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第75話 接近禁止

『あなたなにを持ち込んだの?』

「え?」


 クリアリの怪訝な表情に、私は困惑してしまった。

 てっきり「どうしてたの?」って心配してくれると思ったのに。

 ずっと呼び出さなかったから、怒っているのね。


「ごめんなさい、ちょっと色々ありすぎて呼び出せなかったの」

 私はゴソゴソとバスケットを取り出して机の上に置いた。


「あのね、あとで話すけれどスハジャの伝統的な焼き菓子をもらったのよ」

 ひょっとして、クリアリはスハジャのお菓子が苦手なのかしら。

 たしかに香草を焼き込んでいるから、ちょっと独特だけれど。

 この匂いが、だめだったのかしら。

 クリアリ、鼻がいいものね。

 前も、『勿体つけないでさっさと隠してる焼き菓子を出しなさい』って、私があとで食べようととっておいたものを嗅ぎ当てて、独り占めしようとしたって怒ったことあったものね。


 あの時のクリアリの怒った顔を思い出すと、笑いが込み上げてくる。

「香草が入っていないのもあるから、苦手なら………」


《お菓子じゃないわよ》

「え? 苦手じゃないの? じゃあ、なにが気になるの」

 フンとまるで心外だという仕草に、私は首を傾げる。


《まどろっこしいわ》

 クリアリが、ちょいちょいと私を手招く。

 ああ、アレをするのね。

 察して、私は腰をかがめてクリアリに顔を近づけた。

 クリアリがお菓子より優先するんだもの、きっと大事なことなんだ。

 私は覚悟する。


 ぴとりとおでこがクリアリと繋がると、あの優しい温かさが流れ込んでくる。

 目を閉じているとお母さまのあの優しい手が、私を撫ぜてくれた時を思い出させる。

 これの逆ができればいいのに。

 私も、クリアリの思い出を見てみたい。

 だってそこに、絶対お母さまがいるもの。

 

 夢でもいい。

 世界でいちばん、逢いたい人。


 今度、頼んでみようかな。


《できないわよ》

 おでこが離れると、残念そうにクリアリは言った。

 ぼんやり考えていたことが、クリアリに流れてたのね。

 そうだ、考え読まれちゃうんだった。



「そっか。いいよ、いいよ。私の知らないお母さまをクリアリから聞くだけでも、じゅうぶん」

 お母さまがクリアリを遺してくれたことが、お母さまの私への想い。

 あれもこれも、望んじゃいけないわね。


《ふたりは信用できるの? あなたをスハジャに連れて行ったのは本当に偶然かしら………あ、私香草入りのお菓子大好きだから早く出して。ソファーがないのは不便ね。テーブルも》

 クリアリは、テーブルの上の小物入れをズルズル引っ張ってくると、その上に腰を下ろした。

 今日はユーがいないから、もたれかかれないものね。

《とりあえずあの箱でいいからそこにチーフでも…ああ、あのレースでいいわ。箱に被せてここに置いてよ。あ、ティーセットもね》

「はいはい」

 あれこれ指示された通りに用意して、私も椅子に座るとクリアリはもうお茶を入れて焼き菓子のひとつを頬張っていた。

「………………………」

《ふぁ、ふぁによ。ゴクン。私へのお土産なんでしょう?》

 私の無言の呆れを感じ取って、クリアリは口の中のものをお茶で流し込んだ。

「そうだよ。だからゆっくり味わってよ」

 

 あとでキリカとダリア服飾店に頼んで、小さいテーブルや椅子がないか探してもらって、ミンキーのハギレでカバーを作ってと頼もう。

 気持ちよさそうだけれど、いつまでもユーが背もたれではかわいそうだものね。


「それより、ふたりってモアディさまやイリのこと?」

《そうよ 私だってぜんぶ読み取れたわけじゃない。スハジャにあなたを連れて行くなんておかしいじゃない》

「うーん………たまたまだと思うけどな」

 ちょっと強引過ぎたフシはあるけれど、私の不用意な発言と悪いタイミングが重なっただけだと思う。

「クリアリの考えすぎよ」


《でもね アレはなにか意味があるとしか思えないわ》

「アレ?」

 なにかあったかしら、ぜんぶ思い当たるからどれのことやら。

 私、色々ありすぎて。


《鈍いわね。護衛の男から、鏡を貰ったでしょう》

「鏡? あ、あぁあれね。持ってくる?」


 いち早くクリアリに会いたくて、まだ荷解きをしていない。

 お菓子だけは別で持っていたから、鞄はまだ廊下に置いたままだ。


《だめよ アレを私に近づけないで。天秤にも、よ》

 クリアリは、いつになく険しい顔だった。

「わ、わかったわ。倉庫代わりの部屋に置いておく」

 預かりものだから、盗られないように後で奥の方に隠しておかなきゃいけないわね。

 でもクリアリがこんなに拒絶するなんて。

「なにがあるの? 確かに美しい細工のものだったけれど、映らない鏡だよ」

《映らない………?》


 次の焼き菓子に伸ばしたクリアリの手が止まった。

「映らなかったわよ。割れてはいなかったけど、鏡面が真っ黒だったもの」

《そのこと、誰か見てた?》

「見た、というか、イリいには言った」

《そう》 

クリアリは目を伏せた。


「クリアリ?」

 こんな美味しいお菓子を食べているのに、なんで気持ちが沈んでしまうの?

 色々あったけれど、多少の被害は出たけれどたくさん人が死ぬことは避けられたのに。

 いい報告できたと思ったんだけど、そんなにあの鏡がやばいやつなの?


《あなたも近づかないこと》

「え、えぇ」

《審判は覆らない。イリに天秤は傾いたのにな………魔法師の差し金か?》

「な、なにが?」

 クリアリは腕組で考え込んでしまう。

「もうあのふたりにも接近禁止よ」

「えぇっ!? ど、ど、どうして?」

 接近禁止なんて、そんな強い言葉でクリアリが釘を刺すなんて。

 特に今後の約束はしていないけれど、イリには売上の一部を渡さなければいけないからそれは無理だ。

《いいから、私の言うことを聞いて》

「でも、イリにお金を………」

《そんなの商会を通せばいいだけよ。もともと、そのイリの商会なんだから》

「あ、そうだったわね」


 でも、私はもうふたりを身近な存在とし始めていた。

 自分でも驚いている。

 接近禁止されて、それは嫌だと思うぐらいに。 



《あの鏡はね 神器よ 私と同じ》


私が風邪を引いたり、パートナーが移ったり、また戻ったりして寝込んでました。

あと習い事に時間割いたりしていたら、あらあら時間なくなってる!? です。

割とマルチタスクはこなせる方なんだけど、時間だけはどうにもならなかったん。

おまたせしました!

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