13話 静寂と火種
あれから、何分経っただろうか。
10分?
いや、もっと経っているかもしれない。
ずっと妙な静けさだ。
瓦礫の下にいるのにも関わらず、声が聞こえる程度には。
何か。妙だ。
気絶している間に戦闘が終わった可能性も否めない。
正直、それが理想ではあるが……。
それとは別に、サイパンとはちょくちょくコミュニケーションを取り続けて、安否を確認している。
「…………ん…ね!」
「なんだって?!」
「中……々……来……せん……ね!」
「あぁ、そうだな!」
大声でのコミュニケーション。
そろそろ喉も限界が来そうだ。
少し苦しい。
空気が薄くなっているらしい。
「……れか……いるのか?」
声が聞こえた。
サイパンの声ではない。
少なくとも、私の隊の人間ではない。
まさか、救助隊が間に合ったのか?
いや、テロリストの方かもしれない……。
いや、此処は私が行こう。
私が先に行き、仮にテロリストだった場合、サイパンに逃げてもらえると良いが……出来るのか?
ええぃ。一か八かだ!
「おーい!ここだ!助けてくれ!」
「……どこだ!何処にいる?!」
「此処だ!瓦礫の下だ!」
「今助ける!」
辺りで足音がジャリジャリと響く。
人の足の下にいるというのは、どうも不思議な感覚だ。
目の前に明かりが、広がった。
パワードスーツを来ていた。
そのパワードスーツは、クイルァ製の軍部専用パワードスーツだった。
「居たぞ!此処の瓦礫を除けろ!」
助かった。
サイパンも助けなくては。
「もう一人、瓦礫の下に隊員がいます……。助けてやってください」
「分かった。何処らへんにいるか分かるか……?」
「サイパン!味方の救助だ!声を出して位置を知らせろ!」
「………です………!……けて……!」
「む、あちらか?ヨシ、お前らはあちらで捜索してやってくれ!」
「了解!」
救助隊はどうやら、というかやはり複数人いるらしい。
良かった。
援護は来てくれた。
―――――――――――5分後―――――――――――――――
「救助感謝します」
救助隊に、敬礼をした。
「ご無事で何より」
救助隊も、敬礼を返した。
私達はなんとか助かった。
だが、トランシーバーや、ライフル等の、アーマーの外にあった物は大抵壊れていた。
トランシーバーは使えなかった。サイパンも同じ様な状況だ。
だが、二人とも軽傷で済んだ。
アーマー様々である。
けれど、問題はそこじゃなかった。
正面はどうなった?
今の所、銃声が響いた様子も聞こえなかった。
まだ作戦の決行まで至っていないのか?
「現状の戦況はどうなっているのでしょうか?」
「我々は既に救助隊として動けているので、裏口側の制圧は完了したそうです」
「正面はどうなっているのですか?」
「……。人質を複数人取られまして……。そこからは膠着状態の様です」
その言葉は、任務の失敗を表していた。
時間を稼げなかった。
後悔。懺悔。自責。これらが押し寄せる。
だが、もう一つ焦燥という感情が大きかった。
正面の制圧。それは、任務の失敗と共に、最悪な事態を想定出来る事態だ。
それだけはないと、信じたかった。一刻も早く。
「……正面には私と同じ装備をした隊員がいるのですが……彼らはどうなりましたか?」
「報告によると……正面は激しい戦闘の跡があり……」
救助隊は一瞬言い淀み、言った。
「……人質以外は全員重症、または【死亡】しているとみられるそうです」
死亡。その言葉が、勝手に強調されて頭に響く。
「……そうですか」
足の力が抜けた感覚がした。
なんとか倒れそうになるのを、抑え、周りに悟られぬ様にした。
……また、同じ失敗か?
また、何も出来ずに仲間が、一般人が……巻き込まれて死ぬのか?
私の実力不足で……。
また……
また……!
「……我々は今から裏口での、負傷者を探します。お二人は……どうなされますか?」
救助隊の言葉で、なんとか我を留められた。
今の私に出来る事。
それは……
「……攻撃に参加しようと思います」
幸い、サイドアームのピストルは損傷が少なかった。
壊れていても、素手で行く覚悟もある。
「……分かりました。ご武運を」
救助隊が敬礼をした。
私達も、敬礼をし返す。
そこから、互いに同時に振り向き、各々のやるべき事を成し遂げに行った。
―――――――――――正面―――――――――――――――
正面は、警察との連携もあり、シールドを持った警官と、パワードスーツを来た軍人達が、取り囲んでいる形であった。
後方では、メディアが駆けつけ、アナウンサーがカメラに向かって喋っていた。
ガラス越しに見えるのは、鈍器やピストルを持ったテロリストに囲まれた、一般人。
どうやら、警備の銃を奪ったらしい。
ガラスや床には血が飛び散って、気泡を付けていた。
そこらには死体が広がっていた。
一般人含め、テロリストも。
その中に、私と同じ装備をしている者を見かけた。
直感で分かった。
分かりたく無かった。
死んでいる。
確実に。
首はあらぬ方向に曲がり、ヘルメットは吹っ飛んでいる。
片腕もあらぬ方向に……
途端、焼き焦げた臭いがした。
「うっ……」
吐き気が出そうになった。
人の焼ける臭いだった。
私は知っている。
この臭いを。
思い出させるな。
あれを……。
やめろ。
突如、頭に、あの戦争が思い浮かんだ。
焼けた、護衛中の市民。
死んだ戦友達。
死んだ目の、少女。
フラッシュバックした。
あの映像が。
息が、肩が上がり、呼吸が荒くなる。
姿勢だけは崩さず、ただ、呼吸音が響き渡っていた。
ダメだ。
耐えろ。
その思考とは相反して、思い出してしまう。
舌が痙攣している。
込み上げてきたのが分かる。
直ぐ様バイザーを上げた。
そのまま、吐いてしまった。
「た、隊長!大丈夫ですか?!」
なんて情けない。
……。
これでもあの地獄を見てきたのに。
あの時は吐かなかったというのに。
「た……隊長。無理しなくても……」
「良いの。ごめんなさい」
「……」
恐らく、今一番辛いのはサイパンだ。
仲間を失う事を覚悟している者ではある。
けれど、覚悟と、実際に起こるのとでは……訳が違う。
しかも、こんな経験は初めてだろう。
なんせ、彼は若い。
25歳だ。
それ故に、上司の私が吐くなんてのは……あってはならない事だったのだ。
吐瀉物は臭いを放ち、嘔吐を誘発しようとしてくる。
が、もう吐き出す物など無い。
「衛生隊は居ますか?!」
吐いた後とは思えないデカイ声が出た。
喉がヒリヒリとするが、そんなものを気にする暇はない。
直ぐ様、衛生隊員が駆けつけ、吐瀉物を処理してくれた。
……テロリストは、必ず私の手で殺す。
私は、特殊部隊としても、復讐者としても動く。
何としてでも、この戦いに勝つ。
ヘルメットを外し、両の頬を叩く。
そして、すぐにヘルメットを被った。
「ごめんなさい。もう大丈夫」
「……」
「行きましょう」
「ええ」
[ある程度集まったようだな!政府の人形ども!]
空港内から声がした。
拡声器で増徴された声であった。
事件前、デモ隊として集まっていた際にも、聞こえた声だ。
恐らく、主犯格。
一帯の空気が重くなった。
【貴様らに問う!何故貴様らは政府に従う!】
こんな言葉に耳を傾けるのでは、軍人ではない。
勿論、答えは無かった。
【分からんのか?だから貴様らは人形なのだ!】
【我々は、この不条理が嫌いだ!我々の土地を、踏み荒らし!文化さえも消え去りそうになっている!緑も、動物も!全てが変わり果てた!】
それは、既にデモの時点で腐る程聞いてきた言葉だ。
【誰も!お前ら政府は!この言葉に耳を傾ける様子は無かった!】
……。
【何故だ!何故……!我々の主張を受け入れない!】
確かに、政府側は侵略者に見えるかも知れないが。
部族長との和解もあった。その上での建国。そもそもの話、部族間の戦争が絶えなかったのだ。
それを和平させた。
……それを武力によって、行ったのは事実だろう。
だから、私達にも反論の余地はないんだろうし、デモ“自体“の正当性は、憲法によっても認められている。
だが。
これは一般人も巻き込んだテロ。
デモとテロでは、話が全く違う。
許される事では無い。
【聞け!政府よ!】
これ以上、何を聞けというのか。
【我々は!クイルァ解放戦線として!現クイルァ政府に!宣戦布告をする!】
……は?




