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第71話 預かり物

「なんだったの! なんだったの!!!」

 

 自室に戻ってすぐ、荷物をまとめる前に枕に顔をうずめて叫んだ。

 呼ばれて行ったモアディさまのところで、私はなにをされたの!?


 ダンス以外で男に抱きしめられたのは、二人目だ。

 一緒に踊るのとわけが違う。

 とても密着していたし、モアディさまの衣から焚き占めた香の匂いがふわりして、ドキドキしてしまった。


 バタバタしていると、用意はできたのかとイリが扉を叩いた。

 いけない、すぐにここを出発すると言われていたんだった。


 ガンガン。

 叩く音が「まだか」に変わった。


「もうできました!」

 畳むのはあとでも出来るので、とりあえず鞄に放り込んで返事する。

「出発前に渡したいものがある」

 迎えに来たのだと思ったけれど、イリはそういいながら入ってきた。

 手には、深い緑の上質そうな袋。


「なんですか?」

 イリひとりだった。

 モアディさまは、まだ準備ができていないのかな?

 さっきまで寝込んでいたからね。


 元気出たみたいだけど。



「これをお前に持っていてほしい」

 そういうのに、なぜかイリは横に視線を外して私を見ないまま手渡す。

「これは?」

 ずしりとなにか重い平たいものが入っている。

「開けて確認してくれて構わない」

 許可が出たので紐を解いて中を取り出してみた。

「これは?」

 

 確認しても、私の疑問は同じ。

 それは丸い手のひらより少し大きいもので、裏面にはとても凝った花と鳥の彫刻が刻まれていて、真ん中に紐が結ばれている。

「鏡だ」

「鏡?」

 なるほど、この紐を持って自分を写すのね?


「母の形見だ」

「え!? お母さまの!?」

 イリが言い出したことに、驚いてしまった。

 形見ということは、イリもお母さまを亡くしているのね。

「俺はこれから戦いになる。だから、お前に預かっていてほしい」

 ぽそりと口にした言葉は、とても重かった。

 戦い? イリは戦場に行くのだろうか。

 傭兵って、主を持たず自分で選んだ戦場に赴くのよね。

 イリはどこかに行ってしまうの?


「預かるだけですよ。必ず引き取りに来てくださいね」

「あぁ」

 イリは、いつものように唇の端だけあげて笑った。


「相当古いものですね。鏡も写らないし…でもすごく凝った細工」 

 約束に少しだけ安心した私は、表に返して鏡を覗き込んだ。

 裏がこんなに細工を施されているなら、表は?

 だけど、そこにはなんの艶もないざらりとした面があるだけで。

 私を元より美しく写してくれたりしないかしら、なんて淡い期待しちゃったじゃない。

 磨きに出したらまた使えるかもしれないけれど、とてもいい細工のアンティークだから磨きに出したらとてもお金がかかりそうだけれど。

 だからイリも、そのままにしているのかもね。


「写らないか、そうか………」

 残念そうに言うから、助言をあげた。

「帰ってきたら、私の友達の店に持って行ってみればいいわ。街の骨董屋だから、磨き直しとか相談に乗ってくれると思うわよ」

 

 だからお願い―――――。


「安くしてくれるように、掛け合ってあげる。友達価格ってやつにしてって」


 だからお願い、必ず帰ってこれを取りに来て。



「くっくっくっ………」

「え?」


 イリが突然笑い出すから、どうしたのかと。

 お別れの挨拶みたいなものよね、いま。


 戦場に赴くものが、大切なものを預けてお別れの言葉を。

 必ず戻ってって、お約束の。



「“戦う”って、いろんな意味があるんだぞ」

 笑いをこらえながらそんなことを言われた。


「悪いがまだお前に付きまとうぞ。まだ金も受け取ってない、忘れてんのか?」

「え? お金!? そ、そうだよねっ」


 やだ私、なにを勘違いして感傷的に空気作っちゃったのっ。

 恥ずかしさに、カーーッと身体が赤くなる。


「さて、今回はどこにもよらず休まず一気に行くからな」

「え? 休まないの!?」

 私、お尻もたないよ!

「ゆっくり帰ろうよぉ。ほら、モアディさまだって万全じゃないし」



 私の荷物を持って部屋を出ていこうとしていたイリが、呆れた顔で私を見る。



「お前、自分の家の侵入者の件忘れてないか?」


 わ、忘れてないよ。

 でも、お尻が倍ぐらい腫れちゃうのは嫌なのよ!!!


来週は夏休みをとっていて、お休みです。

勘違いでこっばずかしいことあります?

預かっているものを手渡してくれって伸ばされた手を、握手かな?って思って笑顔で握手したことあります、私。

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