15話 燃えるカラス
テロが起こり、空港が襲撃された。
「こちらホーク・アイ。正面部隊、今の状況は?オーバー」
「こっちは膠着状態だ。今のところは何も起きてない。オーバー」
「了解」
空港から離れたホテル。
その部屋のベランダから、空港の状況を覗いていた。
風が強いが、問題はない。
それよりも、表として来ているので、こういった商業施設を、狙撃ポイントとして使えるのはありがたい。
狙撃銃は、SPRA4【特殊仕様改良型4番】スヴァローグ。
俺が表でよく使う銃だ。
射撃の威力は高く、強い。だが、音も馬鹿みたいにデカイ。金属音というのか、金属弾がハンマーで撃たれた様な音なのだ。
ガキィン!みたいな感じだ。
普段の使用している銃とはまた違う。バレても良い。
あくまで、傭兵側。暗殺で使うわけじゃない。その場には本来いても良い狙撃手だから、バレても良い。
いつもより楽な仕事だ。
―「ごしゅじん、隣の部屋?」―
―「あぁ。隣にいるぞ。だが来ちゃ駄目だ。相方として来てる訳だしな」―
エーフィーには、Guardianのパワードスーツを着せていた。
かなり目立つ。
というか、そもそもパワードスーツはかなり目立つ。
しかも、今回は大人が着るサイズ。つまり、2m弱は越える大きさだ。
サイズが合わず、動きづらそうにしていたので、動きの少ない役割とした。
仮に近接戦となれば、そこらの軍人なら俺でも倒せるだろうし、大丈夫な筈だ。……多分。
Guardianパワードスーツの見た目は、材質はマット加工の金属プレートで、外見は、騎士のような見た目だ。
ヘルムはバイザーがついており、更にその下に強化ガラスという徹底ぷりだ。
防御力に特化している。
俺の今の狙撃銃でも、遠距離ならば一発では貫通しきれるか分からない。
今回はその上で、ホテルの壁の塗装、暖色の肌色に合わせたフード付きのクロークと、一応保護色でバレにくくしている。
マット加工もその為だ。
俺のボディーガード的な存在であり、加えてスポッターという設定にした。
まぁ、本来、俺はスポッター使わないんだがな……。
あと、エーフィーの経歴としては囮として買う以前に、既にGuardianに登録はしておいたので、……多分怪しまれないと思う。
顔写真はゴツいおっさんだ。声も変声器で誤魔化せる。ヘルメット越しだから、より誤魔化し易い。
そもそも会話する機会も少ないだろうしな。
え?何故オーダーメイドのパワードスーツを使わないのか?
オーダーメイドのパワードスーツを着せてしまうと、話がややこしくなるからだ。
本来、個人で買えるような代物ではないからな。
そこは既に、囮を雇うとした段階で、Markに説明しておいたので、Guardianのパワードスーツを借りた。
Guardianも大きな傭兵企業だ。表だけでも、かなりの資産を持っているからな。
因みに、壊滅者もパワードスーツを着込んでいる。
あっちは普通に鎧としてはむき出しだ。
ま、前線だし、クロークとかは邪魔になるだろうしな。
俺は、普通のGuardianスナイパーの格好だ。騎士っぽいのは変わらない。上で保護色のクローク。
パワードスーツの、小さい版みたいに思ってくれて良い。
そんなこんな考えているうちに、拡声器を持った男が前に出てきた。
遠いので何を言ってるのかは聞こえない。
まぁ、宣戦布告の件だろう。
丁度、壊滅者から通信が入った。
―「テロリストが政府に宣戦布告。警戒されたし。オーバー」―
―「了解」―
さて、今回、俺達の任務は狙撃。
では、誰を狙撃するのか。
簡単だ。テロリスト達だ。
恐らく、30分後か?それくらいに撃ち合いが始まるだろう。
その際に、相手の戦力をこそぎ落とすのが、俺達の役割だ。
宣戦布告をした以上、撃ち殺しても構わない。と言われた。
どうせ、暫くは命令待ちだな。
そう思い、狙撃銃から手を離した瞬間
遠くで雷が鳴った。
雷か。
ふむ。スコールが来るな。狙撃の邪魔になる。
……嫌な風だ。
そろそろ、爆破屋の仕事が終わる頃だろう。
――――――テロ発生前 裏班 爆破屋――――――――
今回の私に下された命令。
それは、裏組織側の輸送車の一斉爆破。
中々に良い、爆破《画》になりそうです。
企業間での癒着による輸送を潰すのは、神威さんがやってくれますし。
3時間前に場所が知らされましたが……。
少し遅かったですね。Markにしては珍しい事ですね。……やはり予想していないルートを通る車もありましたし。
まぁ、そのルートに爆弾を仕掛けておけば良いでしょう。
今の手元には、遠隔操作型の爆弾がありますし。
何より、隣国との繋がるルートは大抵塞ぎましたし。
まぁ、相手も裏側の人間です。正直に正面から来る訳でないでしょうし。
ですが、クイルァは大陸の中心ですし、海に接するルートは無いのが幸いですね。
逆に時間が掛かるといえばそうなんですが……。
どうやって設置しているのか、は……企業秘密ですが、特別に教えてあげましょう。
小さい絵……と呼んでいます。
0.1センチの正方形の爆弾です。置く場所によって、保護色を変えています。
バレたことはありません。通り際に、スッと置いていきます。
その際に、同じ形状のカメラも置いていきます。
これで、爆破のタイミングも分かります。カメラが吹き飛ぶのは御愛嬌です。
勿論、少しずつ服装は変えています。
仮に今の顔がバレても、私自身の本性がバレることはありませんし。
因みに、名前の由来は私の好きな作家、ティム・クラスの、作品名デランド・ラックという、小さい絵が由来です。あれは良いものです。小さいのにも関わらず、多くの意図が込められています。あれは……また何処かのティムの個展で見たいものです。
さて、あと一箇所ですね。
Markの手配した車に乗り、クラシック音楽を掛けます。
国境の付近。曇った灰色の空と開けた景色が、クラシック音楽とよく合います。
思わず、鼻唄が漏れてしまいますね。
さて、あれから50分後、密輸車の通るルートに着きました。
小さい絵を置いて……。これで全てのルートは塞ぎましたね。
後は車に戻り、街中の駐車場にでも停めておきましょうか。
バレようが逃げれますし。
爆破のタイミングは、付近に小型カメラを配置しましたので、それで見極めるとしましょうか。
時間とタイミング、白の軽バン。という情報を元に爆破です。
正直、民間人を巻き込みかねるのが、非常に残念な事なのですが、必要な犠牲なのです。
さて、あとは2時間程待つだけですね。
おっと、丁度テロが始まる頃合いでしょうかね。
……じっくりと待つとしましょうか。
―コンコン―
……おや。車の窓が叩かれましたね。
坊主頭に、サングラス。首元には入れ墨がちらつきますね。
知らぬ顔ですか。そこらのチンピラの可能性もありますが……。
「おい、開けろ!」
……開ける意義はありませんね。開けずに対応しましょうか
「なんでしょうか」
「だから、開けろってんだよ」
「なぜですか?」
「良いから開けろ!」
……この状況、泥啜りさんの言っていた刺客でしょうか。
しかし、一体いつから付けられていたのでしょうか。
さて、肩の傾き具合としては、手は、おおよそ腰あたりに向いているのでしょうか?
連想されるパターンは……開けた瞬間に銃を撃ち込まれるか、ナイフを突き刺される。
窓越しに撃ってこない以上、恐らく刃物。
……では、逃げるとしましょうか。
ギアを変え、アクセル、そしてブレーキ。
「な、おい!」
車の方向を急に変え、逃げるとしましょう。
「待ちやがれ!」
ふと見ると、バックミラーには、徐々に小さくなっていく男が見え、そして、見えなくなった。
逃げれましたか。さて、爆破の設置完了を報告しましょうか。
爆破屋は、ビルに囲まれた、小さい駐車場に車を停めた。
―「こちら爆破屋。設置完了しましたので、現場を離脱しますね」―
―「……――――…………―――――……」―(分かった。では、任務の継続を頼む)
―「了解しました」―
さて、あとは密輸車を待つだけ。本当は、爆破を見たかったんですがね……。
その後に、疑問が浮かんだ。何故、あの刺客は爆破の待機場所を知っていたのか。
いや、知っているも何も、私の作戦は、私の中での構想でしたし。話してもいませんので……。
作戦自体を知られていれば、何処で見張るかなど、容易といえば容易。
国境付近の道路を、見張ってしまえば良いわけですからね。そこから、車種が特定されているのでしょうから、片っ端からシラミ潰しする。
というところでしょうかね?
流石に監視のカメラまでは、知られていないとは思いますが。
内通者でしょうか。全くもって、面倒ですね。
車の椅子を倒し、寄り掛かった。
その際に、爆破屋は気付いた。
先程までに、目の前にいなかった存在に。
「……おや」
顔を覆う程の大きいフード、黒いコートに、黒い手袋。大柄な体型。
それがボンネットに乗っていた。
「……降りて貰えますか?」
反応は無かった。
黒いコートは、片足を、頭よりも上にあげた。それはいわゆる、踵落としの構えであると、爆破屋は気付いた。
爆破屋は、直ぐ様に横に跳ねた。
直後、ガラスを破り、運転席に踵落としが炸裂した。
車のシートは避け、中身のスポンジが舞っていた。
爆破屋は、瞬時に車外に転げ出て、体勢を立て直した。
「……刺客ですか?」
黒いコートは、シートに突っ込んだ足を抜き、爆破屋の方を見た。
「……」
「まぁ、答えるつもりはありませんよね」
突如、黒いコートが2m程跳躍し、両脚を曲げた上で、爆破屋目掛けて飛んでくる。
刹那、爆破屋は後ろにステップし、それを躱す。
黒いコートは、両脚を弾くように伸ばし、着地した。
コンクリートが割れる音が響いた。
「……おや。踏んでしまいましたか?」
爆破屋が後ろに下がる際に、小さい絵を置いていた。それを、黒いコートが踏んだのだ。
「……!」
黒いコートが守りの体勢に入る前に、静かに破裂音が響いた。
黒いコートは炎に包まれ、燃えた。
「……良い画です」
炎に包まれた黒いコートが藻掻く様を見て、爆破屋は、口角が上がっていた。
しかし、炎に包まれたそれは、爆破屋目掛けて飛び掛ってきた。
「おや」
直ぐ様躱す。
黒いコートは燃えてはいたが、それは燃えるというよりは、火がくっついている、と言った方が正しいだろう。
しかし、爆発自体の威力は相殺しきれず、黒いコートは一部破けていた。
破けた部分からは、素肌が見えていた。
「耐火コートですか。対策は万全のようで」
その肌は、何事も無かったかのように、艶々と光っていた。
いくら小さい爆破とはいえ、火傷は付く。しかし、それが無い。つまりは、強化筋肉である。
「成る程、貴方でしたか」
「……」
「何故、指と敵対するのですか?」
「……」
「まぁ、答える気はありませんよね」
黒いコートが地面を蹴り、爆破屋に急接近し、顔面に向かい手を伸ばし、掴もうとした。
爆破屋は背中を反らし、脚をW字型に外側に広げ、地面に背中を付け、避けた。
近しいもので言うなれば、イナバウアーである。
黒コートは、蹴りの勢いが止めれず、爆破屋の上を通り掛けた。
その瞬間、爆破屋の目の前には無防備な腹が見えた。しかし、それに反撃出来る姿勢では無かった。
通り抜けた黒コートは、前転によって衝撃を相殺し、直ぐ様、爆破屋に体を向けた。
「……」
黒コートは、腕を曲げ、前腕部を向けた。ボクシングの構えである。
その構えを維持したまま、爆破屋に対して走り出す。
近接戦かつ、真っ向勝負では、確実に勝てると判断したのだ。
この判断は正解であり、近接格闘ともなれば、爆破屋に勝ち目は無い。
だが、あくまで勝ち目が無いだけである。
爆破屋はバックステップを繰り返し、逃げ続け、小さい絵を置いていく。
黒いコートは、それを飛び越えつつ、逃げる。
時たま追いつかれ、攻撃を仕掛けられる事もあったが、それらを全て避けた。
いつの間にか、2人は駐車場を1周し、中心に来ていた。
そこで、黒コートは気付いた。爆弾で囲まれた事に。
そして、爆弾の位置が見えぬ事に。
黒コートは、動きを止めた。
「おや、気づかれましたか?」
360度。全てが爆弾で囲まれている。しかも、それは見えぬ地雷。
爆破規模からして、1つ爆破したら、駐車場一面が爆破するだろう。
「……」
黒コートは動けなかった。
「……やはり、強化筋肉といえど、爆破にそう耐えれるものでは無いようですね」
「……」
「さて、私も出れないんじゃいないかと言いたげですね。私は、下描き《爆弾の設置場所》は覚えているんです。なんせ、意図して置いている訳ですからね。作品の形を想像は、既に形になっていますので……」
「……」
「おっと、芸術の話になると、つい話過ぎてしまいますね」
爆破屋は、黒いコートを見つつ、後ろ歩きで出口に向かった。
「……それでは、良い画に」
「……」
爆破屋が駐車場から出る。
去ろうとした瞬間。
駐車場で、轟音と共に爆破が起きた。
「おや。踏んでしまいましたか。残念です」
直後、爆破屋は、背後からの気配に勘づき、咄嗟に身を躱した。
直後、爆破屋の脇腹から、鮮血が飛び出た。
「……おや」
爆破屋の目の前には、ボロボロの黒いコートを羽織った男が居た。
駐車場からの炎に照らされ、顔が見えた。
その男は、目が赤く光り、肌は爆破で焼けていた。
爆破屋は、その男を静かに見つめ、それが誰であるか、分かった。分かってしまった。
「……やはり、あなたでしたか」
男は、ただ目を見据えて、爆破屋を見ていた。
「1番指、鴉……」
その言葉と共に、鴉は獲物に襲いかかった。




