第78話 もうひとつの接近禁止
嫌な予感しかしなかったけれど。
この地獄絵図みたいなものはなんなのかしら。
「なにを考えているんだ」
静かにかけられた言葉。
まだ怒鳴られたほうがマシだったわね。
「なんのことでしょうか」
食卓、赤いワインを片手にゆっくりと葉巻の煙を深く吸い込むお父さま。
その隣に、口元を羽のついた扇子で隠した継母ハモラ、その隣には義妹のクミンが私に対面している。
シクシクと泣くクミンは、なんで泣いているのかしら。
私のせいじゃないわよね?
だって、会ったりしていないし忙しかったからなんの接点もないはずだもの。
ではなぜ呼ばれたの?
「私、あなたになにかした?」
泣くばかりで顔も上げないクミンに、私は尋ねた。
なにのクミンは、ぽたぽたと涙を落としてチラチラとお父さまを見るばかり。
「今日はクミンの勉強の日だったのに、お前が邪魔をしたそうだな」
指でトントンと机を叩きながらお父さまは言った。
イライラしているのだろう。
でも声を荒げなかったのは、隣りに座る女に「いい男」を演じるため?
「なんのことだか、心当たりがありません」
ここで私が家にいなかったことは話せない。
帰ってきたら、家の前に死体が転がっていて、それはユハスさまが退治した悪党だった。
言葉にするのは簡単だけれど、そこに至るまでのことを話す事はできない。
あの悪党たちは、誰の指示で私を狙っていたの?
それがわからない。
私は、この親子の可能性があるかもしれないと思っているから。
「勉強の途中、ユハスは席を立ってお前のとこへ行ったらしいな」
「途中で?」
そんなこと知らない。
ユハスさまは、クミンといたとはいまはじめて聞いた。
「ちょっと大事な用ができたって………ぐすっ………そのまま帰らなかったわ」
まるで補足するように、やっとクミンは口を開いた。
「姉であるあなたが、必死に学をつけようと頑張っている妹の邪魔をするのですね」
「ひ、ひどい………お姉さまがそんな意地悪だったなんて」
ハモラの言葉に、傷ついたようにクミンが反応する。
「あぁ、可哀想に可愛いクミン。大丈夫だ、今後リーディアにはけして邪魔はさせんからな」
立ち上がってクミンのもとに行くと、お父さまはその頭を優しく撫でた。
私に向き直ると、「わかっておるな」と睨みつけてきた。
「わかりません。私はなにもしていない」
毅然とした態度が、ここでは逆効果だったと後悔するのは、言ってしまってから。
「とにかく、お前は今後ユハスと会うな、話すな。ユハスはクミンの家庭教師だからな。邪魔をしてくれるな」
「そんな………」
ユハスさまは、私を助けてくれた。
このままクミンとユハスさまが接点を濃くしたら、あれが繰り返されてしまう。
反射的に、私は自分の首を触って確かめた。
大丈夫、繋がっている。
「私はなにも知らなかったことです。ユハスさまは心配して来てくれただけで」
ハモラが、言葉を遮るようにパチンと扇子を閉じた。
見えたその表情は、怒りではなかった。
薄っすらと、口元に笑みが浮かんでいた。
「ねぇ、あなた」
クミンの肩に置いたお父さまの手に、ハモラは自分の手を重ねてお父さまを見た。
「リーディアは学園で良い成績なのでしょう?」
「あ、あぁ」
なにを言い出すのか、上目遣いでお父さまを見る。
まるで、「素敵なドレスを作ってくださらない」とねだるような媚びを含んだ目だった。
「だったら、もっといい学校を知っているの。そこの出身者は、何人も王政に関わる職に就くそうよ」
「学校?」
ハモラの突然の言葉に、その場にいたものは一瞬なんのことか理解できなかった。
「以前訪れたマカートにあるの。宿舎があるから、あなたも安心して預けられるでしょう?」
「マカート!?」
出てきた国の名前に、私は驚いて声を上げてしまった。
マカートはここから3日は馬を走らせないとつかない遠国。
それに最近は隣国に攻め込まれて、争いが起きたばかりで治安も悪いと聞いている。
そんな国を勧めてきたの!?
「おいおい、マカートはいまは無理だ」
流石にお父さまも情勢を知っているのか、首を振ってくれた。
「いまは?」
そう聞き返したのはクミン。
嫌な空気だ。
「いまはな、娘をマカートに送ったとなればお前たちに変な噂が立ってしまうよ」
いまは、というところをお父さまは強調した。
その考えに賛同する、ということなのだろう。
嫌よ、絶対に嫌。
普段から、女は賢いと扱いづらいと公言していた人が、勉学のために娘を転校させるなんておかしい。
邪魔者を消したいだけじゃない。
離れに追いやっただけでは、物足りないというのかしら?
「そう、いまはだめなのね。残念」
なにが残念なのか、ハモラはぱっとお父さまの手を離した。
気分を害したと感じたのだろう、お父さまは私に声を荒げる。
「いいか、ユハスとクミンの邪魔をすることは許さんからなっ」
マカートにやられないために、私は返事するしかなかった。
「………はい」
頭の中で、二人の距離が縮まってしまったらどうしよう、また首を切り落とされる、そればかり浮かんでしまった。
寒くなってきましたね。クミンに苛つきますね。
栗で有名なところで、栗を堪能していたら更新が遅れました。
使ってるノートが調子悪いと言ったら、いつもお世話になっている先生が使っていないノートを譲ってくれてその初期設定に時間とられています。
処理が早くていい子のようです。




