第88話 城使えの代償
『へぇ、本当に護ってくれるのかしらね』
言われたことを、すぐに報告。
クリアリは、できたばかりの台に茶器を載せて、背中は長椅子に預けて、寛いでいる。
もちろん、手には特注の焼菓子。
「使い心地は良さそうね」
猫足の台は、丁寧な作りが伝わる仕事だった。
「仕事が早くて、本当にびっくり。こんなものを一晩で仕上げてしまうなんて」
『当たり前ね』
当然と、クリアリは言う。
クリアリのために動いたことを当然と言ったのかと思ったら、怖いことを言う。
『だって、急がないと首が落ちるもの』
「えっ!?」
首が落ちるという単語に、どきりとする。
「王家の人は大抵我慢が効かないの。待てないのよ。だから、言われたらすぐ形にしなきゃ、自分の命がなくなるから仕事が早いの』
「そんな……」
理不尽すぎて、言葉を失ってしまった。
「見返りも大きいのよ。城使えとなれば、賃金だっていいから家族は安泰』
「…………」
代償が大きすぎるよ。
衝撃を受けている私に、クリアリはなおも続ける。
『あなたも、よ。城使えになったのよ、あなた』
「あ……」
言われて、呑気に構えていたことに気づく。
いや、けして呑気でいたわけではないけれど、保護されたとどこか安心していた。
前任者は、不正を疑われて即処刑されたんだ。
ダーリアさまが生きているから、失念していた。
肝に銘じていないといけないことなのに。
「もう死にたくないわ」
『だったら、自分でも動くことね。ただ城にいるだけじゃなく、せっかくの立場を利用する。アーリアの影を……』
なにかを言いかけて、クリアリは首を振ってそれを止めた。
『私、満足したし寝るわ』
台の上に出した、焼き菓子の山がなくなっていた。
その小さな体のどこにしまわれているのか、いつも不思議に思う。
『次は、そうね。塩漬けの肉とワインかな』
図々しく、希望を言い残すことも忘れない。
クリアリ、あなたは本当に女神なの? と問いたい時があるわ。
「ワインは、白しか用意しないわよ。赤にはいい思い出がないの」
『仕方ないわね。じゃお休み』
ひらひらと手を振って、クリアリはすっと消えてしまった。
「ごめんね、クリアリ」
戻ってしまうと、聞こえてはいないようだけれど。
肉には赤と、私も知っている。
でも、どうしてもあの時飲まされた毒を。
吐き出した血で濡れた服の感触を、あの赤を見ると思い出してしまうのよ。
「だけど、なにを言おうとしたの? お母さまの影って?」
言わなかったことは、聞いても答えてくれないだろう。
私が調べる? なにについて?
「ここの数字、書き換えられています」
おはようっ。みじかいっ。
でも、続けると長くなっちゃって更新も遅れちゃうなーとここで区切りをつけてみました。
リーディアにクリアリという話し相手がいてよかったなと思うんですよね、食い意地張ってても。




