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第77話 「疑」「信」

 天秤の力には、限りがある。

 それはクリアリに聞いている。

 正誤を答えてくれるけれど、それは具体的ではないし何度も審判を委ねることはできない。

《それを理解した上で私を呼び出しなさい》

 クリアリはそう言った。

 審議にかける問題は慎重にしないといけないけれど、聞きたいことが多すぎる。

 でも早急に聞きたいのは。


《それでいいの? じゃ、天秤にかけなさい》

 クリアリに促され、私は天秤の前に立つ。


左に『疑』も右に『信』。


 そう書いた文字。

 

「あの鏡を託したイリの言葉を私は信じたい」


 左に『疑』も右に『信』を置く。

 天秤は少しだけ右に左に傾いて、すっと真ん中で静止した。


《審判》


 クリアリの声に反応して、天秤は光につつまれる。

 何度見ても、不思議で神々しい。

 光がすぅと天秤に吸い込まれるように消えると、天秤が傾き始める。


《ふぅん》


 ゆっくりと天秤が右に傾いたとき、面白くなさそうにクリアリはつぶやいた。


「天秤の審判は違わないのでしょう?」

《違わないわね》

「なら、会ってもいいよね?」


 クリアリがなんだかどんどん不機嫌な顔になるものだから、伺うように聞いてしまった。

 だって天秤は信じていいって言ってるのよ? なんでクリアリはそんなに反対なの?


《私はもう帰る》

「え? もう? お菓子もお茶も残ってるよ!?」

 こんなクリアリははじめてだ。

 

《次までとっておいて。あなたも早く寝なさい》

 難しい顔でそう言って、クリアリは天秤に戻ってしまった。


「次っていつよ………」

 聞きたいこと話したいことまだあるのに。

 だけど、眠たいのも確かだ。

 身体が若いせいか、多少の無理は効くみたいだけれど、それでも疲労は濃い。

 いろいろ考えたいのに、頭が働かない。

 悔しいな。


「起きてから考えよう」

 うん、そうしたほうがいい。

 そう思って、寝着に着替えようとしたとき、乱暴に扉を叩かれた。


「お嬢さまっ! リーディアさまっ」

 聞きなれない男の声。

 でも、私のことをお嬢さまと呼ぶということは、向こうの使用人ね。



「はい、なんの御用でしょうか」

 扉越しに、私は尋ねる。


「旦那さまが屋敷にお呼びです。いますぐ来るようにと」

「………わかりました」



 返事を返して、手にしていた寝着を寝台に置く。

「嫌な予感しかしないわ」

 クリアリはいないけれど、天秤に話しかけた。


 眠いのに、寝たいのに、嫌なのに、お父さまの呼び出しには応じざるを得ない。

 せめて、着替える前で良かったと思うしかないわね。

 ため息だけつかせて。


「ふぅ………じゃぁ、行ってくるわね」

《気をつけなさい》


 クリアリが、そう返してくれたような気がした。 


呼び出されたよっ。

嫌な予感しかしないよね。

学生の時、職員室に呼び出されたあの時の気持ち………ふふ。

遅れてごめんなさい。

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