分からないものであった)


「なんで、あんな弱った奴を連れてきた?!」


「す、すみません!」


牢屋の外から、会話が聞こえる。


「ハァー……。まぁ、死んだら、死んだでそこらに捨てても、この街じゃ違和感ねぇよ」


「まぁ、そうですね……」


「……一応飯はやってやれ。初仕事の成果が死んだら嫌だろ?」


「そうですね…飯やっときます」


「おう」



 少女はそんな会話を聴きつつ、立ち上がろうとした。


しかし、体に力が入らない。


動かない。いや、動けない。


体が重い。


少女の体は、とうに限界を越えていたのだ。


―トッ トッ トッ トッ―


足音が近づいてくる。


石の建物を歩く音。


僅かに、砂がジャリジャリと鳴っている。



 その足音は、目の前で止まった。


 


……すると、僅かに、匂いがした。



その匂いのする方向に目をやると、


さっきの声の主であろう、坊主頭の、筋肉質な男が立っていた。


片手に何か持っている。


匂いは、そこからする。


―ガシャン―

 

牢屋の扉が開く。


―コトッ―


その匂いの元は、少女の檻の中に置かれた。


木の皿に、白いスープ。それに、少しカビの生えたパン。


ゴミを漁っていた少女からすれば、それはご馳走であった。


しかし、少女には動く力は無い。

 

「……おい、食え」


 男が言葉を発する。



少女は、自分に向けたものだと理解した。


しかし、体は動かない。


「ぁ……」


 呂律も回らない。


「…………なんだ?動けねぇのか?ったく……」


  彼は少女の弱々しい応答に察し、彼女の口に食事を運ぶ。


「ほれ、口開けろ」


「……ぁ」


 彼女は力無く、食事を口に運ぶ。


 その際、男の手に、少女の息が当たる。


「……ん?お前……、息が熱いな?風邪か……」


 その男は、食事をそのまま、牢屋の扉を閉め、何処かに行ってしまった。


 少女は、なんとか食事にかぶり付いた。


 がつ がつ がつ がつ……


 その食べ方は、礼儀は愚か、野生動物の様な食べ方であった。


 その直後、男と、もう1人の男が来た。


 その男は、髪はパーマを帯び、クルクルと巻かれていた。


 顔はやつれ、酒の匂いを纏っていた。


 その男も、とても筋肉質な男であった。


 少女をじっと見つめる。


「コイツ、風邪に罹ってやがったか……」


「……はい、すいません。風邪引いてる子を持ってきちまって……」


 さっきの坊主頭が、頭を下げる。


「まぁ、俺等の仕事にゃ良くある事だ、気にすんな」


 坊主頭の男は、ちらと少女に視線を送った。

 


「その……直してやらんのです?」


 

「……薬は買えねぇ。飯代でかなり持ってかれるんだ。自分で治して貰うしかねぇよ」


「……そうですね」

 

「おう。……それとな、お前は人身売買にゃ向いてねぇ」


「え?」


「売り物としての心配ってか、子供として心配してるんだよ、お前。しかも、全員にそんな感じじゃねえかよ」


「……」


「悪い事は言わねぇ。お前は頑張って働いてよ、孤児院でも建てたらどうだ?」


「俺が孤児院ですか?そんなんもっと向いてないすよ。それに、この街じゃ食い扶持なんて、裏仕事しか無いですし」


「……まぁな。しかし、合うと思うぜ?ま、働いてくれるなら、別に辞めろとは言わねえが」

  

そんな会話の最中、少女はただ食事にかぶり付いていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――


あれから、4日程経った。


この牢屋には、太陽の光が全く通っていない。


なので、少女達には分からないが、確かに4日経った。


 あるのは、ろうそくと、松明の光だけだ。


 しかし、外と違って、暑くなく、食事も出る。


 少女は幸せであった。


「よぉ、ガキンチョ、治ったか?」


 坊主頭の男である。


「なおった」


 少々は、食事が摂れていたお陰で、回復していた。

 

「……そうか。まぁ、元気そうではあるな」


「うん」


「……最近、客足が悪いって、ヘジラーカ先輩が愚痴愚痴言うんだよ」


 ヘジラーカとは、パーマの男の事である。


「……」


「……」


 互いに無反応。


 坊主頭は少女の反応を待ち、少女はどう答えれば良いか分からなかった。


「まぁ、ガキンチョに愚痴を聞かせるってのは変だな」


「うん」 

 

「ハッ、返事は出来るんだよな、お前は」


 ―トッ トッ トッ トッ―


  ―コツ コツ コツ―


 二つの足音が近づいてくる。


「あ、ヘジラーカ先輩……と、その人はお客さん……?」


 「おぅ、お客さんだ。今は案内してるとこだ。折角だ、お前、見学してみるか?」


「え?あ、はい……」


「店長さん、案内よろしくお願いします」


 その男は、タルテよりも大きく、180cmはあるだろう。


 黒いローブと、フードを被っていた。


 しかし、筋肉質という訳でもなく、何処にでもいるおじさんといった所だ。


 義手である事以外は。


「分かりました。さて、どんなのをご所望で?」


「一旦、見てみます」


 その男は、チラと少女を見る。


「じゃあ、これで」


 その男は、少女を指差し、そう言った。


「え?そんな早く決めちゃうんですか?」


 と、坊主頭が声を上げる。


「え?えぇ」


「えーっと……分かりました。この子ですね」


「お願いします」


 そう言うと、パーマの男、ヘジラーカが牢屋の扉を開ける。


「ほれ、出ろ」


 少女は、状況を理解していなかった。


 しかし、出ろ。という言葉には否定的な感情が生まれた。


 少女は、ここから離れたく無かったのだ。


 何故か。


 外が怖かったのだ。


 しかし、理由はあまり覚えていない。


 「……いや」


 少女は呟いた。


 「はぁ?拒否権なんざねぇよ……」


 そう言うと、ヘジラーカは少女の痩せ細った腕を掴み、牢屋から出すべく、引っ張った。


 勿論、傷は付けない様に。


「……いや!」


 少女は、手を振り払おうと、腕を振った。


「な?!おいテメェ?!抵抗するんじゃねぇ……!」


 ヘジラーカは、なるべく傷をつけまいと、少女を牢屋から出そうとした。


 その悪戦苦闘をする姿を見て、買い手の男は、他を選ぼうと思った。


 考え直そうと。


「……あ、えっと、ダメそうなら他のでも……」


「じゃあ、他のにします?」


「えぇ」


と、ヘジラーカが牢屋の扉を閉めようとした瞬間


「……勿体ねぇぞ」


 と、坊主頭が言った。


「何言ってんだお前?」


 ヘジラーカが、腑抜けた声で言った。予想外と言った感じだ。


「……?」


 少女は、何故そう言われたか、理解が及ばなかった。


 「この人に着いてけば、此処より全然いい暮らしが出来るぞ。ガキンチョ」


「はぁ?何を勝手な……」


 買い手の男が声を上げた。しかし、一旦考え直すように止めた。


 そして、続ける。


「……あぁー、まぁ、此処よりはいい暮らし出来るとは思いますがね……でもねぇ……」


 と呟いた。


 抵抗してるくらいならば、他のがやりやすい。そう考えたのだ。


「ま、此処で買うくらいですし、何に使うかは聞きませんがね。……聞きたくも無いですし」


 と、坊主頭。


「まぁ、そうしてくれると助かります」


 

「……ま、とにかく、この人について行ったらどうだ?ガキンチョ」


 少女は迷った。


 此処の暮らしは、少女からすればいい暮らしだ。


 そして、何より、少女は坊主頭の男に懐いていた。


 この男に付いていくか?


 この、見たことも無い男に?いや、有り得ない。


「あのな、お前。客の言うことが優先なんだよ。タルテ」


 坊主男の名は、タルテと言うらしい。


「……すみません」


 坊主頭は、不服そうに謝る。


「……やっぱり、お前は人身売買向いてねぇぞ」



「…………」



 少女は、懐いている人が怒られている。という事が気に食わなかった。


 しかし、原因が自分だとは分かった。


 故に、こう答えた。


「やっぱりついてく」


「「「え?」」」


 タルテと、ヘジラーカ、買い手の男は同時に驚く。


「どっ、どっちなんだ?」


 タルテは、その少女に聞く。


「……ついてく」


 少女は、その場の空気感も相まってそう答えた。


 しかし、迷いはある。


 スッキリしない。


「……そうか」


 タルテはうつむき、そう答えた。


「なぁ」


「……俺ですか?」


 買い手の男は、タルテを見ながら、問う。


「あんた、この子を買ったら、最初に何をする?」


「おいおい、タルテ……」


 ヘジラーカが呆れた声で言う。


「……そうですね、俺ならば…………名前を付けますね」


 ヘジラーカの呆れに気づいていないのか、買い手の男は、そう答えた。

 


「どんな名前だ?」


「え?!……え〜っと」


 買い手の男はしばらく黙っていた。


 考えてはいたが、言ってよいのか?


 そう迷ったような間であった。


「……エーフィー、ですかね」


「そうか。だってよ、エーフィー」


 タルテは、エーフィーと名付けられた少女を見る。


「お、おい、タルテ……」


 ヘジラーカは戸惑う。


 何故か買い手は乗ってくれている。


 故に止めるか迷ったのだ。


 


 少女は、自身に何が起きているか、理解した。


 エーフィー……それが名前。


 それは理解した。


 そして、タルテがこちらを見た事の意味に、気づいた。


 タルテが、自分をエーフィーと呼んだ。


 つまり、「お前はこの人に付いていけ。此処に留まるな」と、そう言ってる様に感じた。


「わかった。ついてく」


 彼女は、決めたのだ。


 タルテが言うのであれば、と。


 その目線に、彼女は「押された」のだ。

 


「よろしくな、エーフィー」



 これが二人の、何気ない出会いであった。



―――――――――――――――――――――――――――――――


「んじゃ、元気でな」


「うん」


 タルテはエーフィーの返事を聞くなり、表情を緩めた。


 

「あんた、エーフィーをしっかり頼むな」


「分かりました」


 タルテの言葉に、買い手の男が応じる。


 端から見れば、孤児院等で、引き取ってくれる人が見つかった様に聞こえる会話である。


 が。


これは、人身売買施設の入口で起こっている会話である。


 やはり、タルテは人身売買に向いていないのである。


「では、帰ります」


 買い手の男はそう言うと、エーフィーの手を繋ぎ、街中へと消えていった。


「……元気でな。ガキンチョ」


 タルテと、少女の別れであった。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「で?話ってなんだ?タルテ」


 エーフィーが売れた後。


 机を挟み、タルテとヘジラーカが、話していた。


 タルテが話したいとして、ヘジラーカを呼んだのである。


「俺、やっぱり辞めたいです……」


 タルテは、ある程度この職場は長い。


 幾度も、目の前で売買を見てきた。


 しかし、いざ自分で攫って来た子が、売られた。となると罪悪感が彼を襲ったのだ。


 今更。

 そう感じていた。


 しかし、今更でも。


 今、変わらないと、一生このまま。


 タルテは、それに怯えた。


 せめて、もうしない。したくない。


 罪滅ぼしをしたい。


 今更だが、そう感じたのだ。


 故に、退職したいと、申し出たのである。


 ヘジラーカは、その言葉を聞くなり、予想してたと言わんばかり、鼻で溜め息をついた。


「やっぱりな。で?お前はこれからどうするんだ?」


「ツテはあります」


 タルテは、ヘジラーカをしっかりと見つめ答えた。


「そうか……」 


 ヘジラーカは、少し間を開けた。


「じゃあな」


「はい、ありがとうございましたっ」


「おぅ」


 タルテは、人身売買から足を洗った。


 ――――――――――――――――――――――――――――――


「っても、どうするかな……」


 ―ツテはある―

 ↑は嘘である。ツテは無い。


 タルテは、ハァ……と溜め息をつく。


 この街には、まともな労働など無い。


 自身に残ったのは、先程辞めた人身売買で稼いだ物資がある。


 それらはナップサックに詰められていた。


 一応少しの金はあるが、この街では闇市が開かれない。つまり、金は役には立たない。


 物資があれば、生き長らえる事が出来る。


 しかし、この物資はヘジラーカは何処から出したのか……?


 そんな事は良い。


 


 何か、償いたい。


 



 物資を渡すのは、少し違う。


 それでは余り意味が無いだろう。


 行動で示したい。


 行動だけで。


 物資も多い訳では無いし。


 死んだらそれまで。


 多分、物資が無くなれば、何もしなくなる。


 それはタルテが一番分かってる。

 

 此処は内戦後の被害が、まだまだ多く残っている。


 インフラの死に加え、建物の瓦礫は大量に残っている。


 他国からの人は滅多に来ない。


 ボランティアが密入国する事はあった。


 飛行機も出ておらず、入国許可も出ていないので、必然的に密入国になる。


 が、とても力になる様な状態では無かった。


 ……ならば、せめて自分の出来る事を。


 そう感じた。


 しかし、こんな何も無いのに、何が出来る?


「あぁー……何も考えなてなかったな……」


 そんな事を考えながら歩いていると、タルテの目の前に、瓦礫の破片があった。


「邪魔だなぁ……」


 小石程度の瓦礫を道の端に蹴る。


 その時、思い浮かんだ。


 閃いた。


 償う一歩目。


「……あ、これだ!」


 その日からタルテは、道路から瓦礫をどける作業を始めた。


 汗を流し、ただひたすらに。


 物資はあるので、それを少しずつ食す。


 そんな毎日。


 自己満足で良い。


 偽善で良い。


 畏怖されても良い。


 いや、畏怖は嫌だな。


 ―やらぬ善より、やる偽善―


 誰が言ったかは知らないが、その言葉が、タルテの支えになっているのは確かであった。

 

 最初、街の皆は気にしていなかった。


 気にしても、妙な事をする者だ。


 と、皆生きるのに必死であった。


 そんな事を思われながらも、タルテは瓦礫を退けていった。


 道が、少し、ほんの少し開いていく。


 一ヶ月もすれば、目に見える程度には、瓦礫が退けられていた。


 段々と意図が伝わる。


 波紋する。


 ほんの少しだけ。


 しかし、実行に移す者はいなかった。


 ただ、タルテ一人が退かしていた。


 しかし、ある日。


「……あんた、瓦礫を退かしてるのか」


「ん?」


 とある男が、タルテに話かけた。


 その男は、ボロい服に、顔の半分は包帯で巻かれ、首には3つのドックタグを付けていた。


 鍛え抜かれた肉体であった。


 しかし、やつれた顔だ。


 目も、死にかけている。


「まぁ、そうだな。瓦礫を退かしてる」


「なんでだ?」


「なんでって……」


 償い。


 償いなのだ。


 エゴでしか無い。


 だが、それ以外の理由では無い。


「……まぁ、償いだな」


「償いか……」


 その男は、微笑んだ。


「俺も手伝おう。償いたいからな」


 そう言い、元軍人の男は、瓦礫をどかし始めた。


「お前も何かやらかしたのか」


「……まぁな」


 元軍人のドックタグが、ジャラと音を立てた。


「……そうか。まぁ、聞かないでおくぞ。俺も聞いてほしくないからな」


 元軍人は、タルテのナップサックを見る。


「そのカバンの中身とかな」

 

「……まぁな。察しが良いこった」


「……あんた、名前はなんだ?」


「俺はタルテだ」


「フルネームは?」


「タルテ·スカールだ」


「俺は、キッシュ·ジールだ」


「よろしくな、キッシュ」


「よろしく、タルテ」


 2人は、瓦礫を黙々と片付け始めた。


 そして。


 その波紋は広がる……


 座り込む中から一人が立ち上がる。


 その一人は無言で参加し、瓦礫をどかし始める。


 3人で黙々と片付け始める。


 その波は広がり


 一人。


 また一人と増えて行く。


 次第に会話は少しずつ増える。


 そして。 


 その波は段々と拡がり、街全体を包んだ。


 この街に足りなかったのは、先導者である。


 始まりが、足りなかったのである。


 誰も行動しない。


 だから自分も動かない。


 そう"なった"人が多かった。


 しかし、タルテの行動から、道路のインフラは、少しずつ回復していったのだ。


 これがスティールナートの伝統行事、[石どかし]になるのは、また先の話である。


 そして、その波は広がる。


 この国へ。

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