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第83話 理由

「お久しぶりね、リーディア・カイゼン」

 ノックのあと、許可が出て扉を開けて入室した私を、かつての恩師がにこやかに出迎えてくれる。

「スジェ先生っ」

 穏やかな懐かしい微笑みとの再会に、気分が跳ねる。

 つややかな黒髪を後ろできっちりまとめて、先生はいつも几帳面だった。

 今日も華美な装飾のない濃紺のドレスに、同じ色のかかとの低い靴を履いている。

 学園にいた頃と同じ。


「懐かしいなんて変ね、なんでそう思ったのかしら」

 手を差し出して握手を交わすと、先生は首を横にかしげながらフフと笑った。

 私は内心冷や汗をかく。


 先生からしたら、学園を去ったのは最近。

 久しぶりに会う、というわけではない。

 そんな空気を感じてしまっているの?

 私までそう感じるとさとさせるのはまずいよね。


「あなたの名前が候補に上がった時、迷うことなくあなたを選んだの」

「そうなんですね。光栄です」

 椅子を勧められ、私と先生は長椅子に並んで座った。

 テーブルの上には、なにかの数字が書かれた書類が積まれている。


 数式は苦手意識があった。

 だけど、お母さまが苦手なままは良くないことだと言って、個人教師を雇ってくれたおかげで、成績は上がったのよね。

 上がっただけで、苦手意識はまだあるのだけれど。


「私も驚きました。スジェ先生が突然お辞めになって」

 学園で教えることは、女性が職を持つ最上の役職と憧れられている。

 地位も知識も兼ね備えていないと、成れないからだ。

 それをあっさり手放してしまったことに、当時の私は驚いた。

 まさかの城勤めなら、納得だけれど。

「だって」

 その理由は、私が思っていたものとは違ったけれど。


「だって、ここには読みたくてたまらなかった蔵書がたくさん埋もれているのよ。引き受ける代わりに、私は蔵書室の出入りを許されたの」

 ふふん、と楽しそうに先生は話してくれた。


 そうだった。

 スジェ先生は本の虫、餌は難解な古書、なんて囃し立ててるひともいたぐらいだったわね。

「だから、こんな城の中でも外れな部屋を使うことになっちゃったんだけど、ごめんなさいね」

「はずれ?」

「じきにわかるわ………ほら始まった」


 ガキィン!

 ジャキン!

「たあっ!」

「ドラァッ」


「………ほらね、ここうるさいのよ」

 先生は顔をしかめる。

 耳を刺す、金属がぶつかり合う音。

 これは………。


「軍の練習場の真横なの」

 窓の前まで行き、カーテンを開けた向こうに見えたのは、剣を手に鍛錬している男たち。

「蔵書室から本の持ち出しまでは許可が降りなくて、仕方なくなのだけれど、うるさいわねぇ」

 やれやれというように、お手上げの仕草で先生は苦笑した。

「あとで魔法で防音をかけてもらいましょう」

「そんなことできるんですか?」

「してもらわないと。それぐらいできるでしょ、あの人なら」


 そう言って先生が指さしたのは、剣を交えるその向こうで優雅にお茶を飲んでいるモアディさまだった。

 



さくって読める閑話休題回、みたいなものです。

お城って入ったことあります? 私は日本の城しかないです、松本とか。

先日、ちょっと切って縫う事があり、運動できないので食べないようにしなくちゃなのですけど、甘いの食べたいっっっっ。


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