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第87話 ひみつ、ひみつ

 小さな音だった。

 叩かれた扉を開けると、モアディさまとイリが立っていた。

「イリも!?」

 声を上げると、シッと口元に指を立てて静寂を要求される。


「入ってください」

 どうやら、ここに来るのは公ではないらしい。

 後ろを振り返り、ふたりは誰も見ていないことを確かめてから部屋の中に入ってきた。


「呑気だな、お前。聞いたぞ、城の台所係に焼き菓子やサンドイッチを多めに作らせてるそうじゃないか」

 机の上の茶器を見て、イリは嫌味を口にする。

 ぜんぜん呑気ではありませんけど!

「細いのにどこに栄養が消えているのか、今度うちの医療班に調べさせたいですね」

「…………」


 昼間の仕返しだろうか、モアディさままで。

「なにしに来たんですか? 嫌味言いに来たなら、この暇人って罵りますよ」

 むかっとくる会話だけれど、私の行動をもう把握していることはわかった。

 私が城でなにをしているか、二人は知っているんだ。

 これは気を付けて行動しないといけない。

 クリアリは、この部屋に魔法が仕掛けてあったらわかると言っていたけれど、天秤の取り扱いには注意が必要ね。


「ちょっとこの部屋に霧を落とす」

「は? 霧? こんな室内で?」

 私が問い返したら、バカにしたようにイリが笑う。

「結界のひとつだ。いまから内密の話をするからな」

 

 だったら、そう言えばいいじゃない。

 知らないことをバカにされるの、本当に腹が立つ。


「帳の精霊よ、降ろしてくれ」

 随分と短い詠唱だったのに、なにかが降りたのは肌でわかった。

 透明の膜に阻まれた感じで、外からの音も遮断される。

 こんな魔法、モアディさまにはため息混じりにできてしまうものなのね。


「時間をとると疑われる。手短に説明するから一回で理解しろ」

 誰になにを? と聞いている時間もなさそうだと察するほど、さっき私を馬鹿にしたのが嘘のように引き締まったイリの顔だった。

 私に分かる話だといいのだけれど。


「まず、家の前で死んだ悪漢だが、拠点を割り出しはしたものの全員死んでいた」

「えっ!?」


 私を襲った悪い奴らだけれど、死んだと聞かされるのは衝撃がある。

「誰が殺したかはいまのところ不明、だが僅かに魔法の痕跡が残っていた。それも闇魔法の」

「闇魔法!?」

 聞いただけで禍々しい。


 窓から見える、練習風景には魔法鍛錬もあった。

 それぞれに得意分野があり、それを属性と呼ぶのだそう。

 聞かなくとも知ってる。

 モアディさまは氷。

 炎や水や風、いろいろあるけれど殆どは「光魔法」に属するんだとか。

 その対極が闇魔法。

 禁止されている命を直接奪うことなど、厭わないという。


 スハジャに行った時、宿で聞いたこと。 

 魔法って便利なだけじゃなく、怖いものだって習った。

 闇魔法を使ってくる相手にも勝てるよう、モアディさまたちは日々鍛錬しているのだとか。

 国を護るって、本当大変で私たちはただ暮らしていたから知らないことだった。


「そのおかげで、尻尾を掴んだ。首謀者は、ジュンリカさまの手の者だろう。証拠は、掴めなかったが」

 悔しそうに、イリは言った。

 尻尾は掴んで証拠はなくて。

 それって、決定打ではないってことよね。

 怪しいって言うだけ。

 だからこの情報はまだ内密。

 

 私はわかった、とただうなずいた。


「お前を家においておくのは危険だ。だから、(ここ)で匿うことにした。お前、成績いいんだな」

「あなたの名前が女史から挙がったときは、意外でしたよ。おかげで疑われることなく城へ呼べましたけど」

 

 成績が良かったことを褒められたの?

 それとも、馬鹿だと思われていたの?

 喜ぶべき? 怒るべき?


「あなたが狙われた理由がわからないので、あなたはここで仕事をこなしながら狙われてください」

「は?」


 ちょっと、言っている意味がわからなくなってそう返してしまった。

「敵の証拠を押さえるためだ。俺たちがお前を護る。それは約束する」

「イリ……」


 イリとモアディさまの強さは信じられるけれど、でも誰かに命を狙われる緊張感に耐えろってことよね。

 すごく怖いのに。

 だけど。


「わかった。私はただ仕事をします。裏帳簿を誰が作ったか、なんのためか、調べたい。だから、私のことを護ってね」

 そうお願いしたら、ふたりは笑った。


「あぁ」

「承諾した」

 そうそれぞれ答えてくれた。


 私は私の、ふたりは二人の、やることができた。


こんにちは。なんとか水曜更新です。

私生活で、ちょっとイラッとすることと困ることと楽しいことが重なって、結果もやもやしております。

なにもない日々はつまらないけど、なにも重ならなくてもいいじゃんね。

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